第629回/何かが消えて、何かが変わった夏 - サマー・ロビン・ガール(kaza) - 学園・青春
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第629回/何かが消えて、何かが変わった夏 - サマー・ロビン・ガール(kaza)

学園・青春
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サマー・ロビン・ガール

サマー・ロビン・ガール■制作者/kaza(ダウンロード
■ジャンル/夏の思い出の真相探しノベル
■プレイ時間/1時間

中学生の頃からいつも4人一緒だった翔馬たち。小鳥遊陽和は、毎年夏の神社のお祭りで短冊に書いたことが必ず叶えられており、その年も夏祭りを楽しみにしていたが、翔馬と陽和以外の2人、誠司と葵は今年は夏祭りに来られないという。2人で夏祭りに出かけた翔馬と陽和は、いつものように夏祭りを楽しんでいたのだが。ちょっとミステリアスな青春物語。

ここが○

  • 読者の意表を突き、上手く引き付ける展開。
  • 美しい背景と、夏の空気感が感じられる演出。
  • 高い文章力。

ここが×

  • 文章力が高いだけに、誤用が気になる箇所が。
  • 場面転換や回想が頻繁に入り過ぎ、時々訳が分からなくなる。
  • 陽和の一部の描写に違和感。

■何かが消えて、何かが変わった夏

猫になりたい」の作者さんの作品です。この作者さんは、他にも「ティラノゲームフェス2016メンバーズコレクション」「俺たちのギャルルゲ」にも関わっておられ、ストレート王道な物語と、仕掛けに凝った物語、どちらでも行ける印象です。そしてこの作品がどちらかと言えば、明らかに後者。凝った仕掛けと演出で楽しませてくれるタイプの、変化球の物語です。

季節は夏。主人公は、中学生の時は不良学生だった和田翔馬。中学生の頃から、翔馬、アクジこと高良誠司、優等生でリアリストの一ノ瀬葵、それにちょっと天然ボケキャラクターの小鳥遊陽和の4人でいつも一緒でした。小鳥遊(たかなし)という苗字を見ると、やはり「call」のシリーズを思い出します。

サマー・ロビン・ガールそして高校最後の夏休み。いつものように4人で夏祭りに行くはずだったんですが、誠司と葵は行けなくなり、翔馬と陽和の2人だけで行くことになりました。夏祭りではいつも短冊が出されており、陽和はそこに書いた願いごとがいつも叶っているんだとか。出だしは、いかにも夏の物語らしい開放的な雰囲気で始まります。

まず気になった点です。この作品、凝った熟語や修辞法も自在に使いこなしており、文章力はかなり高いです。しかし文章力が高いぶん、何ヶ所かある誤用が気になってしまいました。「確信犯」は、「なし崩し」「憮然」「役不足」などと並んで誤用の王様(?)ですから仕方ないところもありますが、「味合わせる」はちょっと(「味わわせる」が正解)。文章がラフだと誤用もさほど気になりませんが、文章力が高いとどうしてもその辺りが目につきます。

さて、この作品の人物描写は昔でいう葉鍵系っぽい感じです。翔馬、陽和に対する接し方などはまさにそんな感じ。なのでここは好みが分かれるかも知れません。会話のテンポ自体はいいですし、アクジや葵を含めた4人のやり取りは軽妙。前半をまずは理想的に引っ張っていってくれています。立ち絵は陽和しかありませんが、これはどうやら素材のようです。素材に合わせてキャラクターを作ったのか、逆なのかは分かりませんが、とても可愛いですね。

そしてしばらくして驚きの事実が明らかになります。その後は、翔馬がその事実を原因を探るという展開。作者さんが「青春ミステリ」と書いていて、最初は「どこがミステリーなんだろう」と思ったのですが、なるほど少しミステリー風味の展開もします。中盤からは、キャラのやり取りで引っ張った序盤とは違い、だんだん明らかになる秘密でどんどん読ませてくれます。優れた構成の物語です。

ただ、場面転換や過去回想が何度も唐突に入るため、ところどころ物語の構造やキャラクターの関係を把握し辛いところがありました。物語の骨組み自体はそこまで難しくはないため、もう少し分かりやすい構成でも良かったような気はします。それでも、陽和というキャラクターに、だんだん違う方向からスポットが当てられることによって様々な色に変化する、後半の畳み掛けるような展開は見事でした。

この作品、背景がとても美しいです。エンドクレジットを見ると、Pixivで探してきた模様です。これは探すのも苦労したのではないでしょうか。その甲斐あって、他の作品と似ていない、この作品ならではの夏の雰囲気を見事に構築することに成功しています。もちろん、よくある素材を使ったからと言って悪いことは何もないのですが、こういう一手間はやはり作品の空気感を高める上で効いてくるんだなと思わされました。

テーマは、「春のうらら」と少し近いところも感じさせます。陽和の恋愛表現が若干一貫していないところもありますが、(葵に、翔馬に対する気持ちを尋ねられた時の答えは、もう少し違う表現でも良かったのでは)、高校生ならではの揺れ動く気持ちが色々な形で上手に表現されており、一風変わった青春ものとしての存在感が光る作品です。

ツールはティラノスクリプト(ビルダー)。プレイ時間は1時間弱くらいで、選択肢はありません。読了後は、タイトル画面の短冊をクリックすると、後書きが読めますのでお忘れなく。ある意味尖った物語なのですが、全体の雰囲気はとても柔らかく、「尖った物語を柔らかな布でくるんで出しました」という印象を持ちました。ですから、マイルドさの中に、青少年期らしい鋭敏な感性が光っています。比較的短時間で読めますので、是非読んでみてください。
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