第618回/いつもと同じ、雨上がりの朝 - 雨の降る夜(ランド) - シリアス・感動系
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第618回/いつもと同じ、雨上がりの朝 - 雨の降る夜(ランド)

シリアス・感動系
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雨の降る夜

雨の降る夜■制作者/ランド(ダウンロード
■ジャンル/居場所を失った男女の青春ノベル
■プレイ時間/40分

主人公は進学校に籍は置いている高校生だが、学校には居場所がなく、ろくに授業にも出ていなかった。彼を唯一気にかけてくれるのは、生徒会長の相沢美咲。そんな彼は、同じく学校に居場所がない女生徒と偶然出会う。彼女は些細なことからクラスでいじめを受けているという。2人はそれから時々会うようになったのだが。全編重い青春物語。

ここが○

  • 整った文章。
  • 暗い物語だが、どことなく希望を感じるラスト。
  • 主人公2人の微妙な関係の描き方。

ここが×

  • 暗く重苦しいので、プレイヤーを選ぶかも。
  • 感情移入する事が難しい。
  • 何となくわだかまるラスト。

■いつもと同じ、雨上がりの朝

今回も少し前に公開された作品のご紹介です。この作品は、初出2012年。7年前の公開です。しかも立ち絵は一切ない絵だけの地味な作品ですし、ふりーむの紹介文もさほど読み手の興味を惹くような煽り文句がある訳でもありませんから、なかなかこれをプレイしてみようと思う方もいないでしょう。ふりーむでもレビューが1件も付いていませんし。

しかも、内容も最初から最後までかなり重苦しく、陰鬱です。お世辞にも、読んで元気になれるというようなタイプの物語ではありません。主人公も、読者の感情移入を拒むような性格ですので(決して悪い男という訳ではないのですし、この他者の共感を拒むようなところこそ、主人公の肝とも言える性格である気もするのですが)、物語に没入して読むようなシナリオでもありません。

雨の降る夜が、この作品は、だからと言って放っておくのは勿体無い、鈍い輝きを放つ一作です。もちろん、エンターテインメント性は高いとは言えませんし、決して前向きとは言えない物語ですが、ラストまで読み通すと、何ら変わらぬ毎日が今後も続く事を示唆しつつ、着実に「何か変わった」事をも感じさせてくれて、ある意味それまでの後ろ向きな展開を、非常に消極的ながら払拭してくれるラストシーンだと思いました。

主人公(何とこの作品、生徒会長の相沢美咲以外は、主人公も女生徒にも名前がない)は、進学校に通う高校生ですが、学校には居場所がないと感じており、ろくに授業にも出ません。この辺りで私は中二っぽい空気を感じてしまったのですが(笑)、この主人公は、変に世の中に責任を転嫁したり、全てが無価値だと虚無的になったりせず、高校生らしい素直さも見せてくれます。感情移入しにくい主人公ですが、その意味で、ちゃんと「高校生らしい」ところを残してくれているところに、作者さんの高いバランス感覚を感じました。

学校に居場所がない主人公が、唯一自分の場所だと感じていたのが、生徒会室です。と言っても本来の生徒会室ではなく、空き教室を生徒会長の相沢美咲が使っているだけなのですが、主人公もここに時々足を運び、時には美咲の仕事を手伝わされたりもしていました。主人公と美咲の、飾らないやり取りは、陰鬱になりがちなこの作品において一服の清涼剤でした。

主人公はある日校舎裏で、自分と同じく居場所を無くしている女生徒と出会います。彼女は、些細な事でクラスの中でいじめを受けていたのです。2人は何となくお互いの境遇に近いものを感じたのか、主人公は女生徒を生徒会室に誘います。それから2人は何とは無しに、時々会うようになったのでした。この2人の微妙な距離感の描き方がいいですね。変に恋愛方向に振らなかったからこそ、2人の「ほんの僅かな共鳴」がよく描けていたように思います。

そして後半。主人公はいつものように生徒会室にいたのですが、見知らぬ男子生徒から、「生徒会長に近付くな」と言われてしまいます。唯一の居場所で、唯一の理解者と関わる(主人公自身は、それほど嬉しそうに関わっている訳ではないですが)事すら否定され、主人公は一層退廃的な考えに陥ります。そして女生徒に主人公は……。ここから先は書けませんので、読んで確認してみてください。ラストの手前で私は「え、まさかそんな終わり方するの!?」と、驚きました(その後最悪の結末にならず、胸を撫でおろしました)。

ラストは決してハッピーエンドではありません。主人公や女生徒の境遇が何か変わったという描写もなされません。しかし上に書いたように、ラスト前の大イベントを潜り抜けた事で、2人は以前とは見える景色、感じる気持ちが今後変わっていくのではないかと思いました。その意味で、積極的に状況が変化する前向きなエンドではないものの、2人の最後の簡素なやり取りだけで、少し前向きな気持ちを感じさせてくれます。「描き方」ではなく、「描かなさ」の塩梅が絶妙でした。かなりの筆力の作者さんだと思わされました。

楽しい作品、前向きな作品をお求めの方には、向きませんし、私自身も手放しで推薦するかというと、そんな事もないのですが、点数評価には現れなくても、いつまでも印象に残る作品というのは、こういうものの事をいうのかも知れません。冒頭に、捨て犬に関わる女生徒たちの偽善めいた描写を置いて(「かわいそう」という感覚を抱くだけ、まだ上等なのではないかと私は思いますが)、ラスト近くにそれと対比するイベントを置くのは、構成的にも物語的にも上手いやり方だと感じました。

ツールはLive Makerです。選択肢はなく、40分くらいで読み終えられるでしょう。「読む」「プレイする」ではなく、「味わう」つもりで読んでみるといいと思います。楽しめる物語かというとそんな感じではないのですが、主人公と女生徒の生き様には、きっと心を動かされるはずです。
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