第676回/時の女神が微笑むその時 - 黒のクロノス(ゲシュタルト邦会) - 不思議系
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第676回/時の女神が微笑むその時 - 黒のクロノス(ゲシュタルト邦会)

不思議系
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黒のクロノス

黒のクロノス準推薦
■制作者/ゲシュタルト邦会(ダウンロード
■ジャンル/時の女神の時間操作ノベル
■プレイ時間/2時間半

徹夜で試験勉強をしていたつもりの主人公は、朝目が覚めて愕然とした。運命を左右する試験当日なのに、全然勉強できていない。せめて1時間時間が止まって欲しいと願った時、彼の目の前に時を司る女神という少女が現れる。主人公に対し、女神は「おめでとうございます!」とにこやかに言った。これは時の女神と出会い運命を変えた、三人三様の物語。

ここが○

  • 設定が生かされた展開の面白さ。
  • 魅力的なクロというキャラクター。
  • 徐々に話が大きくなり読み手を飽きさせない。

ここが×

  • 文章が凝りすぎの感。
  • そして漢字を使いすぎ。
  • 一部の設定が少々怪しい。

■時の女神が微笑むその時

今回はまたちょっと古い作品をご紹介します。初出は2007年。当初は「時間の女神の贈り物」というタイトルでした。その後「黒のクロノス」というタイトルに変わってリメイクされ(この時のツールはYuuki! Novel)、更にその後ツールをLive Makerに変更して再度リメイクされました。再度のリメイク前は、今作で言う第1話しか収録されていませんでしたが、この作品では全3話が収められており、ようやく完成したと言えそうです。これが2012年のことでした。

この作品は全3話のオムニバス形式です。各話で主人公は異なるのですが、全話に共通して登場するのが、タイトルにも登場する(「クロノス」とは時間の神の名前です)、時の女神の少女。黒一色のゴシックロリータ風の衣装に全身あちこち時計を纏っている外観が特徴的です。特に名前を持っていない彼女は、第一話の主人公から「クロ」と名付けられ、以降その名を名乗ります。

黒のクロノス第1話は、高校生の少年が主人公。英語が非常に苦手な彼は、試験の為に徹夜で勉強していたのですが、その途中に眠り込んでしまい、全然勉強できていない状態で目覚めます。そこにクロが現れ、1時間だけ時間を止めてもらうのですが、その1時間を利用して、彼はなんと試験の問題用紙を盗むという計画を立てました。そして彼が出くわす、思わぬトラブル。

トラブルの解決法は、実は遭遇した時にすぐに予想できたのですが、語りすぎず端折り過ぎず、バランスが良好で、まずまず良い読後感でした。そして第2話は、森の中の木の前に佇んでいた美大生の女性が主人公。彼女がクロから与えられた時間は「1日」なのですが、彼女はその時間、クロとただ一緒に過ごすことを選び、クロをモデルに絵を描き始めます。

この話も、オチの付け方(主人公である女性の秘密)はある意味予想の範囲内でした。むしろ、お話の展開や主人公の境遇云々よりもクロの、時の女神ならではの苦悩が描かれたのが印象的でした。ハッピーエンドとは言えない終わり方ですが、主人公なりに前向きな希望を見出していて、決して読後感は悪くありません。ラストの桜のシーンは大変美しく、余韻も上々でした。

そして第3話。対人恐怖症の30代の女性が主人公。彼女の乗った飛行機がエンジントラブルを起こし、墜落を待つばかりという凄い状況のところに、クロが現れます。彼女に与えられた時間は3時間。その時間を戻せば難を逃れられるかと思いきや、離陸から既に3時間以上が経過している為、それでは助かりません。そこでクロは驚くような計画を主人公に持ちかけました。

このお話は、展開が展開だけにかなりの緊張感を持って読むことができました。その中にあって、クロが時々上手く「緩めて」くれるのですが、決して緩みっぱなしではなく、締める時はしっかり締めてくれます。その為、最後までだれることなく読めました。ラスト近くの展開は、あまりに力技と言えばその通りなのですが、架空のお話ですし、あれくらいはいいのではないでしょうか。欲を言えば、前半から主人公についてもう少し伏線が欲しかったですが。

ただ、ちょっと気になったことが。作中では、左翼のエンジンが停止してわずか30分程度で、飛行機が「あとは墜落を待つだけ」という危機的状況に陥っていますが、実際には飛行機はエンジンが1つ止まったくらいで落ちたりはしません(それどころか、エンジンが全部止まっても簡単に落ちません。無論航続距離は短くなりますが、航路もそれを考慮して決められているはず。機体に穴が空いたり、尾翼が吹っ飛びでもすれば別ですが)。そこはもう少し説得力のある描写が欲しかったように思います。

あとは、文章が凝り過ぎていて読み辛いです。もちろん文章力自体は高いのですが、文章表示スペースが4行(地の文の場合。キャラの発言の場合は3行)しかないのにこれは、ちょっと読みやすいとは言えません。後書きで元々は小説だった旨を読み、宜なるかなと思いました。この文章スタイルならば、全画面ウィンドウの方が適切だったのではないでしょうか。それに、後半の話では、読み手がとっくに知っている事実(クロが時の女神で、登場時は時間が止まっていること)を、毎度初めて遭遇するごとくに延々と描写される為、その箇所は若干くどく、胃にもたれます。

加えて、漢字を使い過ぎている上、ルビがほとんど振られていないので、この点でも読み辛さが助長されています。「其処(そこ)」「在る(ある)」「此れ(これ)」「所為(せい)」「凡そ(およそ)」辺りに始まって、「聊か(いささか)」「蕩ける(とろける)」「徐(おもむろ)」「形振り(なりふり)」「傾らか(なだらか)」「巫山戯る(ふざける)」に至ると、読めない人が続出すると思われます。歴史物やハイファンタジーにおいて、ネットスラングや現代の若者言葉を使うのも興醒めですが、現代を舞台にしたこのような作品で、ここまで(普通の人が読めなくなるほど)漢字ばかり使うというのも、いかがなものかと(しかも年齢の比較的若い主人公の、一人称の文章なのに)。

しかし、後半へ行けば行くほどだんだん話のスケールが大きくなっていく様子は、上手く構成されています。その為、それぞれの話の間には何ら相関はないのですが、その構成のお陰で全話読み終わった時の充実感はかなりのものでした。ラストシーンは全3話、どのお話も印象的なのですが、特に第3話のラストシーン。クロから主人公へのメッセージは非常に胸を打つものがあります。

ツールはLive Makerです。選択肢はなく、プレイ時間は2時間半から3時間というところ。第1話と第2話は40分程度ですが、第3話は1時間半くらいで少し長いです。1枚絵や立ち絵は非常に美しく、全身に時計を配したクロのデザインも魅力的。クロには声がついていますが、この声と演技も、実にいい感じでした。メニュー画面と切り替える時の画面効果も凝っています。少し古い作品ですが、読み応えとエンターテインメント性を両立した作品です。
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