第646回/誇らず、さりとて恥じず - 生きていく勇気~統合失調症になった僕~(浦田一香) - 病院・闘病
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第646回/誇らず、さりとて恥じず - 生きていく勇気~統合失調症になった僕~(浦田一香)

病院・闘病
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生きていく勇気~統合失調症になった僕~

生きていく勇気~統合失調症になった僕~準推薦
■制作者/浦田一香(ダウンロード
■ジャンル/統合失調症でも前向きノベル
■プレイ時間/15分

統合失調症を患い、就労継続支援B型作業所に通う富岡卓也。病気を抱えながらも、何とか就職したいと思い、日々懸命に生きていた。同じ作業所の仲間との別れや衝突、かつての同級生の偏見に晒されながら、それでも理解のある両親や、衝突を乗り越えて気持ちを通じ合えた仲間の支えもあり、生きていく卓也。そんな卓也が一歩前へ進むささやかな物語。

ここが○

  • しっかりしたテーマ性と程よいリアリティ。
  • 短いが、色々な要素が盛り込まれており、それが消化不良になっていない。
  • 善人と悪人のバランス、位置付けがいい。

ここが×

  • 一部のイベントはちょっと急ぎすぎの感。
  • エンターテインメント的に盛り上がる物語ではない。
  • やたら固有名詞が出てくるのは大丈夫なんだろうか……。

■誇らず、さりとて恥じず

「どんな物語を書いてもいいが、他人を傷つけるような物語だけは書いてはならない」(原文はもっと複雑な表現ですが)と言ったのは、漫画家の手塚治虫さんです。そして、これはフリーノベルにももちろん当てはまるのは言うまでもありません。この物語は、「他人を傷つけない限りは、どんな表現も許される」フリーノベルならではのテーマを持った作品です。

恋をする生き物だから」「あなたの命の価値リメイク」の作者さんの最新作で、前2作も重くシリアスなテーマでしたが、今作のテーマは、統合失調症です。過去には、統合失調症をテーマとした作品は「シンクロニシティ」がありまして、あちらは統合失調症をテーマとしつつ、エンターテインメント寄りの物語でした。また「二年目の天子さん」という作品もあり、こちらはパニック障害の少女の日常を描いた作品です。

生きていく勇気~統合失調症になった僕~何れにせよ、テーマとしては一般的とは言い難く、非常にヘビーな物語なのではないかと身構える方もあるかも分かりません。確かに軽い物語ではないのですが、しかし身構えるほど重くもなく、それどころか並みの鬱展開の作品より、はるかに読みやすくすらあります。

主人公の卓也は、大学受験の失敗を機に統合失調症を発症し、就労継続支援B型作業所(B就労)に通う若者です。統合失調症というと、幻聴や妄想を伴う病気というイメージがあるかも知れませんが、症状が軽い人であれば、ほとんど問題なく日常生活を送れる人も多くあります。主人公の卓也は、薬の副作用に悩まされてはいるものの、症状は軽く、何とか働きたいと頑張っています。

この主人公の設定に、まずは好感を覚えました。精神疾患持ちではない、普通の人が主人公の物語でも、やたら厭世的だったり、やたら皮肉っぽかったり、やたら他人を見下していたり、それこそ病気としか思えない主人公が多く見られる中、今作の卓也は、病気の為に苦労していることも多いにも関わらず、終始前向きなところを見せてくれます。なので、シリアスで重めなテーマを取り扱っている物語なのですが、誰が読んでもすっと物語に入っていけるでしょう。

また、脇役もとてもいいと思います。作業所仲間の理乃や健夫もいいキャラクターですし、嫌味一つ言わずに、卓也が面接を受けると言えば喜んでくれる、卓也の両親も実にいい位置付けの登場人物。いい人たちに支えられているからこそ、卓也は前向きになれたのかも知れませんね。また、健夫とは途中で衝突するのですが、その衝突後に健夫の身に起きるトラブルが妙にリアルです。そのトラブルの後に卓也と仲直りするのですが、ここは短い描写ながら、真に迫るものがありました。

あまりにも善人ばかりだと少々嘘っぽい物語になってしまうものですが、この作品はちょうどいい具合に悪人(という言葉は語弊がありますが)も配されています。理乃の姉は、ある意味普通の人の自然な反応かも知れません。そしてかつての同級生栗田が、なかなか胸糞の悪いキャラクター。しかし、ここでの卓也の言動が良かったですね。「障害は、恥ずべきことでも誇りに思うことでもない。格好良いことでも格好悪いことでもない」というのは、正に障害に対する正鵠を得た一言で、非常に印象に残りました。

案の定、その一言で栗田の屑っぷりが露呈するのですが、卓也の対応が立派です。また、その後の卓也、健夫と栗田が鉢合わせするシーンも良かった。現実世界であそこまで障害者に暴言を投げつける人もそうはいませんが、でもネット上では、顔が見えないのをいいことに、栗田と対して変わらないことを言う人、結構いますよね。そんな栗田が、痛い目に合わされて、読んでいる人間がすっとするなんて展開はありません。全体に極めて展開が現実的で、エンターテインメント的な意味での盛り上がりがある訳ではないのですが、それでいてきっちりと起承転結が付いていて、短い作品なのに読後には非常に感銘を受けました。

難点としては、やはりちょっと急ぎ過ぎに感じる場面が多々見られました。なかんづく、理乃の中盤でのイベントは、流石に少々いきなり過ぎやしませんでしょうか。もう少し前半に軽く伏線でもあれば、唐突感が和らいだと思うのですが。今のままではお姉さんも単なる嫌な人ですが、理乃と、そしてお姉さんの苦悩を描いておけば、だいぶ印象が変わった気がします。あとは、作中に色々と固有名詞が出てくるのですが、大丈夫なのかなと余計な心配を(笑)。

ツールはティラノスクリプト。選択肢はなく、プレイ時間は15分です。15分の超短編なのに、かなり内容が詰まった作品で、特に登場人物の動かし方の上手さに感心しました。統合失調症に限らず、鬱病や双極性障害、不安障害などを持っている方や、その周りの方であれば、かなり響く物語だと思いますが、むしろ統合失調症という病気に偏見を持っている方にこそ、是非読んでいただきたい作品です。
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