第653回/Never mind, no matter. - ハルカナココロ(Trifling Mud) - オムニバス・その他
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第653回/Never mind, no matter. - ハルカナココロ(Trifling Mud)

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ハルカナココロ

ハルカナココロ準推薦
■制作者/Trifling Mud(ダウンロード
■ジャンル/心のあり方考察ノベル
■プレイ時間/45分

心のあり方を哲学的に問うた作品を5つ集めた短編集。寿命を迎えたロボット回就業者の話。卒業する先輩に想いを伝えられない主人公の話。色盲の研究者と2人の仲間が議論する話。教師が生徒に心と体についての講義を受ける話。そして物質の実在についての難しい話。少しエンターテインメント、ほとんど哲学という、変わった雰囲気の5本詰め合わせ。

ここが○

  • 難しい内容を噛み砕いて説明した内容。
  • どの作品もちゃんと小説らしいオチがつく。
  • こういうのを考察するのが好きな人なら、考えがいがある。

ここが×

  • 説明が長すぎて、人によればついていけないかも。
  • キャラが終始難しいことばかり言っているので、感情移入しにくい。
  • 用語集は字が背景色に紛れて非常に読み辛い。

■Never mind, no matter.

最近、立ち絵付きの作品が多かったのですが(最近じゃなくていつもか(笑))、今回は文字だけの作品をご紹介。5本の短編(掌編)を収めた作品集です。個々の話に繋がりがある訳ではないのですが、どの作品も「心の存在」「物の実在」など、哲学的なテーマを取り上げており、世に溢れるノベルゲームの中でも、一際異彩を放っています。

まずシナリオ選択画面が独特です。「あなたは心に非物理的側面があると思いますか?」という問いに対して、5つの答えが提示されます。その中のどれを選ぶかでそれぞれのシナリオに入り、その回答に即した内容の短編が読めるという構成。このシナリオ選択や、最初のタイトルの出現方法など、地味な演出ではあるのですが、作品テーマに上手くマッチして、非常に効果をあげていると思いました。

ハルカナココロ1本目は「輪廻転生」。寿命が迫った家庭用ロボットを回収する、廃品回収業者が主人公です。「延々と哲学的説明が続く」作品がほとんどなのですが、この作品だけは「ちょっと哲学的味付けをしたSF短編」ですので、5本の中では一番読みやすいかもしれません。そしてSFショートショートらしい落ちに感心させられました。話の締め方も上手く、読後感も良好です。ロボットに心などないと言っていた主人公炉子に、少し心を感じました。

2本目は「物理主義者のお守り」。途中の先輩の解説が長いですが、青春ものとしてとてもよくできた話だと思いました。主人公蔵丸は唯物主義のような言動をするのですが、ラストはほんのり、唯物主義ではないロマンを感じさせてくれます。5本の中では、私は一番気に入った話です。ただ、蔵丸と主人公の性別が明記されていないのは、好みが分かれるところかも知れません。

3本目は「モノクロの真理」。色盲の主人公に色が分かるような手術をする前日、主人公の治療法を見つけた研究者と、主人公を手術する医師の2人が、ひたすら哲学的議論をする話。これもほとんどは説明なのですが、後半で明かされる事実に目を見開かされました。こんな話を読んでしまうと、こうしてレビューを書いている私の存在すら、もしかして誰かに作られたのではないかという疑心暗鬼に駆られます(笑)。

4本目は「心って何?」。生徒が先生に心のあり方について授業をするお話。一元論、二元論という概念はキリスト教神学でも出てくる言葉で、私にも少し心得がありましたので、比較的スムーズに読み進められました。ただこの話は、全5本の中で、一番エンターテインメント的展開が薄いので、人によって好みは分かれるでしょう。しかし、落ちの付け方は結構好きです。

5本目は「机はあるか?」。作中で論じられる観点は、心理学だか精神医学だか教科書で学んだことでしたので、これもそこそこ入っていきやすく感じました。これも4本目同様、ほとんどが単なる哲学論(実在論?)の解説ですので、人によっては付いていけないかも知れません。しかし最後の最後、ほんの一つの描写で全てが引っくり返されるラストに驚きました。あのラストならば、長々とした解説も決して意味がないものではありません。哲学のお話かと思いきや、ショートショートとしてもよくできています(好みの問題は置くとして)。

全体に、エンターテインメントが薄い作品が多く、また登場人物は終始難し目の哲学の話をしていますので、一般的な物語のように感情移入しやすいかというと、それは少し難しいと言わざるを得ません。しかし、途中まで難しい議論や解説ばかりと思いきや、最後で読者に一撃を食らわせる作品ばかりで、その意味で短編としてよく出来た作品ばかりです。最後に驚かされる系のショートショートがお好きなら、楽しめるのではないでしょうか。

登場キャラクターの名前が分かりにくい作品が多いですが、ちょっとしたお遊びが仕込まれていたりもしますので(読了後のあとがきで解説されています。志毛愛作=アイザック・アシモフとか)、そう言ったところに注目してみても面白いかも知れません。作中で黄色く表示される単語は、クリックすると用語解説が読めます(「街」みたいな感じ)。ただこの解説がエンボスが施されたグレーの背景の上に白い字ですから、読みにくいことこの上なく、私は途中から用語集は読むのをやめました。背景色を工夫してもらえるとありがたかったのですが。

ツールはNScripterです。5本の短編を読んで、45分から1時間というところだと思います。確かに難解な解説が多いのですが、難しい哲学の話を登場人物たちが噛み砕いて話してくれており、知的好奇心が大いに刺激される作品集です。私はこの作品をプレイして、ちょっと哲学の本を読んでみたくなりました。たまにはこういう、考えさせられる物語もいいのではないでしょうか。
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