第647回/時には悪魔のように - THREE FORKS(月うさぎプロジェクト) - SF
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第647回/時には悪魔のように - THREE FORKS(月うさぎプロジェクト)

SF
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THREE FORKS

THREE FORKS準推薦
■制作者/月うさぎプロジェクト(ダウンロード
■ジャンル/万能薬を巡って大バトルノベル
■プレイ時間/5時間

月面内部の都市ルナシティ。そこに住む敏腕プログラマー宮下洋介は、親友で技師の高坂明の娘、千春の心臓病の手術費用を手に入れるため、一世一代の賭けに出ようとしていた。皆既日食で通信が乱れる千載一遇のチャンスがその時だ。が、計画実行まで間もない時、見知らぬ相手からメールが届いた。月を舞台に壮大なスケールで送る、SFアクションノベル。

ここが○

  • 壮大な設定、ストーリー。
  • 二転三転し、最後まで気が抜けない展開。
  • 迫力あるバトルシーン。

ここが×

  • 難易度が高すぎる。
  • 誤字、誤変換、誤用がやけに多い。
  • 誰が発言者なのか非常に分かりにくい箇所多数。

■時には悪魔のように

最近「さようならサヨナラ」をご紹介しましたので、同じ作者さんの少し前の作品をレビューします。どうやら、有料作品だったのを無料公開されたようですね。そのため、絵やシステムなど、全体の質が非常に高く、流石と思わされました。そして結構な長編です。最近は短編作品が多いのですが、どっぷりと物語に浸り、凝った設定やどんでん返しを存分に味わえるのは、やはり長編ならではです。

今作はSFです。月の内部にルナシティという都市が建設された未来のお話。そのルナシティに住む主人公の宮下洋介は、かつては第一線で活躍する凄腕のプログラマーでした。友人の高坂明、その娘の千春と一緒に暮らしているのですが、千春には生まれつき心臓に持病があり、移植手術をしないと長く持ちません。そのため、洋介と明は、銀行の回線をハッキングして莫大なお金を手に入れるという計画を立てました。

THREE FORKS物語が始まってすぐに、このハッキングシーンが展開されます。開始しばらくは何も起こらないただの日常という物語も多いですが、この作品はいきなり序盤の山場が来るので、強力に読み手を掴んでくれます。この序盤が、かなり緊張感の強い描き方をしているので、序盤にして「この物語はどうなるのだろう?」と、きっとわくわくさせられるはずです。

そして中盤からは、千春を助けるための治療法「HATIO」をベースに、色々な人の思惑が絡んだ、重厚な物語が展開します。このHATIO療法の設定がまた物凄い。物凄すぎて、医学的なリアリティという面で見ると、少々怪しい箇所もあるのですが、そこはそれ。SFならぬ「MF」(Medical Fiction)ということにしてしまいましょう。確かに若干突拍子もなさすぎるような設定もありましたが、この作品世界ならありだと思いますし、説明が細かいので、説得力を持たせることには十分成功していると思います。

この物語は、かなり構成が複雑なのですが、決して難解という訳ではありません。ただ、あまりにも色々な物を絡ませすぎて、見た目複雑に見える嫌いはあります。もう少し要素をシンプルにしても良かった気がしました(例えば恵の過去。あれはあれでサイドストーリーとしてはありですが、ただでさえ複雑な構成が、あそこで淀んではいなかったでしょうか)。その方が、前面に出すべき要素がもっと際立ったのではないかと思うのです。リッチと有咲の関係など、クライマックスの最大の見せ場なのですし、むしろそちらに前半からある程度の描写を割いても良かったのではないでしょうか。

しかし、この作品の構成はなかなか凄いです。途中で「えっ!?」という展開をしたかと思ったら、その後で更に読者の裏をかくような事実が明らかになり、前半の謎が徐々に解けていき、ラストに向かってどんどん盛り上げて行く、その盛り上げ方が実に見事でした。それだけでなく、二転三転どころではないほど、ストーリーが予想外の方向へ転がって行くので、最後まで気が抜けません。ハマると途中で中断できなくなるパワーを持った作品です。二転三転し過ぎて、キャラクターの出番に、展開によって妙にむらがあるのはご愛嬌かも知れませんが。

キャラクターは多彩で魅力的です。特に、ゴートやリッチは、人間以上に人間的で非常に印象に残りました。また、バトルシーンも結構出てきますが、戦闘の緊張感、ぎりぎりの状態から知恵を捻って解決法を見出す、そのカタルシスも十分に味わえます(最後は少しあっけない決着のつき方をしますが)。難を言えば、シリアスなバトルシーンでも、登場人物が変なギャグを飛ばして空気が緩んでしまう箇所があるのは、ちょっとずっこけてしまいましたが(笑)。

ただこの作品、かなり難易度が高いです。最初にプレイした時はバッドエンドでしたが、最後の最後でいきなり終わってしまった時は、絶句してしまいました。しかもこの作品、選択肢分岐タイプではなく、フラグ分岐タイプで、分岐条件が大変分かりにくいのです。悪いことは言いませんので、作者さんのサイトのヒントを参考にすることをお薦めします。既読スキップが非常に高速な吉里吉里なのでまだ良かったですが、これがティラノ製だったら、途中で発狂して放り投げていたと思います(笑)。

もう1つ。この作品は発言者の名前が表示されません。それでいて文章は、小説タイプというより典型的なノベルゲームタイプです。なので、登場人物が画面に複数出てきて、会話が入り組んだ内容になってくると、誰が発言しているのかよく分からなくなる箇所が多く、面食らいました。そういう箇所は少し注意して読むのがいいでしょう。また、これだけの長編ですから仕方ないですが、誤字や誤用がちょっと多いのが気になりました。

ツールは吉里吉里ですから、プレイしやすさは保証付きです。シナリオ選択画面など、ユーザーインターフェイスも凝っています。選択肢はさほど多くないのですが、上に書いたように分岐条件は大変分かりにくいですので、難易度は高く、ノーヒントではかなり苦戦するでしょう。エンディングは、グッド、ノーマル、バッドの3種類。プレイ時間は4〜5時間くらいです。長編ノベルの醍醐味を味わえる大作で、SFがお好きな方ならきっと楽しめると思います。軽く読める短編もいいですが、やはり重厚な物語で得られる満足度は、長編ならではです。時間がある休日に、読んでみてください。
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