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第705回/受験も恋も一直線 - 無能令嬢(Mole Waltz)

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無能令嬢

無能令嬢準推薦
■制作者/Mole Waltz(ダウンロード
■ジャンル/我侭お嬢様の家庭教師ノベル
■プレイ時間/45分

大財閥の社長、岸川有朋の一人娘美由紀は、中学生だが、超がつくほどの我侭。しかも貧乏人を見下しており、執事の榊原をいつも困らせていた。そんな彼女は勉強が非常に苦手でこのままでは行ける高校がない。そこで、貧乏だが優しく優等生の同級生、佐渡島慶太郎に白羽の矢が立った。美由紀の傍若無人ぶりに四苦八苦の慶太郎だが、果たして2人は?

ここが○

  • 登場人物がみんな魅力的。
  • 美由紀がだんだん変わっていく様子がいい。
  • イベントを盛り上げるための引っ張り方が見事。

ここが×

  • あまり操作性がよくない。
  • ラストは若干尻切れとんぼ気味。
  • エンドリストがあれば親切だったかも。

■受験も恋も一直線

この時期、フリーノベルゲーム界はティラノゲームフェスで盛り上がっていますが、世間の動向を全く無視するのがNaGISA net流です(笑)。この作品は、初出が2007年。今から12年前です。ですので、色々なところに古さを感じさせますが、物語やキャラクターの見事さは、最新の作品に何ら劣るものではありません。作品の面白さというのは、見た目の豪華さには関係ないことが、こういう作品を読むとよく分かります(見た目が豪華な作品を作る手間には、もちろん敬意を表しますが)。

この作品は2007年に出ていますから、その頃にはもうNScripterや吉里吉里、Live Makerも出ていたはずですが、使われているツールはそれらより更に一世代前のノベルゲームエンジン、System 3.9です。アリスソフトで使われていましたね。そのせいか、操作性はお世辞にも良いとは言えません。もちろん、バックログやスキップなどは備えており、必要十分ではあるのですが、挙動も快適とは言い難く、1990年代という感じのプレイ環境です。そこは目をつぶってプレイしてください。「ある国のある屋敷のお話」「清未ちゃん」の作者さんです。そう言えば絵はどことなく「清未ちゃん」を彷彿させますね。

無能令嬢主人公の名前は岸川美由紀(なので、選択肢は美由紀の側からのものです。最初はちょっと面食らいました)。大財閥の社長である父、有朋の元、我侭放題に育ち、特に貧乏人を見下す大変嫌な性格の女子中学生です。それでも、見た目が可愛いので小学生の頃は人気があったのですが、中学生になってその性格の悪さからか、周りから一気に人が引いてしまい、今残っている友人は同級生の江川静霞だけです。

普通はそれほどのお嬢様というと、成績も運動も抜きん出た、文句のない生徒であるのが定番なのですが、美由紀は運動もダメなら勉強もからっきし。このままでは行ける高校がないとまで担任に言われてしまう始末。有朋はそんな美由紀を見かねて高給で家庭教師を雇うのですが、美由紀の我侭すぎる性格に誰もついていけず、みんな辞めていきます。遂に、貧乏ながら非常に頭のいい、同級生の慶太郎が家庭教師役をすることになるのですが……。

序盤(中盤まで?)の美由紀の言動はかなり酷く、これでは友達なんてできるはずがないよなという感じです。それを支える友人の静霞が、なかなか大変な役割のキャラクターですが、決して感情的にならず、粘り強く美由紀と慶太郎の間を執り持つ、非常にいい立ち位置。性格はちょっと違いますが、「えんどれす・ばれんたいん」の照代と詩織を思い起こさせました。

静霞もいいキャラですが、この作品は出てくるキャラクターがみんな魅力的です。真面目で優しい慶太郎、そんな慶太郎を貧乏ながら時に暖かく、時に厳しく導く彼の母、美由紀には甘く、時にとんでもない早とちりをするも、自分の間違いを素直に認め、美由紀と慶太郎を応援する有朋、そして一番の縁の下の力持ち、執事の榊原、忘れちゃいけない100円ショップの富島。みんないいキャラばかりで、彼らが慶太郎と美由紀を必死に応援する様を見ているだけで、心が暖かくなります。

さて、我侭放題の美由紀は、最初は家庭教師の慶太郎の言うことも全く聞かず、当然ながら勉強も進みません。しかし、途中にちょっとした事件が起こり、美由紀の心境が変化します。あくまでお嬢様としての態度を崩さず、少しずつ美由紀の心境の変化を描く手腕は大したものだと思いました。お嬢様我侭キャラがだんだん変わっていくという物語はよくありますが、その中でもこの作品は出色の出来栄えだと思います。

特に、ラスト前のイベントは、お約束の手法ではあるのですが、そこまでの引っ張り方と、慶太郎のお母さんその他サブキャラの使い方が非常に巧みで、大変胸を打つイベントとなっています。単にイベントだけを持ってきても感動というのは生まれません。短い物語ですが、この作品はその辺りが大変見事でした。短編を作る方は、この作品を読めば勉強になる点が多々あるでしょう。

終わり方は、それまでの引っ張り方からするとかなり呆気ないと言えますが、これは美由紀が高校に合格することではなく、美由紀と慶太郎の心が通じ合うまでの物語ですから、これでいいのかも知れません。あの後も描くと、特に盛り上がりどころもなくだらだら続いてしまいそうですしね。それにエピローグできちんとその後が補完されます。このエピローグも、安直な終わり方ではなく、好印象でした。

ツールは上に書いた通り、System 3.9です。選択肢は意外と多いのですが、その度に好感度の上下が分かるので、攻略はしやすいでしょう。ただ、エンドリストがあればありがたかったように思いました。一応、トゥルーエンドを含め4つのエンドを確認しましたが、トゥルー以外は突然終わる感じで、トゥルーだけ見ても別に問題はないかも知れません。プレイ時間は1時間かからないくらいです。古いですが地味な傑作です。是非味わってみてください。「ノベルゲームはやはりシナリオとキャラクターだ」というのが、実感できる1本だと思います。
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