第624回/波は尽きせぬ夏の歌 - 潮騒と泡沫のサマー・デイ(Random Walk) - 不思議系
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第624回/波は尽きせぬ夏の歌 - 潮騒と泡沫のサマー・デイ(Random Walk)

不思議系
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潮騒と泡沫のサマー・デイ

潮騒と泡沫のサマー・デイ■制作者/Random Walk(ダウンロード
■ジャンル/海辺の街で探し物ノベル
■プレイ時間/40分

海が見える街ヒビカでは、夏の一大イベントであるミチヒ大海祭が、いよいよクライマックスを迎えようとしていた。そんな時、ニルヴァナが切り盛りする小さなリサイクルショップに、1人の少年が尋ねてきた。彼の失くしものがここに届いていないかと言う。同じ頃、いさなという少女は浜辺で不思議な少女と出会う。海辺の街で起こる小さな奇跡の物語。

ここが○

  • 街の設定が非常に凝っており、世界観が魅力的。
  • その世界観を生かす描写がとても丁寧。
  • 2人の物語が交差する様。

ここが×

  • 登場人物によって立ち絵に妙に差がある。
  • 2人の物語がいずれも少し中途半端な気が。
  • 物語上あまり役割のない登場人物がいる。

■波は尽きせぬ夏の歌

物語を作る時、その舞台には実在の都市や町を選ぶ方法と、架空の街を選ぶ方法があります。後者の方が圧倒的に多いのですが、街の具体的な設定をそこまで深く作り込む事は、あまりありません。私自身も、自分で少々長い物語を書いた時も、街の細かい設定までは考えていませんでした(大雑把には考えていましたけど)。

そんな中、この作品は登場する都市の設定を非常に細かく作り込まれています。どうも、作者さんのサークルで、「ヒビカシティープロジェクト」という企画があり、複数の作品で同じ街が舞台になっているようですね。そのため最初に細かく舞台設定を調えたのでしょう。舞台が共通しているだけで、特に物語として繋がりがあるわけではなさそうですが、こういう広がりのある企画は面白いですね。

潮騒と泡沫のサマー・デイ舞台となるヒビカ市は、海辺沿いで反対側には山も連なっており、ぱっと見は神戸のようなイメージです。が、ヒビカ市には地下鉄はなく路面電車です。じゃあ広島か岡山かというところですが、どちらも中心部から海までは少し距離があります。さほど長くない作品にも関わらず、冒頭はヒビカ市がどのような都市であるかの説明が結構な重きを占めていますので、最初は面食らうかも知れません。ですが、こうして実在の街を思い浮かべて自分なりに色々イメージすることで、さほど退屈せずに逆に楽しく読めました。

そしてこの物語は、主に2人の主人公のストーリーが交互に展開していきます。1人目は神島トウシ。実はミチヒ大海祭で、大切な人からもらったものをその人に返すと、願いが叶うという言い伝えがあリます。彼は仲の良い女の子からもらったものを、ミチヒ大海祭の最終日にその子に返そうとしたところ、路面電車でそれを失くしてしまいました。そのために町外れのリサイクルショップに足を運ぶ、という導入です。

もう1人の主人公は川夢いさな。彼女は浜辺でメロという謎の少女と出会います。メロには探し物があるようで、いさなはメロと一緒に街を歩いて祭を楽しんだり、路面電車に乗ったりして、メロの探し物に付き合います。このように、一見関係のない2人の主人公の物語が、後半に至って重なり合ってくる(完全に重なるわけではなく、あくまで少し重なる程度です)という、短編にしては凝った作りが面白いです。

ただ、さほど長くない物語に、2人分のシナリオを入れていますので、少々語り足りない点があるのは気になりました。この物語、トウシといさなのどちらにウェイトが置かれているかというと、読んだ印象ではいさなです。トウシ側では動きもあまりないですしね。

にも関わらず、物語のラストはトウシのためのものです(私はそういう印象を受けました)。トウシと女の子のエピソードなどがあまり描かれていないため、せっかくのラストが少し盛り上がりに欠けるのですね。もちろん、いさなの側にもちょっとした成長が描かれていますから、彼女もラストにはきちんと関わってはいるのですが、いさなの側でも彼女の背景などが十分に描かれているとは言えません(家での問題などは軽く流されるだけですし)。ですから、トウシの側から見てもいさなの側から見ても、ラストで少し「何か足りない」感を感じてしまいました。

しかし、冒頭で書いたようなこのヒビカという街の魅力は、全編通じて非常に強く伝わってきました。賑やかな海辺のビーゼン区、路面電車に乗って移り変わる風景、閑静な住宅地の中にあるリサイクルショップの静かな店内など、自分自身もこの街にいるような気持ちで確かめました。ノベルゲームにおいて、舞台設定というのは徒や疎かには扱えないものなのだと、この作品で強く認識させられた次第です。少なくとも私は、この街が舞台になっている他の作品を読んでみたくなりました。舞台設定を活かすための描写も、丁寧で語り過ぎるlこともなく、非常に好感が持てるものでした。

立ち絵は全登場人物にあるのですが、登場人物によって絵を描いた方が違うようで、一部違和感を感じるところもありました。せめて縮尺だけでも統一すれば、かなり違和感は軽減されたかも知れません。あとは途中、物語としては特に役割があるとは思えないキャラクラーがいたのが少し気になりました(他作品とのリンクがあったりするんでしょうか)。背景画像は、どうやら自作の模様で、非常に力が入っていて驚かされました。街の設定はもちろん、この背景画像があればこそ、プレイヤーは作品世界により感情移入できるはずです。背景画像の大事さも感じさせられました。

ツールは吉里吉里です。選択肢はなく、プレイ時間は40分くらい。構成もシナリオも意欲的な物語ではあるのですが、この作品に関しては、プレイしてヒビカ市の雰囲気を味わってください、というお薦めの仕方を致します。作中で登場した舞台の魅力という点では、歴代の作品でも随一です。
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