第654回/事件は現場で、推理は取調室で - 取調室(バニラ最中) - ミステリー・サスペンス
FC2ブログ

NaGISA net - フリーノベルゲームレビュー

ARTICLE PAGE

作品リスト − 新着順名前順プレイ時間順ジャンル別掌編
久住女中本舗作品リスト - 新着順/名前順
Peing質問箱(リクエスト、ご質問お気軽に)

第654回/事件は現場で、推理は取調室で - 取調室(バニラ最中)

ミステリー・サスペンス
  • comment0
  • trackback-

取調室

取調室準推薦
■制作者/バニラ最中(ダウンロード
■ジャンル/取調室で真実推理ノベル
■プレイ時間/20分

とある富豪の使用人が山中で、バールのようなもので撲殺された。事件現場には、事件直後に燃やされたと思われる、一万円札の大量の燃えかすが。犯人は一体何のためにそんなことをしたのか? 取調室には5人の重要参考人が呼ばれた。担当の刑事古谷は、取調室の尋問で事件の全容解明に挑む。しっかりロジックが組み上げられた、短編ミステリーノベル。

ここが○

  • 事件のロジックがしっかりしており、ミステリーらしい心地よさが味わえる。
  • 解決の意外さではなく、事件の意外さで読み手を掴む。
  • 難易度が適度で無理がない。

ここが×

  • 短いので、底の深さには欠ける。
  • 取り調べから解決という流れがあっという間で、少しあっけない。
  • 動機の部分は解決編で語られるだけなので、味気なさも。

■事件は現場で、推理は取調室で

立ち絵なし(今作は影絵ですが)の作品が2作連続です。この作品はプレイ時間20分ですから、掌編に近いくらいの短編ですが、短編では珍しいミステリー。短編に限りませんが、フリーノベルゲームのミステリーって、どちらかというと、トリックに力が入っている印象があります。もちろん、ミステリーの醍醐味の一つは凝ったトリックですから、その方向性はもちろん一つのやり方ではあります。

ただ、トリックだけに偏重してしまうと、意外と前半が退屈になってしまうものです。読み手が徐々にトリックに気付くような作りならいいのですが、なかなかそうなっている作品は(プロが書いたものでも)多くはありません。が、この作品はトリックという、「事件の解決法」が意外というより、「事件の概要」そのものに意外性があって、まず序盤から「この事件はどういう意図で行われたのか?」と読者を掴んでくれます。

取調室何せ、殺人事件の現場で、大量の一万円札(億を超える)が燃やされてしまっているのです。犯人は一体何の意図があってそんなことをしたのか? この情報だけでも不思議に思いませんか? そしてこの燃やされた一万円札は、ちゃんと解決編において、無理のない納得のいく理由が説明されています。これを読んだ時、私は「なるほど確かにこの理由なら燃やされていてもおかしくない」と、心底感心しました。

事件は、山中で行われた撲殺事件。殺されたのは、宮地家という富豪の使用人園田一夫なのですが、この使用人は盗み癖があったり、評判の悪かった人物。そして、直前に宮地家からは、当主の部屋の金庫から2億円が盗まれており、園田が犯人なのではないかと目されています。だとしたら、犯人は金庫の中に2億円があったのを知っていたはず。こうして、取調室に、金庫に2億円があったことを知っていた5人が呼ばれることになりました。

しかし、だとすれば2億円が燃やされていたのが何故なのか、一層謎です。主人公の警部古谷は、5人の重要参考人に対する質問だけで、真相を推理せねばなりません。ゲームは取調室の中だけで進みます。5人の重要参考人は、被害者の3人の息子、園田家の執事、それに園田家の使用人の若い女性の、合計5人。質問は参考人本人のこと、被害者園田のこと、2億円についての3種類だけです。

そして、全員に質問し終わると推理パートに入ります。ここでは、必要に応じていくつかの選択肢の中から正解を選ばねばなりません。間違っても即ゲームオーバーにはなりませんが、間違えていいのは5回までです。私が、初見のプレイで正解にたどり着けましたので、難易度はそこまで高くないと思います。

犯人は割とすぐに分かるでしょう。状況からその1人しか犯人たり得ないからです。そして解決編で明らかになる「何故2億円が燃やされていたのか」の理由には、上で書いた通り感心させられました。変にトリックに凝るのではなく、この部分だけにフォーカスしたため、これだけ短い作品でありながら、単なる「犯人当てクイズ」ではなく(ある程度の長編でもこうなってしまっている作品は結構ある)、ミステリーとしてしっかり成り立っています。作者さんはこの手の作品をかなり研究しているのではないかと感じさせられました。

ただ、舞台が取調室の中だけで、動機の部分についてはあまり深く語られていませんので、そこには少々物足りなさを感じましたが、20分の超短編であることを考えれば、十分だと思います。これで動機にまつわる人間ドラマまで盛り込んだら、この長さには到底収まりませんし、そうなると舞台も取調室だけでは無理がありますからね。

影絵だけの地味な作品ですが、見た目が地味でもこれだけ上質な作品が作れるんだなと、感服した一作です。ツールはティラノスクリプト(ティラノビルダー)。選択肢は質問時や解決編に結構な数存在しますが、基本的には一本道です(推理を間違えるとバッドエンドですからご注意)。短いながら、ミステリーとして本格的で読み応えもあります。短編ミステリーの傑作だと思います。このジャンルが好きでなくても、難易度は決して高くなく、ロジックの妙を味わえる作品ですから、是非気軽にプレイしてみてください。
関連記事

Comments 0

Leave a reply