第642回/大人に見えない子供の秘密 - ちる(もえき) - 不思議系
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第642回/大人に見えない子供の秘密 - ちる(もえき)

不思議系
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ちる

ちる■制作者/もえき(ダウンロード
■ジャンル/妖精と記憶喪失の少女の触れ合いノベル
■プレイ時間/20分

中学生になったばかりのマリ(名前任意)が目を覚ますと、そこは見知らぬ部屋だった。部屋には高校生くらいの少年がいて、「お前を治療する」という。どうやらマリは記憶を失ったらしく、名前以外の細かなことが思い出せない。少年、昴との、ちょっと奇妙な同居生活が始まる。そして昴には何やら秘密があるようなのだが。ファンタジー風味短編ノベル。

ここが○

  • 素直で読みやすい文章。
  • マリと昴の、初々しいやり取り。
  • 色々な要素が消化不良にならない範囲で盛り込まれており、短編なのに読み応えあり。

ここが×

  • 前半は説明がなく、何がなんだか分からない。
  • もう少しマリの昴への気持ちが表れているようなやり取りがあっても良かったのでは。
  • 「ちる」の影が何だか薄い。

■大人に見えない子供の秘密

5年前の作品。絵は一切なく、字だけです。しかし、こういうシンプルな文章だけの作品も、時々触れると、よりフリーノベルゲームの世界を深く楽しめるようになると思っているのは、私だけでしょうか。この作品は、タイトルがまず不思議です。「ちる」とは一体何なのか? それはプレイしていると自然と分かるようになっているのですが、このシンプルなタイトルが、最近ではまず珍しく、人目をひきますね。

主人公は12歳の少女、マリ。名前は自由に付けられます。マリは中学校に入ったばかりという設定ですが、一人称の文章を読んでいると、かなり大人びて感じます。もう少し子供っぽく描いた方が、もう一人の主人公である昴の対比が効いて面白かったかも知れませんが、これはこれで作品のテーマ(子供から大人云々)を表す為には適切な描写であるとも言えます。

ちる冒頭は上のあらすじの通りで、マリは記憶を一部なくしており、昴はそれを治療してくれると言います。さてこの作品、ちょっと変わった世界観なのですが(少しファンタジーっぽいところも)、最初のうちはそれが全く説明されないので、初めは少し読んでいてもどかしい感じがしました。「一体これはどういう物語なんだ?」という不安感が感じられたのです。

もちろん、世界観は徐々に明らかになっていきますし、短い物語なので全然ありな範囲ではありますが、もう少し序盤に世界観を分かりやすく提示してみても良かったのではないでしょうか。特に突然昴の正体が明かされた時は、「え、そういうタイプの物語だったの!?」と、不意打ちを食らった感じでしたし。もちろん伏線は張られているんですが、そういうファンタジー風の設定をいきなり出されても、納得できるだけの土台が前半にあれば、と。

そして中盤から徐々に物語の形が見えてきます。テーマとしてはそれほど新しいものではありません。ですがこの作品は、マリと昴のやり取りが何とも初々しく、それを見ているだけでも微笑ましい気持ちになってきます。2人の不器用な恋心を前面に出しても面白かったような気はするのですが(特に、マリから昴への想いが、もう少し描写されていても良かったのでは)、最後であの描写で来るのがこの作品のクライマックスですし、これはこのままでいいのでしょうね。

後半になって、タイトルの「ちる」の意味が分かります。これまた若干突然な感じは否めないのですし(前半は、そういうファンタジーめいた雰囲気はまるで連想させない展開なので)、ちるはその立ち位置の重要性の割に、キャラクターとしては少々影が薄いような気もするのですが、この辺りの展開は、絵がないだけに色々想像できて楽しめます。

反面、後半に出てくるキャラクターで、ミラがとてもいい役回りでしたね。さほど登場する場面は多くはなく、むしろ脇役なのですが、キャラクター設定自体も面白いですし、性格付けや昴とのやり取りも軽妙で、後半の展開をぐっと引き締めていました。その意味で、この作品を一番支えていたのは、マリではなく実は昴だったのかも知れないなと、読み終わって感じた次第です。

物語として地味な割に、設定や要素が色々詰め込まれている短編です。上に書いたように、特に前半に説明不足を感じる点もあったのですが、全体を通して見れば決して消化不良には陥っておらず、マリの記憶喪失、昴の秘密、「ちる」とは何なのかなど、短い中にも色々な要素がバランスよく盛り込まれており、色々な味わいで楽しむことのできる作品です。起承転結もしっかりしており、短編らしからぬ読み応えがありました。

ツールは吉里吉里。選択肢のない一本道で、プレイ時間は20分くらいでしょう。20分の作品なのですが、読み終えた時の満足感は、中編作品におさおさ劣るものではありませんでした。ファンタジー風味の作品ですが、ファンタジー面よりもむしろ、ちょっとした年齢差のある子供の、淡い恋愛ものがお好きな方なら、きっと楽しめるはずです。読みやすい作品ですから、気軽にプレイしてみてください。
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