第683回/時を越えて綴る鼓動 - ツヅリマツリ(お茶漬けソフト) - 不思議系
FC2ブログ

NaGISA net - フリーノベルゲームレビュー

ARTICLE PAGE

作品リスト − 新着順名前順プレイ時間順ジャンル別掌編
久住女中本舗作品リスト - 新着順/名前順
Peing質問箱(リクエスト、ご質問お気軽に)

第683回/時を越えて綴る鼓動 - ツヅリマツリ(お茶漬けソフト)

不思議系
  • comment0
  • trackback-

ツヅリマツリ

ツヅリマツリ■制作者/お茶漬けソフト(ダウンロード
■ジャンル/夏の故郷で記憶探しノベル
■プレイ時間/1時間半

高校生の立花蓮は、故郷の美野里町を離れ、今は東京で独り暮らしをしていたが、入院している父親の見舞いがてら、夏休みに帰省してきた。そこで出会った記憶喪失の少女。恒例の「綴祭」が近づく中、自分の名前も覚えていないその少女に、蓮は安藤みのりという名前をつけ、彼女の記憶の鍵を求めて、町を彷徨う。定番の「夏に帰省」物語。

ここが○

  • 適度なボリュームと起伏のある展開。
  • 複数の謎と伏線を上手く絡ませている。
  • エンディングテーマ曲が素敵。

ここが×

  • 絵はいまいちかも。
  • 先読みがしやす過ぎる気がする展開。
  • ラストが少々呆気ない。

■時を越えて綴る鼓動

フリーノベルゲームで、一番多い舞台は「夏に実家や故郷に帰省する」です。一番最近の作品では「永遠の夢見」がありますが、他にも「MONOHROME」「探し物は、夏ですか」「あの灯りの向こうにポックリが鳴った夏」「ずっと一緒に――」などなど、沢山あります。それらが、舞台が似ているから似たような物語かというともちろんそんなことはなく、どれも個性的な名作揃いです。

「夏の帰省」ものは、定番の舞台だけに、色々な要素を盛り込めるということなのかも知れませんね。この作品は、主人公の蓮が、記憶喪失の少女と出会うところから物語が始まります。この少女は、名前すらも全く覚えていません。成り行きから、蓮は彼女と行動を共にし、名無しでは困るので、町の名前をとって、便宜的に「安藤みのり」という名前をつけました。

ツヅリマツリそんな2人に、途中出会った中学校時代の同級生、安藤しおりとも協力して、みのりの記憶の鍵を探すことになります。安藤みのりと安藤しおり、結構紛らわしいです(笑)。この作品、絵はお世辞にも上手いとは言い難いです。しかしずっと見ていると、何だか絵本の挿絵のように思えてきて、悪くないようにも思えてきました。作者さんが自分で描いているせいか、変に既存の立ち絵素材を使うより、しっかり作品世界を表現できている気もしますし、これはこれでありな気もします。

ただ、演出がどうにもこなれていない感があるのは気になりました。特に気になったのは、序盤でみのりが空腹を訴えるシーン。やたらとお腹の音のSEが流れますが、これはちょっとしつこいです。お腹が鳴る音なんて、聞いていて心地良い音でもありませんから、せいぜい2、3回で十分ではないでしょうか。演出面にもう少し気を配ると、より雰囲気が高まったように思いました。また、テキストウィンドウが完全不透過なので、背景や立ち絵が見えず、これは損をしています。透過ウィンドウにするとイメージがだいぶ変わったのでは。

さて、物語は蓮とみのり、しおりをベースに少し他の人々も絡んで進んでいきます。キャラクターはまずまずよく作られており、物語の長さと動き具合のバランスがちょうどよく、途中で退屈せずに読めました。また、みのりの記憶の他にも、蓮の父親との関係や、しおりの親戚との関係など、謎が複数用意されており、それらが密接にシナリオを支えているのが上手い点です。

実は、個々の謎については、比較的容易に先読みが出来るのですが、それがいくつも用意されていることで、よくある謎の組み合わせであるにも関わらず、シナリオの奥行きが増しています。いたずらに珍奇な設定、斬新なアイディアばかり追い求めなくても、読み応えのある物語は作れるといういいお手本だと思います。定番の手法でも、組み合わせることで物語としての完成度は上げられるということです。

ただ、やはりそれぞれを単体で見ると、定番の設定であるため、先読みはしやすい物語です。単体の謎について、もう少し深く描写すれば、印象がかなり変わったかも知れません。みのりの過去や、蓮の父親、それから正二との件については、過去回想を入れるなりして、もっとしっかりバックボーンを作れば、より完成度の高い物語になったのではないかと思います。

それぞれの謎が解けていくタイミングや順序はよく考えられており、読み手を置いてけぼりにするようなところもなく、この点では大変好印象でした。ラストがあまりにあっさりと終わってしまったのがちょっと気になりましたが(いくら父親が大変とは言え、みのりをああ放置したのでは、ラストシーンで感動を演出するのは少々難しいのでは)、終わり方自体は綺麗にまとまっています。

個人的な印象としては、みのりかしおり、どちらか一方の女性キャラにもう少し比重を置いて、恋愛面でも絡ませてみれば、よりラストに印象が強まったように思います。しかし、案外これくらいあっさりまとめる方が、この作品の作風にはあっているのかも知れません。エンディングテーマ曲はオリジナルで(ジョーカーサウンドですね)、作者さんが作詞していますので、当然作品世界にぴったりでとてもよくできています。ラストで「いや時効成立してるでしょ」とツッコミを入れたくなりましたが(笑)。

ツールはティラノスクリプト。一番上に謎のバーが表示されているのが若干謎です。選択肢はなく、プレイ時間は1時間半くらい。絵が巧みとは言えないので、第一印象ではあまり惹かれない人がいても無理はないかも知れません。文章もすごくこなれている訳ではありません。なんとも素朴な作品です。しかしプレイしているうちにその素朴さをも、作品世界を構成する一要素に思えてきて、魅力的に感じてくるのが不思議です。美麗な立ち絵、一枚絵の作品もいいですが、たまにはこういう素朴な物語はいかがでしょうか?
関連記事

Comments 0

Leave a reply