第698回/彼女の全てが好きだから - マルベリーの花(でじたるきゃっと) - シリアス・感動系
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第698回/彼女の全てが好きだから - マルベリーの花(でじたるきゃっと)

シリアス・感動系
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マルベリーの花

マルベリーの花準推薦
■制作者/でじたるきゃっと(ダウンロード
■ジャンル/難民キャンプで育む兄妹愛ノベル
■プレイ時間/2時間

ニースは幼い頃に家族を失い、軍に拾われ少年兵として多くの人の命を奪ってきた。ある日上官に命令され、小さな集落の殲滅を命じられる。いつものように無感情に次々人を死に追いやるが、最後に残った家で殺し損ねた幼女ヒルデを、なぜかニースは助けて軍を逃げ出す。それから始まった2人の生活。硬派な舞台で暖かい兄妹愛を描いた感動物語。

ここが○

  • ニースとヒルデの暖かい交流の様子。
  • フィクションとリアリティが上手く同居した描写。
  • 起承転結のテンポが良く飽きさせない。

ここが×

  • ニースのいきなりの改心に説得力が……。
  • ちょっと急ぎ気味の後半。
  • もう少し伏線を緻密に張っていれば大化けしたかも。

■彼女の全てが好きだから

ハードな舞台の作品って、SFが多く、時折ファンタジーでも見るかなというくらいですが、この作品はSFでもなければファンタジーでもありません。それでいてかなり硬派なイメージの物語。冒頭の主人公が少年兵と言うことで、イメージ的には少し「EDELWEISS」に近いところがあります。尤も、あちらはずばり戦時中でしたが、こちらは内戦の描写こそあれ、明確に戦争中というような描写はありませんが。

この作品を作ったのは、「スノーフレークのため息」の作者さんです。それなりの人数で構成されているサークルのようで、前作もかなり質の高い作品でした。何より、個性的でありながら、過剰に漫画っぽくなく、フィクションとリアリティが上手く同居した作風が好印象だったのですが、今作でもその作風は健在です。登場人物が全員魅力的で、ハードな物語でありながら楽しく読むことができます。タイトルにもなっている「マルベリー」というのは、「桑」のこと。

マルベリーの花主人公のニースは、幼い頃に両親をなくし、軍に拾われて訓練を受けた少年兵。なんの感情も示さずに次々と殺戮を繰り返す冒頭は、なかなか怖いです。そしてニースはある町の殲滅を命じられ、いつものように確実に町の人々を殺していくのですが、ある家を爆破した際、その家の娘である幼女だけ討ち損ないました。その少女ヒルデを見た瞬間、ニースは自分の幼い時の頃を思い出し、ヒルデを連れてその場を逃げ出し、それからヒルデと共に生きることを決意するのです。

と、この冒頭部からいきなり「え!?」と思ってしまいました。あれほど無感情に殺戮を繰り返していたのに、心変わりが急すぎやしませんでしょうか。ああいう描写を持ってくるのであれば、もう少しニースの葛藤を描いてみるとか、色々やりようはあったはずです。読み始めてすぐに、ここが非常に気になりました。

そこを過ぎれば、いきなり5年後。ニースとヒルデは難民キャンプで同じテントに兄弟のように一緒に仲良く暮らしています。ここからはほとんどがキャンプの中が舞台となる上、目立ったイベントもないので、退屈するかと思いきや、ニースとヒルデ、それに女リーダーやクルスといったサブキャラとの交流が上手に絡み、だれることなく読めました。この辺りの、キャラクタードラマとしての作りの上手さは、「スノーフレーク」同様の、この作者さんの強みだと思います。

この物語は章立てになっています。序章から第3章までの全4章構成で、序章と第1章は比較的短く、2章、3章と進むにつれて長くなっていきます。そして2章の後半から一気に物語が動き始めます。ヒルデに隠された意外な事実が、冒頭のイベントとも実は関係していたという作りには、なるほどと思わされました。少し唐突な感は否めないので、もう少し伏線が欲しかった気がするのですが。

そこからラストまでは一気に進みます。この作品、魔法も奇跡も登場しないため、ある意味後半の展開も非常に硬派です。徹頭徹尾リアルな展開に終始します。だからこそ、ニースとヒルデの愛というテーマが、真実味を持って訴えかけてくる力を持っていたと思いました。ラスト近くのニースとヒルデのやり取りには、胸を衝かれる思いでした。感動ものに分類される物語ですが、その感動の質がとても上質です。

ただ、通して見ると少し語り足りない点があったのは否定しきれません。上で書いた、ヒルデの謎についてもそうですし、軍が隠していた秘密についても、せっかく冒頭のイベントにも関係するという上手い繋がりがあるのですから、もう少し伏線を積極的に張り巡らせても良かったように思いました。無理にラストをハッピーエンドにする必要はないですが、そうすればラストの感銘の質がより上がったでしょうし、「推薦」にも値する作品になったかもしれません。それだけのポテンシャルを感じました。

1枚絵は少ないですが、立ち絵と共にとても綺麗です。ほとんどフルボイスですが(一部声のない台詞もあります)、声優さんもなかなか好演。渋い白熊がお気に入りです。ただ立ち絵の一部が影絵なのですが、影絵はちょっと雰囲気にあっていなかったように思います。女リーダーは結構重要な役どころですし、せめて彼女くらいは立ち絵を用意してあげても良かったような気がしました。

ツールはティラノスクリプトです。選択肢はありません。プレイ時間は、台詞を飛ばしまくれば1時間半で読めるでしょうが、要所要所で台詞をきちんと聞けば2時間、台詞を全部聞けば3時間超えるかも知れません。全体的な雰囲気はハードなのですが、会話が軽妙で重いムードをあまり感じさせないところにセンスを感じました。この作者さんの次回作にも期待しています。
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