第634回/濁った瞳に澄んだ空 - 灰青の空(kunsina)
灰青の空

■ジャンル/妹の為にお命頂戴ノベル
■プレイ時間/2時間半
藤原圭には、余命幾許も無い妹がいた。ある日妹を見舞いに行った帰り、圭は小さな妖精と出会う。その妖精ルーシーは、圭と契約すれば何でも1つ願いを叶えてくれるという。その契約内容とは、「3人の命を奪うこと」だった。かくして、圭は妹を救う為に3人の命を奪うべく街を彷徨うが、残り時間はわずか。退廃的な雰囲気が独特な現代ノベル。
ここが○
- 戦時中という独特の退廃的な設定。
- 全体に描写が簡潔できびきびしている。
- とんでもなさすぎる後半の展開。
ここが×
- グロテスクな描写や残酷な場面が多い。
- 全3ルート、どれも救いようのない終わり方。
- なのでかなり読み手を選ぶ。
■濁った瞳に澄んだ空
最近は、ごく普通の(当たり前の)日常ものという設定の作品が少なく、舞台設定やキャラクターが捻った作品を多くプレイしている気がしますが、この作品は極め付けです。舞台は戦争中の日本。もちろん、過去の戦争ではなく、比較的現代に近い時代のようです(一応クレーンゲームが出てくるし。でも携帯電話の類は出てこなかったので、少し前の時代の話なのかも)。更に冒頭から展開がぶっ飛んでいます。主人公の圭には、不治の病で余命幾許も無い妹、空がいます。ここまでならよくある設定ですが、この後が物凄い。圭がある日出会った妖精のルーシーは、自分の言うことを聞くことを条件に、圭の願いを何でも叶えると言います。圭はその条件に飛びつくのですが、ルーシーが要求した条件とは、「誰でもいいから3人の人間の命を奪うこと」だったのです。

が、意外とこの世界観が癖になるんですよね。世界観で言えば「hundred」や「詩歌を嗜むRe」に少し似たところもありますので、それらの作品が好きな人であれば、この独特の世界を楽しめると思います。普通の設定でキャラクターだけが尖っていたら浮いてしまうのですが、荒廃した世界にこのキャラクターというのは、実はとてもマッチしているのかも知れません。
内容も、終始凄い展開をします。グロテスクな表現や残酷なシーンもかなり出てきますから、そういうのが苦手な方には読み辛いかも知れません(私も好きな訳ではない)。とにかく後半は簡単に人がどんどん死んでいきます。また、政府転覆を企む地下組織も出てきて、設定が戦時中ですから、「こういう状況になると、人間ってこうなってしまうのか」と感じさせられました。
文章は、変に語り過ぎたり、レトリックに耽ったりするタイプではなく、淡々と綴られます。これがこの特異な世界観とキャラクターにマッチしており、読みやすい作品でした。こういう作品で、文章までもが粘っこかったら、読んでいて疲れてしまいますからね。特に、戦闘シーンは素っ気ないくらいに何気なく流されますが、だからと言って描写が足りないということもなく、必要にして十分。簡素な描写がかえってリアリティを生んでいました。
この作品、後半の選択肢で3ルートに分岐します。選択肢の箇所でセーブできないのは、少々不親切に感じました。既読スキップを使うと突然落ちてしまうこともあり、これには参りました。選択肢が来る前にセーブしておきましょう。その3ルートですが、舞と桜音のルートは、特にクライマックスがある訳でもなく、突然終わってしまい、いきなりタイトルに戻りますので、「何事?」と思うかも知れません。謎も何も解決していませんから。
その謎は、空ルートで全部解決します。中盤までもかなりの超展開ですが、この空ルートがまたそれに輪をかけた超展開。とんでもない事実が明らかになり、目が点になりました。きちんと中盤までに伏線も張られており、それが次第に解けていく様子に感心させられました。
ラストは、何とも言いようのない虚しさが残る結び方ではあるのですが、ある意味ではあの状況においては、大団円と言えるのかも知れません。読後感が良いかと言われると、良くはありませんし(最後も「END」と字が出るだけですし)、どこか頭のネジが吹っ飛んだようなキャラクターばかりなので、感情移入しながら読むのは難しいのですが、それでも空ルートの後半の展開は、一見の価値があると思います。
ツールはNScripterです。上に書いたように、既読スキップに若干の不安定性があり、唯一の選択肢が現れる場面で何故かセーブできないので、そこは気をつけてください。プレイ時間は、全3ルートを読んで2時間半くらいです。かなり人を選ぶ作品だとは思うのですが、この作品でしか味わえない魅力が詰まっている力作だと思います。ごく普通のハッピーエンドでは飽き足らない、ハードでヘビーでグロテスクな物語がお好きな方は、楽しめると思いますよ。
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