第635回/白紙の中には嘘がある - ウソと手紙と名探偵(あいはらまひろ) - ミステリー・サスペンス
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第635回/白紙の中には嘘がある - ウソと手紙と名探偵(あいはらまひろ)

ミステリー・サスペンス
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ウソと手紙と名探偵

ウソと手紙と名探偵■制作者/あいはらまひろ(ダウンロード
■ジャンル/謎の手紙で探偵ごっこノベル
■プレイ時間/15分

4月1日。春休みだというのに、式典準備委員会の仕事で登校していた片山恭輔は、仕事を終えて帰ろうとしていた時、自分の下駄箱に便箋が入っているのを見つけた。ラブレターかと思いきや、中には白紙の便箋が1枚入っているだけ。恭輔は、同じミステリー好きである友人の岩城に謎を相談してみたのだが。エイプリルフールネタのライトミステリー。

ここが○

  • 文章が非常に読みやすい。
  • レイアウトがハイセンス。
  • 突飛過ぎない謎解きで、誰でも楽しめる。

ここが×

  • 本格ミステリーを期待すると少々肩透かしかも。
  • 曲が全くないのは少し寂しい。
  • 演出も少し素っ気ない。

■白紙の中には嘘がある

おなじみ、あいはらまひろさんの作品です。初出は2009年。この作品はVectorでしか公開されていませんから、今偶然にこの作品をプレイする方も、あまり多くはないかも知れません。しかし流石はあいはらさんの作品で、非常に読みやすい文章に整ったレイアウトと、期待を裏切らない出来栄えです。

主人公は高校生なのですが、春休みだというのに、式典準備委員会の仕事で学校へやって来ていました。ようやく仕事が終わり、帰宅しようと自分の下駄箱を開けると、なんとそこには1枚の便箋が。まさかラブレターかを思って中を開けると、入っていたのは何も書いていない便箋が1枚だけ。いくらエイプリルフールとは言え、何も書いていないのでは嘘も何もありません。

ウソと手紙と名探偵困った恭輔は、帰ろうとした時に声をかけてきた友人の岩城に相談することにします。実は主人公と岩城は、小学校の頃からの知り合いだったのですが、ひょんなことから仲良くなり、更にお互いミステリーファンであることが分かり、一気に意気投合したのでした。ミステリーファンらしく、お互いをホームズ、ワトソン役に見立てて話が進んでいきます。私もシャーロック・ホームズ譚は大好きなので、楽しんで読み進められました。

ミステリーとしては、ある意味たわいないとも言える内容で、そこまで凝ったトリックがある訳ではありません。何も書かれていないのが鍵だというのは、「古畑任三郎」でも同様のトリックがありましたね。勘が鋭い人ならば、あるいは前半で謎に気づいてしまうかも知れません。しかし、上手くエイプリルフールを絡め、更にはとある叙述トリックまで仕込み、短編にも関わらず上手く起伏がつけられています。

この叙述トリック。私は不覚にも全く気付きませんでした。岩城は終始苗字だけで名前が出て来ませんし、それに恭輔と岩城が仲良くなったエピソードでの描写から、完全に騙されてしまったのです。ラブレター云々の描写が出て来た時に、「え!?」となってしまいました。まさかそういう謎(?)が仕込んでいるとは夢にも思わず。

実は過去に同じ叙述トリックを使った作品がありました(ネタバレになりますので、作品名は挙げませんが)。その作品は、不自然なまでに「その事実」に関連する描写が避けられていたので、違和感ですぐにトリックに気付いたのですが、この作品はその事実の描写を避けることなく、しかも上手いミスリードがされていたので(再読しても、読者を引っ掛ける気満々だとしか思えない描写がそこかしこに(笑))、見事に気持ち良く引っかかりました。

そして、あまり甘ったるい描写はないのですが、ラストの2人には微笑ましい気分になれました。この作者さんは、こういう場面を描かせたら天下一品ですね。ミステリー単体ではなく、岩城に仕掛けられた叙述トリックまで含めて、「ミステリー風味の青春物語」として、面白い一品でした。

また、色々な意味で読みやすさは特筆ものです。文章力が高いのに、変に難しい単語は使わず、ちょっと背伸びをしたい年頃の、等身大の高校生らしさを感じさせてくれます。また、文字サイズや改行ピッチ、画面全体に表示される文章量が非常に適切で、読み手に優しいのが嬉しいところ。ワイドウィンドウで改行ピッチも狭め、文字も小さめで、画面にあふれんばかりに文字が出てくる作品も多いのですが(シナリオ書いていると、案外そういうことには気付かないものなのです)、こういう気配りはありがたい限りです。

ただ、全編通して音楽は一切流れません。効果音のみです。それが独特の雰囲気を醸し出しているのも事実ではあるのですが、やはり曲が全くないと少し寂しく感じました(エンディングすら無音)。そこも含めて、演出は少し地味ではあります。まあ、ほとんど終始図書室の中だけで展開する物語ですし、これくらい地味な演出の方が、この作品には合っているのかも知れません。

ツールはNScripterです。プレイ時間は全部読んでも15分の短編ですが、意外と選択肢は多く、手軽なシナリオ分岐を楽しめます。エンディングは3種類です。尖った作品の後には、やはりこういうまろやかな作品が読みたくなりますね。あいはらさんの他の作品をプレイした方も、期待を裏切らない「あいはらテイスト」を味わえる作品ですので、是非プレイしてみてください。
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