第685回/記憶を求めてたどる思い出 - あの日の記憶(不思議ノベル制作部) - 不思議系
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第685回/記憶を求めてたどる思い出 - あの日の記憶(不思議ノベル制作部)

不思議系
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あの日の記憶

あの日の記憶■制作者/不思議ノベル制作部(ダウンロード
■ジャンル/記憶を取り戻す一日ノベル
■プレイ時間/40分

交通事故で1年も意識不明だった石田ユウスケが、ようやく目を覚ます。しかしユウスケは事故より前の記憶の多くを失っていた。幼馴染のカズマとアユミにドライブに誘われ、記憶の鍵を探すのだが、ユウスケの記憶と彼らが語ってくれる過去は、色々なところで食い違っていた。ユウスケは果たして記憶を取り戻せるのか。そして隠された真実とは?

ここが○

  • 落ち着いて整った文章。
  • 程よく謎めいている展開。
  • すっきりしたラスト。

ここが×

  • 日本語がちょっと怪しい箇所が。
  • 会話が続いて発言者が分かりにくい箇所が多い。
  • 終わり方が少々素っ気ない

■記憶を求めてたどる思い出

何度か作品を取り上げた、「不思議ノベル制作部」の作品です。一番最近ご紹介したのは「ephemeral you~閉ざした記憶~」ですね。私は「幽霊には祈らない」が印象に残っています。このサークルは、シナリオを書く方が複数いるのか、作品ごとに雰囲気が違っていて、読んでみるまで分からない面白さがあります。もちろん、基本スタンスはサークル名通り「不思議ノベル」なので、その点では安心感もあります。

「ephemeral you」「幽霊には祈らない」は幽霊ものでしたが、今作は事故の後遺症で記憶を失った大学生、ユウスケが主人公。そんな彼の元に、幼馴染のカズマとアユミが訪ねてきます。カズマの車でドライブし、思い出の場所を回ってみようというのです。そうすれば、記憶を取り戻すきっかけが掴めるかも知れないから、と。あまり気乗りがしないまま、ユウスケは彼らに同行します。

あの日の記憶この作品、伏線はかなり分かりやすく提示されていますので、人によればすぐに真相に勘付いてしまうかも知れません。しかし私は今作はその作りで正解だったと思います。伏線をあまりに分かりにくくすると、真相を明かされた時に、言いようもない疲労感を覚えるものです(笑)。これくらい堂々と提示し、謎くらいバレてもいいくらいの方が、ある意味気持ちよく読めると思います。

そもそも、作者側ではどうしても全てを知っているため、「これくらい書いたらバレてしまうのでは」「バレたら面白みがなくなるのでは」という思いから、伏線の張り方が控えめになりがちです。しかし、得てして伏線の捉え方というのは、作者側と読者側では、齟齬があるものです。つまり、作者の意図したほど、伏線というのは明確に伝わらないものです。実際この作品も、「開始1分で謎が読めた」という人もいれば「全然分からなかった」という人もいるようです。それでいいと思います。

それにこの物語は、謎が読めたからと言って、面白みがなくなるような作りではありません。謎に気づいたら気づいたで、その答え合わせをする面白さもありますし、何故そのような事態になったのかだとか、どのように話をまとめるかというような読み方もあります。あえて伏線を分かりやすく張り、読者に話を理解しやすくしたこの作品の作りは、ですから私は前向きに評価したく思います。

さて、ユウスケは事故前にアユミと付き合っていたのですが、どうもアユミとカズマの様子が妙です。どうやら事故で眠り続けている間、いつの間にかアユミとカズマが付き合うことになったようなのです。そして、3人が通っている大学や、かつて通っていた小学校に行くのですが、行く先々でユウスケの記憶と、アユミ、カズマの話が食い違います。この辺りのユウスケの焦り、不穏な気持ちの描写は上手いですね。特に、アユミ、カズマに対する複雑な心境が、よく描けていると思います。

ただ、文書自体はよく書けていると思うのですが、ところどころで怪しい表現が目につきました。「剣幕な調子」(「剣呑な調子」の間違い?)「立腹しげ」(「腹立たしげ」?)「すねた気持ちにさせられた」(ちょっと不自然で回りくどいような)など、少し気になりました。もう一つ、会話文がずっと続いて、誰が発言しているか分かりにくくなる箇所が結構あります。この作品は、会話文の前に発言者が出ない全画面ノベルタイプですから、そういう場合は、会話の内容でそれとなく発言者を示唆するようにした方が、読み手に親切だと感じました。それ以外は、過剰にレトリックに走らず、文章も平易で読みやすく、文章のレベルもなかなか高いと思います。

そしてラスト。淡々と事実が明かされるのですが、まとめ方が上手く、すっきり綺麗な終わり方でした。ただ、少しそれまでの引っ張り方からすると、幕引きがあっさりし過ぎている印象もあります。ユウスケとダイスケのことや、ユウスケとカズマ、アユミの過去について、過去回想などでもう少し語っていれば、全体に分厚い物語になった気もしますが、短編ですからこれくらいさらりと流すのが正解なのかも知れません。

ツールは吉里吉里。選択肢のない一本道で、プレイ時間は40分ほど。読んでいる最中は、何とも不安感を煽るような展開、やり取りなのですが、ラストは綺麗にまとまっていますし、ほどほどに意外な驚きも感じさせてくれます。この制作者さんの持ち味が上手く発揮された作品だと思いました。「ちょっと不思議なお話」を読んでみたい時に、お気軽にどうぞ。
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