第628回/物は消えても心は残る - 空色ニヒリズム(島ヤギ) - 不思議系
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第628回/物は消えても心は残る - 空色ニヒリズム(島ヤギ)

不思議系
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空色ニヒリズム

空色ニヒリズム■制作者/島ヤギ(ダウンロード
■ジャンル/夢を食うか食われるかノベル
■プレイ時間/30分

今は使われていない北校舎に、幽霊が出るという噂が流れた。そして章の先輩であり友人でもあった島崎夜音が失踪してから、もうすぐ一年。章は北校舎に足を運んでみたのだが、そこで出会ったのは目が細い以外に特徴のない男子生徒、八津邦明だった。訳の分からない事を言う八津と、なぜか何度も出会う章。不思議な夢の学園短編ノベル。

ここが○

  • 不思議で独特な設定。
  • キャラクター同士の掛け合いが面白い。
  • 暗い物語かと思いきや、それを感じさせない展開。

ここが×

  • 設定が最後までよく分からない。
  • 結末も、なんだかすっきりしない。
  • 合わない人には全然合わないかも。

■物は消えても心は残る

長編を読んだ後は、短い作品を(実は読んだのはこちらの方が先なのですが)。この作品は、何とも言えない不思議な設定の物語です。フリーノベルゲームでは、不思議な設定の物語はいくらでもあるのですが、今作は、同級生が「夢に入れて、夢を消せる」という能力を持っており、保健の先生は「夢を食う」ことができるという設定。何の前触れもなくこの設定が出てくるので、最初は「どう言うこと?」と面食らいました。

冒頭は、ちょっと固めの学園ものという導入です。主人公の高月章が、不思議な夢を見た後に、今では使われていない旧校舎に行き、そこで八津邦明という男子生徒と出会います。この高月章、「章」という名前で、男子生徒にしては言動に違和感があるなと思っていたら、女生徒でした。紛らわしい(笑)。

空色ニヒリズム紛らわしいと思ってしまうほど、描写が中性的です。一人称は「私」なんですが、男性とも女性とも、どちらともとれるところがあります。この中性的な章と、回想で見られる島崎とのやり取り、あるいは八津との会話は、程よい親近感と距離感を感じさせてくれて魅力的でした。八津が時折垣間見せる、章に対する好意の描写も、節度が効いていて好印象でした。

そして序盤すぐに章が、学校の中の人々が上半身魚で下半身人間になという、訳の分からない夢を見てから、物語の不思議感は加速していきます。八津は他人の夢に入り、その夢を消すことができるというのです。さらに、途中から出てくる保健教師鵜飼千鶴は、実は「夢魔」だというのです。真面目そうな物語にいきなり出てきた突飛な設定に、この辺りはかなり当惑しました。

これらの設定は、作中でなんら背景が説明されることはなく、そういうものだとして受け入れるしかありません。なので、どうにもすっきりしないところを感じるのは確かです。ただ、真面目な方向から攻めれば、かなり重苦しい話にもなり得るのでしょうが、このちょっと妙な設定を入れることで、作品の空気を和らげる緩衝材になっているとも言えます。

特に、八津と千鶴先生の変なライバル関係に、「これでも驚いてます」のような章の淡々とした態度の対比が、時折笑いを誘います。また、章と島崎の回想シーンも気に入りました。特に、章が島崎を苗字で呼び捨てにしながら(まあ島崎がそうしろと言ったのですが)敬語を使うずれっぷりは、そのシュールさがツボに入ってしまいました。

論理的に考えれば、結構意味不明な展開もしていますし、後半では学校の屋上でいきなり宴会が始まるし(笑)、もちろん八津と千鶴先生の夢に対する能力の理由付けの説明など存在しませんし、ラストも結局島崎がどうなったのか分からないしで、冷静に見れば「何のこっちゃ?」な物語ではあるのですが、少しずれた人間関係が、時々噛み合うその瞬間が時々見えるのが面白い作品です。噛み合ったと思ったらまたすぐずれて、その「肩透かし感」が面白いとも言えます。

そして、島崎がどうなったのか結局分からないにも関わらず、ラストは結構綺麗で、後味も悪くないんですよね。章、八津、千鶴、それに回想で語られる島崎と、みんなちょっと変わったところのある登場人物ですが、それぞれに魅力的です。理詰めできちんと説明される物語が好きな方には向きませんが、こういう作品があってもいいと思います。

ツールは吉里吉里ですから快適です。最後に1つだけ選択肢が出てきますが、どちらを選んでも直後の描写が変わるだけで、ラストは同じです。プレイ時間は30分弱くらい。立ち絵はなく、下部にテキストウィンドウが出るタイプですが、文字サイズが大きくて一行の文字数も少ないので、読み易いです。好みが分かれる作品だとは思いますが、軽妙なキャラクターの掛け合いは一読の価値があると思いますよ。
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