第621回/雨降る街に集まるピース - 雨のモザイク(Gliese16) - 日常
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第621回/雨降る街に集まるピース - 雨のモザイク(Gliese16)

日常
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雨のモザイク

雨のモザイク■制作者/Gliese16(ダウンロード
■ジャンル/クラス会中止日常ノベル
■プレイ時間/30分

高校を卒業して3ヶ月。尾形桂一の元にクラス会の知らせが来た。卒業してまだ3ヶ月なのにと思いつつ、クラス会に参加すべく目的の駅まで来たところで、幹事の体調不良により、突然の中止の連絡が届く。仕方なく桂一は、着いた街で気の向くままに散策する事にした。分岐により色々な登場人物の関係などが明らかになる、味わいのある短編ノベル。

ここが○

  • 丁寧で読みやすい文章。
  • 短いながら分岐ものとして本格的な作り。
  • 分岐により思わぬ人間関係や過去などが見える懐の深さ。

ここが×

  • どのルートも終わり方が呆気ない。
  • 一本の幹がある訳ではなく、少々中途半端。
  • 沢村さんルートはもっと踏み込んで欲しかった。

■雨降る街に集まるピース

クラス会、同窓会を題材にした作品は、多そうで意外と少ないようです。テーマとしては色々な発展のさせ方があって面白いと思いますし、色々な要素を絡める事ができて面白いと思うのですが。「君と再会した日」と、あとは「ティラノゲームフェス2016メンバーズコレクション」に同窓会をテーマにした作品が入っていましたね。

とは言え、この作品の主人公は同窓会に出席しようとするのですが、純粋な同窓会ものとは言えません。何故なら、冒頭で同窓会が中止になったという連絡が入るからです。同窓会って、出席する為に遠方から来る人もいるでしょうし、当日に中止の連絡というのも大変な話です。そういう訳で、行き先を失ってしまった主人公の尾形桂一が、当てもなく街をふらつくところから物語が始まります。

雨のモザイクこの作品は、短編ではあるのですがかなり選択肢が多いです。私が確認したところでは、エンディングは9種類。ルートにもよりますが、1本のルートは5分程度だと思います。分岐ものって、しっかり作り込むのは難しく、どうしても「選択肢間違えたら即終わり」みたいになる事が多いのですが、今作は分岐した結果の物語が多岐に渡っており(それほど大げさな展開はしないですが)、久々によくできた分岐ものを読んだ気がしました。色々な登場人物の物語が集まって1つの作品を形成している様は、正に「モザイク」です。

分岐ものの醍醐味って、「ifを体験できる」事だと思うのです。その意味でこの作品は短いにも関わらず、分岐ものとして非常によく作られています。そして分岐した結果、色々な事実がプレイヤーに明らかになります。それは、主人公桂一の家庭環境だったり、クラスメイトの意外な一面だったり、密かに自分に想いを寄せているかも知れない女の子の気持ちだったり、色々です。

そのような、「このルートを辿ったからこそ知り得た情報」というのが、短いプレイ時間で色々と詰め込まれています。しっかりとした設定があればこそでしょう。短い作品ですが、非常にしっかりと考えて作られた作品であると感じました。文章だけの作品ですが、登場キャラクターも性格付けがきちんとされており、軽妙なやり取りを楽しめます。文章力も上々で、しかも決して分かりにくくありません。

ただ、物語として見ると、きちんとした起承転結がある訳ではなく、ラストも何か落ちがつくでもなく、突然終わってしまいますので、娯楽性の高い物語を読みたい方だと、少し不完全燃焼を感じるかも知れません。密かに主人公に心を寄せているっぽい沢村さんや、主人公の両親のエピソードなど、幹として据えれば魅力的になったであろう設定はありましたので、そこらをメインに、1つくらいはきちんとした落とし所があるルートがあっても良かった気がしました。

特に沢村さんの描写が、何とも言えず中途半端に感じてしまいました(冒頭にあんなエピソードも入っているのに)。一応沢村さんエンドもあるのですが……。まあこの作品は恋愛ものではありませんから、ああいう終わり方もありかも知れませんが、もう少し踏み込んで欲しいように感じました。

ですが、作中に出てくる一つ一つのシーンは、大変印象的なものが多いです。喫茶店でレモネードを注文する場面が、個人的には印象に残りました。確かに劇的な展開は何らしませんが、少しだけいつもと違う日常に、等身大の登場人物たちを乗せて、飾らない言葉で丁寧に描いている様子がとても心地よい物語です。全体の味付けは薄味なのに、味気なくなっていません。料理でも、薄味は味付けが難しいものです。しっかりした素材を、確かな下味で上品に味付けしたからこそ、薄味でも味わいのある作品になったのでしょう。どことなく「Collage」に近いテイストを感じました。

ツールはLive Makerです。立ち絵がない作品だけど、既読スキップも非常に高速で、エンディング回収も苦にならないでしょう。セーブを上手く使えば、全エンディングを見て30分だと思います。地味ながら非常に味わいのある短編で、時々こういう作品をプレイすると、ノベルゲームの原点に触れるような思いがします。確かに終わり方は淡白なのですが、薄味ながら職人技の仕上げを、是非味わってみてください。
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