第694回/天国行きのすれ違い - 猫の名前は左衛門のすけ(児玉守) - シリアス・感動系
FC2ブログ

NaGISA net - フリーノベルゲームレビュー

ARTICLE PAGE

作品リスト(通常) - 新着順名前順プレイ時間順ジャンル別
作品リスト(掌編) - 新着順名前順ジャンル別
Peing質問箱(リクエスト、ご質問お気軽に)

第694回/天国行きのすれ違い - 猫の名前は左衛門のすけ(児玉守)

シリアス・感動系
  • comment0
  • trackback-

猫の名前は左衛門のすけ

猫の名前は左衛門のすけ準推薦
■制作者/児玉守(ダウンロード
■ジャンル/猫の思い少女に届けノベル
■プレイ時間/15分

左衛門のすけは、かつて行き倒れていたところを夏帆に拾われた飼い猫。それ以来、夏帆のことを慕っていたのだが、ある日猫を襲う通り魔によって殺されてしまう。幽霊(?)になった左衛門のすけは、夏帆のことが忘れられずに密かに夏帆に付きまとうのだが、夏帆のピンチでなんと彼は夏帆のクラスメイトに憑依してしまう。悲しくも心温まる短編物語。

ここが○

  • きちんと起承転結があるストーリー。
  • 無駄なキャラ、イベントがなく、構成が見事。
  • ただの別れでも安易なハッピーエンドでもない、余韻を残すラスト。

ここが×

  • 曲がないシーンが多い。
  • 演出がそっけない。
  • 描写が必要最低限で、ちょっと味気ない。

■天国行きのすれ違い

彼女の気持ちを書き換えて」「地下アイドルやめますか」の作者さんの短編作品です。この作者さんもかなり作風がはっきりしていまして、とにかく描写が必要最低限しかなく、超特急で話が進んでいくのです。ですので、ある意味では大変読みやすいとも言えますし、逆に言えばちょっと味気ないとも表現できます。

ただし本当に必要最小限で、無駄な描写が全くありませんから、構成が上手くハマった時には、独特の構成美を存分に味わえます。「地下アイドル」とこの作品は、それが上手く行った例でしょう。特にこの作品は、プロットが大変よくできていまして、余計な描写がない分、そのプロットの良さがストレートに出ています。この作品のプロットは、中編以上の作品にも勝るとも劣らない出来だと思います。

猫の名前は左衛門のすけ主人公は猫の「左衛門のすけ」。以前餓死寸前で行き倒れていたところを、夏帆という少女に拾われて以来、彼女に買われている飼い猫です。冒頭は左衛門のすけが、猫仲間(?)のミーと会話するところから始まります。左衛門のすけに思いを寄せるミーに対し、夏帆への熱い思いを語る左衛門のすけ。冒頭だけ読んでいると、普通のラブコメのようです。語っているのは猫ですが(笑)。

が、その直後に左衛門のすけはいきなり何者かに切られて殺されてしまいます。幽霊になってしまった左衛門のすけですが、夏帆のことが忘れられず、見えないのをいいことに夏帆に付きまといます。そんなある日、夏帆が危ない目に巻き込まれるのですが、その時飛び出していった左衛門のすけは、なぜか夏帆の同級生である真田に憑依?してしまいます。短い物語ですが、なかなか波乱に富んだ導入部です。

ここからの展開は、猫である左衛門のすけの思いと、人間の側の思いが上手く絡み合っているのが、非常に上手い点です。人間に憑依した左衛門のすけが、思いを夏帆に告げて、最後別れて終わり、なんて当たり前の展開を予想していたのですが、その予想をいい意味で裏切られました。最後の別れを盛り上げるタイプの展開ではありませんが、その分些細なやり取りが実に生きています。最後の、夏帆と真田(左衛門のすけ)のちょっとしたやり取りには、心を動かされることでしょう。この、一見素っ気ないとも思える展開あってこその感動だと思います。

そして短いシナリオなのに、登場キャラクターもそれなりに出てくるのですが、全部のキャラクターにきちんと物語上での役割が与えられており、かつ満遍なく活躍しています。大変よくできた構成ですし、構成とプロットがお互いを引き立てあっている、素晴らしい作りに感心しました。冒頭で出てきたミーもちゃんといい役があり、最後も締めてくれる。短編でこんな見事なキャラの使い方の作品には、なかなかお目にかかれません。

ただやはり描写があまりにも必要最小限ですので、読んでいても「すっ飛ばしている」感はやはり否定できません。プロットと構成はよく出来ているのですが、遊びや微妙な心理描写が物凄く少ないので、もう少し踏み込んで描写しても良かったのではないでしょうか。特に、田島とのくだりについては、やはり唐突さがあります。そこだけでも事前に何か仕込みがあれば、ちょっと印象が違ったような気がします。

また、演出も少し寂しく、曲がないシーンも多いので、そういう意味でも素っ気無さを感じました。まあ、曲は物語の出来栄えには直接は関係ないですが、1時間と言わないまでも、せめて30分の尺でもう少し描写が充実していれば、「推薦」にも値する作品になったと思います(実は評価を迷ったのです)。それだけのポテンシャルを秘めたプロット、構成の作品です。

ツールは吉里吉里。選択肢はなく、プレイ時間は15分。しかし、わずか15分で見事な起承転結を持った物語です。特にラスト近くの展開は素晴らしい。左衛門のすけと夏帆が、お互い(飼い主と飼い猫として)言葉を交わすわけではないのですが、あの時の2人のやり取りは、猫と人間としてではなかったからこそ、心に迫るものがあるのではないでしょうか。「すれ違い」なのに後味が悪くないのが秀逸です。是非プレイしてみてください。
関連記事

Comments 0

Leave a reply