第639回/幸せは二人一緒に掴むもの - あなたの命の価値リメイク(浦田一香) - シリアス・感動系
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第639回/幸せは二人一緒に掴むもの - あなたの命の価値リメイク(浦田一香)

シリアス・感動系
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あなたの命の価値リメイク

あなたの命の価値リメイク準推薦
■制作者/浦田一香(ダウンロード
■ジャンル/虐待から脱却する人生劇場ノベル
■プレイ時間/2時間半

岩佐勇気と由紀の兄妹は、幼い頃に両親から虐待を受け、児童養護施設「キズナの学園」で暮らしている。色々制約はあるものの、同じように苦労してきた学園の仲間たちと、それなりに楽しく毎日を過ごしていた。そんな勇気には、自分が子供の頃は得られなかった、幸せな家庭を築く、という夢があった。勇気の恋愛と成長の様子を描いた、人生のドラマ。

ここが○

  • 難しいテーマを物語として上手に料理。
  • 等身大ながらスケールの大きな物語。
  • 主人公たちの葛藤が心に響く。

ここが×

  • 女性キャラクターの扱いが若干中途半端。
  • 後半は少々急ぎ足過ぎの感。
  • 恋愛描写には少し弱さが。

■幸せは二人一緒に掴むもの

フリーノベルゲームで、難しいテーマをあえて取り上げるというのはなかなか大変です。テーマを重く難しくすると娯楽性が薄くなりますし、どうしても読んでいて楽しいものではなくなります。そんな中、この作品は重いテーマを取り扱いながら、決してエンターテインメント性も失っていません。作者は「恋をする生き物だから」「その傷に触れて」を作られた方。全二作も重い作風でしたが、今作でもテーマの重さは共通です。

今作のテーマは、児童虐待。舞台は「キズナの学園」という児童養護施設です。虐待や施設での描写など、作者さんが非常によく調べている様子が伝わってきました。描写も丁寧です。そして、施設で一緒に暮らす子供達や先生、学校の仲間達など、登場人物は多岐に渡り、それぞれが個性的です。

あなたの命の価値リメイクその登場人物が、少々多いようにも感じました。結構長い物語なのですが、物語の主眼は勇気と、ヒロインの夏美で、彼らに非常に重点を置いて描写されているので、この長さの物語であっても、それ以外の登場人物の扱いが少し薄いように感じたんですよね。この作品はリメイク版で、元々はマルチシナリオだったそうですので、その影響もあるのかもしれません。一本道にするには、もう少しキャラクターを絞ってもいいように思いました。

また、恋愛要素もあるのですが、恋愛面で見るとキャラクターの多さもあって、特に序盤は焦点が不明瞭に感じました。もしかしたら、元の各ヒロインルートのイベントを少しずつ回収しているのかも知れませんが……。こちらも一本道にするのであれば、序盤からもっと夏美に絞って恋愛描写を積み重ねた方が良かったのではないでしょうか。実は夏美とくっつくと分かった時に、「え、佳奈や沙希じゃなくて夏美なの!?」と、若干の唐突感を感じました。

と、気になる点を先に書きましたが、この作品は一人の被虐待児の成長を描いた人生ドラマとして、とてもよくできていました。また、テーマ自体は重いのですうが、プレイしていて重苦しい気持ちになることはほとんどありませんでした。それは、主人公である勇気が、大変な過去を背負いながらも「暖かい家庭を築く」という目標に向かって、前向きに進んでいく気持ちが、そこかしこから伝わってくるからだと思います。

勇気だけではなく、他の登場人物も前向きです。途中、沙希がキズナの学園にボランティアに来るシーンがあり、そこで沙希は「可哀相な子供達の力に」というようなことを言いました。ここで、勇気は少しカチンと来るのですが、勇気のルームメイトである元は「可哀相だけで終わる人がほとんどなのに、わざわざボランティアに来てくれてありがたい」と発言し、場を落ち着かせます。このようにこの作品は、変にダークサイドに沈むのではなく、抑制がきいた善意のあるキャラクターがほとんどですので、とても安心して読めましたし、キャラクターに愛着が持てました(「贖罪と命」でも同様なシーンがあり、その後の展開は正に対照的です)。

そして後半は、結婚して子供ができて、さらにその子供が結婚するまでという、フリーゲームとしてはとんでもなくスケールの大きな人生劇場が展開されました。名作邦画「喜びも悲しみも幾年月」のようですね(あちらは最初から結婚してたけど)。虐待を受けた勇気が、その虐待を克服するには、自分自身が幸せな家庭を築くしかない訳で、その意味でこの展開は「これしかない」と言えるほどのものでした。上に書いたような理由もあり、重めのテーマを軽快に読ませる筆力があるのですが、長い人生のドラマを軽いタッチで、しかも重いテーマを内包しつつ、そのテーマを読者にくどくない範囲で訴えながら綴るという、なかなかない作品でした。

ただ、前半がじっくり描かれたのに対し、後半はかなりあっという間にどんどん進んでいきます。一度だけ緊迫感のあるイベントがありますが、それ以外はダイジェストと言ってもいいくらいに、すらすらと流されます。あと2つ3つくらいは、印象的なイベントを盛り込んでみても良かったかも知れません。

その「一度だけの緊迫感のあるイベント」では、勇気が虐待にあまりにも過敏に反応する描写が、少し気になりました。あれで虐待になるなら、私も母から割と頻繁に虐待を受けていたことになります(笑)。勇気が夏美を「これは虐待だ!」と責め立てまくるのもちょっと……。あの場面は、後半において重大な転換点とも言えるイベントですから、そこだけは少々違和感を感じました。

それと、勇気のプロポーズのシーンはとても印象的。夏美の答えを見て、画面が変わった瞬間に、「え!! 選択肢ないのにバッドエンド!?」と、本気で焦りました。面白い演出ですし、夏美のそのあとの答えがまた良かったですね。どうせなら、ラスト前で優美とその相手が挨拶する時にも、同じやり取りをさせてみれば面白かったんじゃないかと思いました。

物語としては、伏線がある訳でもなく、「展開の面白さで読ませる」タイプです。そして「こう進むのだろう」という予定調和感と、「どうなるのだろう?」という不安感のバランスがとてもよく、しかも娯楽性も決して犠牲にしていないので、最後まで楽しく読むことができました。オリジナルのオープニングとエンディングの主題歌も良。ツールはLight.vnで、快適にプレイできます。一本道でプレイ時間は2時間半前後。フリーノベルゲームの利点が「無料であること」ではなく、「作者さんの想いに触れることができること」だと思っている私のようなプレイヤーにとっては、とても満足のいく作品でした。あらすじで「ヘビーそう」と敬遠せず、ぜひ読んでみてください。
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