第702回/天使の歌は誰がために - マサユメテンシ(Petit & Enharmonic☆Lied) - 恋愛
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第702回/天使の歌は誰がために - マサユメテンシ(Petit & Enharmonic☆Lied)

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マサユメテンシ

マサユメテンシ準推薦
■制作者/Petit & Enharmonic☆Lied(ダウンロード
■ジャンル/記憶喪失のアイドルと同居ノベル
■プレイ時間/30分

地井原淳は家事と料理が得意な男子高校生。芸能プロダクションに勤める姉の樹理と、ちょっとませた妹の芽衣と騒がしい毎日を過ごしていた。そんなある日。樹理が連れてきたのは、人気アイドル天海美羽。撮影中の事故で記憶喪失になり、しばらく地井原家で預かるというのだ。好きなアイドルと同居で高まる淳の期待だったが。ラストの演出が見事な短編恋愛物語。

ここが○

  • 柔らかい色調のグラフィックスが綺麗。
  • ラストの演出がとてもいい。
  • その演出に、タイトルも使っているのが見事。

ここが×

  • 前半がかなり駆け足。
  • しかも恋愛ものなのに恋愛描写が希薄。
  • 記憶喪失のくだりに、ちょっとリアリティが欠ける。

■天使の歌は誰がために

お馴染み、Enharmonic☆Liedの向風鈴さんがシナリオを書いている作品です。このサークルは、過去にも色んな他の作者さんと合作企画をやっていまして、どれもお互いの作者さんの持ち味が引き出されていて、楽しめる出来栄えでした。今作も、絵は違うのですが、文章とそして音楽はいつものEnharmonic☆Liedです。開始してすぐに、馴染みの店に入ったかのような安心感があります。

その絵ですが、絵柄も色遣いもどぎつくなく、名に優しいイラストです。短編ですが、見た目からして結構凝った作り。これも合同制作の醍醐味かも知れません。そう言えば、Enharmonic☆Liedの合作作品って、「ユメミルセカイ」「ミライハカイ」と、いずれも片仮名のタイトルですが、何かこだわりでもあるのでしょうか? 「マサユメテンシ」。シンプルで意味深なタイトルですが、後でこのタイトルが効いてきます。

マサユメテンシ出だしは定番という割に、意外と似た展開の物語を見ないのですが、いわゆるボーイミーツガール同居型、またはルームメイト型です。同居のお相手は、記憶喪失のアイドル、その名も天海美羽。ニックネームは「あまみゅ〜」だそうです。いかにもなルームメイト型独特の冒頭部ですが、芸能プロダクションに勤務する姉の樹理、それに妹の芽衣が、上手く物語を支えつつ、彩りも加えてくれています。もちろんメインヒロインの美羽(三和子)のちょっと抜けた感じも可愛く、キャラクターはとてもよくできていると思います。

さて、この作品は恋愛ものなのですが、恋愛ものにしてはやけに前半があっさりしすぎているように思いました。淳と三和子が一緒に何かするのは、ほとんど家の中に限られていて、イベントらしいイベントは後半の夏祭りだけです。なので、2人が恋仲になるリアリティがいまいち希薄なのです。定番のものでいいので、もう1つ2つ何か2人の距離が縮まるような出来事があれば、だいぶ印象が変わったのでは。

リアリティと言えば、三和子が記憶喪失から回復する場面の描写も、少しご都合主義を感じました。まあ物語上の都合と言えばそれまででしょうが、展開としても若干の唐突さが否めません。この辺りまでは、正直に言って、ちょっと展開が急ぎ足で大雑把だなあと思っていたのです。

が、その後のラストの演出が秀逸でした。手法としては決して新しいものではないのですが、上手く作中のイベントと絡ませた上、作品タイトルも上手く使った見せ方には、一本取られました。このラストだけで準推薦を決めたと言ってもいいくらいです。短編でこれだけばっちりラストが決まった作品には、なかなかお目にかかれるものではありません。それだけで前半の印象も良くなったので、不思議なものです(笑)。

最近は、文章調の長いタイトルが非常に流行っています(特に「小説家になろう」をはじめとする、小説投稿サイト)。それはそれで理由のあることでしょうし、考えた末に決めたならそれでいいと思います。ですが、もしこの作品のタイトルが仮に「俺の家に記憶喪失のアイドルが居候しにきた件」だったら、ラストの感銘はあったでしょうか。多分「普通の作品」で終わってしまった気がするのです。

また、タイトルを使ったラストの演出に繋ぐための、途中の小技も見逃せません。しっかりこのタイトルをラストで最大限に生かすための地味な伏線を張り巡らせていたからこそ、ラストでタイトルを使った見せ方があれだけのパワーを持って読み手に訴えかけてきたのです。そういう意味では、「タイトルも立派にシナリオの一部」足り得るんだなと、大変感心しました。

そんな訳で、よくあるルームメイト型でありながら、ラストで最大限の盛り上がりを作るための工夫が、非常に巧妙な一作でした。このジャンルが好きであれば、きっと楽しめるでしょう。ツールはティラノスクリプト。選択肢はラスト前に1つだけあり、その選択肢でバッドエンドとグッドエンドに分岐します。プレイ時間は30分くらい。こういう、深く考えずにプレイでき、読み終わった後幸せな気持ちに浸れる作品は、いつの時代にも不朽ですね!
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