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第690回/笑顔で去り行く大正浪漫 - 笑顔の君で(カンランセキ)

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笑顔の君で

笑顔の君で■制作者/カンランセキ(ダウンロード
■ジャンル/大正浪漫の幼馴染ノベル
■プレイ時間/20分

旧制中学校に通う南海道正一には、女学校に通う幼馴染の北条小梅という友人がいた。2人はつかず離れず、程よい距離を楽しみ、その日も一緒に食堂へ行き、正一は小梅の奢りでご飯を食べたのだが、小梅の様子がなんだかおかしい。深く考えずに小梅と別れた正一だったが。珍しい舞台設定で送る、ストレートな幼馴染の物語。

ここが○

  • ストレートで心地よい予定調和の物語。
  • 正一と小梅の程よい距離感の描写。
  • ホほっとするラスト。

ここが×

  • 予定調和過ぎて意外性はほとんどない。
  • 文章や口調が時代設定に合わない箇所も。
  • ウェイトが多くてカットできない。

■笑顔で去り行く大正浪漫

最近では、やたらメンヘラとかヤンデレを前面に押し出した、尖った作品が増えてきた気がします。それはそれで、創作の多様化の表れですから、好ましいと思うのですが、一方で素朴でストレートな展開の、安心できる物語が激減した印象があります。色々作品をチェックしてはみるのですが、どうにも先鋭的な作品が多く、そんな時は、正統派で安心できる物語が無性に読みたくなります。

そんな訳で、古めの作品からちょっと面白い雰囲気の短編を探してきました。タイトルも素朴で、逆に嬉しくなってきます。この作品は、恐らくは大正時代か昭和初期辺りの物語ではないかと思われます。作中に電話をかけるシーンが出てきまして、交換手に繋いでもらうのですが、この方式が確かこのくらいの時代なんですよね。番号をかけると相手に繋がる方式が昭和初期に採用が始まったはずですから、おおよそ大正〜昭和初期くらいの時代ではないかと(ギーコギーコとハンドルを回すシーンがあり、この描写だと古い磁石式だと推測されますので、個人的には大正説をとりたいです)。そんな訳で「大正浪漫」という単語を使ってみました。

笑顔の君で主人公は、旧制中学校に通う南海道正一。ヒロインは、女学校に通う北条小梅。この時代の教育制度は、尋常小学校→高等小学校→旧制中学校(または女学校)という感じだったはずで、進学率は当然今のように高くはありません。尋常小学校だけで終わる人も多かったようです。

そういうことを考えると、主人公である正一はかなりいい境遇だったのでしょう。今でいうエリート出会ったと想像できますし、女学校に通っていた小梅に至ってはなおのことで、結構なお嬢様であると思われます(作中にそれを示唆する描写が出てきます)。このようなことを考えながら読んでみるのも、楽しいものです。

正一は、いかにもこの時代らしいつっけんどんな態度をとりますが、小梅がそれを上手くいなす様子が面白いです。2人のやり取りがなかなか軽妙で、楽しく読むことができます。「キネマ」なんて言葉を使っているのも、それっぽい感じ(この言葉を使っているのも、大正説をとりたい根拠の一つです。昭和に入ると「シネマ」がだんだん主流になっていったそうですから)。

ただ、細かいやり取りをみると、少し時代設定にそぐわないような描写もありました。まあ気にするほどではないのですが。なお、作中で「つばめ」という特急が出てきました。今では九州新幹線の名前ですが、昔は東海道本線及び山陽本線を走る、日本でも最も早い特急の名前でした。なので、舞台は東海道沿線のどこかではないかと予想します。

ラスト近くで、小梅が隠していた秘密が明らかになります。この秘密自体は、非常に使い古されたネタで、読んでいても薄々気づくかも知れません。にも関わらず、前半であまり明確な伏線が張られていないんですよね。なので、なんとなく先の展開が読めるのに、妙な唐突感を感じるという結果に。どうせ読み手が気付くのなら、もっと前半から堂々と伏線を張ったほうが、後半の展開が生きたような気がしました。

その後の展開からラストは、とても綺麗なまとまりでした。ある意味あの時代ならではの展開と言いますか。非常にストレートで予定調和の極みではあるのですが、時代背景もあって、そのストレートさが心地よく心に響きました。全体の雰囲気といい物語といい、非常にほっとできる作品です。自作の背景画像が、またいい具合にノスタルジック。豪華ではないのですが、世界観にはよく合っていたと思います。

ツールは吉里吉里です。ただ、フェードアウトなどのエフェクトの時間が少々長く、それをカットできないのは、若干ストレスかも知れません。Vectorのレビューでは、それが原因で星1つを付けられていました。星1つにするほどのことではないと思いますし、そんなことを言っていたらティラノの作品は軒並み減点になってしまいかねません(笑)。短編ですし、私はそこまで気になりませんでした。選択肢はなく、プレイ時間は20分内外。色々な意味で、古き佳き時代のノベルゲーム。和みたいひと時に、どうぞ。
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