第630回/心繋がる奇跡の一夜 - たまゆらの夜(アクアポラリス) - 不思議系
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第630回/心繋がる奇跡の一夜 - たまゆらの夜(アクアポラリス)

不思議系
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たまゆらの夜

たまゆらの夜推薦
■制作者/アクアポラリス(ダウンロード
■ジャンル/刹那の夜で孤独から脱却ノベル
■プレイ時間/1時間

孤独を愛する青年、秋月響は、ある日突然自分しかいない夜の世界に迷い込んだ。そこでの生活に慣れてしまったある時、神社で1人の少女と出会う。少女の名前は玉響姫。この地方一帯の守り神だと言う。彼女もまた、長い年月を孤独に生きてきていた。玉響姫は他に誰もいない世界で響と行動を共にするのだが。人との繋がりの大切さを感じられる短編ノベル。

ここが○

  • よく考えられた構成。
  • オープニングなど、演出が非常に見事。
  • 響の成長の様子と素晴らしい余韻を残すラスト。

ここが×

  • 中盤までの主人公には非常に感情移入しにくい。
  • ラスト近くで明かされる事実に唐突感。
  • なので、序盤から主人公の人嫌いの理由を描いておいて良かったのでは。

■心繋がる奇跡の一夜

さよなら、リアル」「FeARy-電子妖精の囁き-」の作者さんの新作です。無印、準推薦ときて、今回は推薦。この作品もそれほど長い作品ではないのですが、非常に考えられた作りで、強い印象を残してくれる物語でした。読み手を突き放すような作品は多々あるのですが、この作品の場合は、読んでいた時には感じるマイナス点が、最後には全てことごとく払拭されているのが素晴らしい点です。人と関わるのが疎ましい主人公と、それに関わる超自然的存在のヒロインという設定は、「冥王星と透明少女」を思い起こさせますね。あの作品と今作では、印象がかなり違いますが、根底のテーマは似ているところがあります。

主人公の名前は、大学生の秋月響。彼はある時から極度の人嫌いになり、他人との関わりを全く避けていました。当然それではまともに世の中を渡ってはいけません。そんな自分自身にも嫌気が指していた響は、ある時自分以外誰もおらず、しかも時間も全く止まったままの世界に迷い込みます。孤独を愛し、他人との関わりを嫌う響にとって、これほど願ったりな環境はありませんでした。

たまゆらの夜その世界で適当に毎日暮らしていたところ、偶然足を運んだ神社で、巫女服の少女と出会いました。彼女は、この地域一帯の守り神、玉響姫(たまゆらひめ)。彼女は、永い年月を一人で生きてきたのですが、十年に一度、神としての使命を果たし続けるため、記憶や感情がリセットされます。自分が自分ではなくなるような、その事実から逃げるために、彼女は永遠に時間が止まったこの世界を作ったのでした。その世界に響が迷い込んだというわけです。

さて、序盤はなかなかに読者を突き放した展開です。普通、ノベルゲームの主人公は、物語を動かす人物であると同じくらい重要な役割として、物語と読者を繋ぎ、読者を物語に感情移入させるという仕事があります。ところがこの作品の主人公は、読者の感情移入を全く拒むような言動ばかりで、人によっては中盤くらいまでは読むのを苦痛に感じるかも知れません。主人公が尖った人物の場合、より一般人に近い感覚のサブキャラを出すことで、「読者を物語に繋ぐ」役割をそのサブキャラにも担わせる手法もありますが、この作品は主人公とタマの2人しか出てこないので、どうしたって物語に入り込みにくくなります。

もちろんこの物語のテーマ上、そうしないと物語が動きませんので、これは我慢して読んでくださいという他ありません。さほど長い物語でもないですし、意外と和む場面や笑えるシーン(へのへのもひじとか(笑))も挿入されていますので、後半までこらえて読んでみてください。冒頭にも書いた通り、前半で感じた負の感覚は、ラストまで読めば必ず解消されますから。一応と言いますか、時々挿入される過去回想(過去にタマが関わってきた人たちとのエピソード)では、その人たちは皆タマに親切なので、緩衝材になっていると思います。

この作品を一言で言えば、自分の殻に閉じこもっていた主人公が、人を好きになるという感情に気付くという、言ってみればシンプルなものです。しかし組み立て方が非常に上手く、一級品の物語に仕上がっています。他愛のない交流から、徐々に響がタマに心を開く様子も嘘っぽくないですし、また後半への持っていき方が巧妙です。少しずつ物語の仕掛けが明らかにされていきますので、後半に行くまでには読者は薄々落ちに気がつくかも知れません。

しかし、タマと響の過去の経験が、展開上での伏線になっているのと同時に、状況的な伏線(ラストシーンでの、響の一言を生かすための仕込み)になっているという二重の活用法が、大変見事でした。私も途中で、「なるほどそういう物語なのか」と気付いたのですが、ラストシーンで過去回想を非常に巧みに活用して感動を描き出していたのに感心しました。展開的な伏線に気付いたと少し油断していたところだけに、不意打ちを受けたような爽快さがありました。

ただ、ラスト前で明かされる、「主人公が何故人嫌いになったか」の事実は、若干唐突です。それまでほとんど語られていませんでしたからね。前半からそこをもう少し過去回想などで描写していればどうだったでしょうか(いっそ、開始直後にそのエピソードを回想で入れてみるとか)。そうすれば唐突さも無くなりますし、主人公の性格に理由ができることで、前半に読者が感じる不快感をかなり軽減できたのではないかと思うのですが、いかがなものでしょう。

この作品、派手ではないものの、演出がとてもいい仕事をしています。開始しばらくして入るオープニングも、神秘的な歌と共に期待感を増してくれますし、その他細かい演出が効いています。優れた演出は優れた作品の、必要条件でも十分条件でもないのですが、プラスアルファの魅力としてはやはり効果的なのだなと実感しました。BGMも、静かで雰囲気に合ったものばかりでした。そしてエンディング後のわずかなエピローグ。短い描写ですが、美しいラストに更に花を添えて、この作品を締めくくるにふさわしい終わり方でした。

ツールはティラノスクリプト。選択肢はなく、一本道です。プレイ時間は1時間弱。登場人物が2人しかいないのに、その2人が最大限の役割を果たした結果、なかなかない満足感の物語を味わわせてくれた一作です。前半の主人公の造形がああだったからこそ、その果てに訪れたラストに説得力がありました。あまり長くありませんので、前半だけでやめてしまったりせず、是非最後まで読んでください。
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