第631回/日常にほんの少しの虚構を - 肘が微笑む日(らっこ電位図) - 日常
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第631回/日常にほんの少しの虚構を - 肘が微笑む日(らっこ電位図)

日常
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肘が微笑む日

肘が微笑む日■制作者/らっこ電位図(ダウンロード
■ジャンル/幽霊になって映画撮影ノベル
■プレイ時間/1時間

高校3年生の海野真奈美は、何故かピンク映画鑑賞が趣味。ある日映画館で出会ったむさ苦しい男、須和仙太郎から、自主制作映画に主演して欲しいと依頼される。役柄は、大学入学前に死んでしまった女子高生の幽霊という設定。かくして、8ミリカメラを抱えての、奇妙な撮影生活が始まった。独特な文章で送る不思議な物語。

ここが○

  • キャラクターのやり取りが面白い。
  • リアリティと虚構を絶妙にブレンドした独特な空気感。
  • 文章力が高く描写が良い。

ここが×

  • 会話文が今風過ぎて、ニュアンスがよく分からない。
  • 目立った起伏がなく、エンターテインメント性は高くない。
  • 特に盛り上がる訳でもなく、突然終わってしまう。

■日常にほんの少しの虚構を

青い欠如」の作者さんによる新作です。前作は、前衛的とも言える物語でしたが、独特の表現やキャラクターのやり取りが楽しめる作品でした。そのあたりの雰囲気は今作でも共通です。前作は、文章が画面に大量に表示されることがなく、読みやすさが増していました。こういう配慮は好印象です。

また、文章表現も前作に通ずるものがあります。感心させられる表現も随所にあり、文章力の高さは今作も見事です。が、今回は女子高生の一人称で、女子高生同士の会話文章もたくさん出てくるので、年寄りである私にはそのニュアンスが伝わってこない箇所が多々ありました。もちろん、なんとなく意味は分かるのですが、例えるなら「知らない地域の方言を聞いて、何とか頭の中で頑張って意味を掴んでいるが、地元民なら分かるはずの細かいニュアンスが分からない」感じ。私も年をとったということですね(笑)。

肘が微笑む日女子高生くらいなら(もっと上の年齢の人でも)よく使うのでしょうが、この作品の文章でも「〜とか」がものすごく多用されていて、少し気になりました。もちろん、実際の会話でも多用されるのでしょうから、ある意味ではリアルなのかも知れませんが(私はあまり使いたくない単語なのですが)、物語として文章で読む場合には、やはり同じ言葉が連発されると気になります。

さて、この物語も前作同様、なんとも掴み所がないストーリーです。主人公の真奈美が、たまたま映画館(ピンク映画というのが何とも(笑))で出会った怪しげな男、仙太郎から自主制作映画に出演を依頼されるのですが、この仙太郎が見た目だけではなく性格も怪しげ。この怪しげな仙太郎と、いかにも今時の女子高生である真奈美の、噛み合わないやり取りが面白く、この作品の見どころです。

仙太郎は、全く気遣いもできず、映画のことしか考えていない男で、真奈美といいムードになるなどという展開は全然ないのですが、そんな2人が「映画を撮る」というだけの関係で薄く繋がっているリアリティと、物語らしい作りごとの部分が、非常に上手くブレンドされており、この辺りのセンスは前作と同様ですね。リアルと虚構の間を絶妙にたゆたう、この独特の雰囲気が魅力です。

この作品は、前作同様エンターテインメント的な起承転結はありません。だからと言って全く起伏のないただの日常という訳でもないのですが、伏線がどうとか謎がどうとか、そういう娯楽性はありませんし、ドラマ的な盛り上がりがある訳でもありませんので、そういうのをお求めの方だと「なんだこりゃ?」で終わってしまうかも知れません。ラストも、それなりにまとまった終わり方ではあるのですが(前作と比べても)、やはり普通の(エンターテインメント的な)物語と比べると唐突感は否めず、「え、終わり?」と感じる人もあるでしょう。せっかく作った映画が、コンテストで箸にも棒にもかからなかったというのも、まとまりの悪さを感じさせます。

しかし、そこはそれ。こういう空気感で、大げさではない日常を楽しむ物語だと思えば、十分ありだと思います。特に、ラスト近く、真奈美が電話をかけるシーン。一応撮影の一環ということにはなっているのですが、真奈美が、80年代の女子高生の幽霊というキャラクター設定を借りて、自分の正直な気持ちを吐露しているこの場面は、この作品一番の名シーンだと思います。現実と虚構が上手く混じり合ったこの作品で、現実が一番強く出ているのがこのシーンですね。だからこそ強く心に訴えかけるものがあるのでしょう。

演出周りは素っ気なく、スタッフロールが流れ終わると突然ウィンドウが閉じます(前作もそうでしたけど)。また、絵はどのキャラクターも表情がほとんど同じなので、そういう意味での面白みには欠ける点は否定できませんが、だからこそ仙太郎が一瞬だけ笑顔を見せる場面は、彼の意外な一面が見られた気がして、印象に残りました。しかし、タイトルの意味は何なのでしょうね……。

ツールはNScripterです。ティラノの作品ばかりプレイしていると、NScrの起動の速さには感動すら覚えます(笑)。選択肢のない一本道で、プレイ時間は1時間少々。人を選ぶ作品だとは思いますし、普通の意味での「楽しさ」はないのですが、逆に普通の作品にはない魅力を持った作品でもあります。ありきたりなエンターテインメントに飽き足らない方は、読んでみてください。
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