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第708回/君の心にイグニッション - クルマ好きの人達へ(幻之丞)

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クルマ好きの人達へ

クルマ好きの人達へ準推薦
■制作者/幻之丞(プレイする
■ジャンル/時空警察と峠でバトルノベル
■プレイ時間/30分

50才の製缶工の主人公。若い同僚の桜井の傍若無人さに耐え切れず、ある日とうとう声を荒らげ、桜井は手を出してきた。社長と会長の前で説明を求められるが、主人公はそのまま会社を後にし、愛車で走りに出かける。そしてたまたま立ち寄った峠で、時空警察を名乗る女の子と出会った。主人公は、思いもよらぬバトルに巻き込まれることに。

ここが○

  • 車に対する強いこだわりを感じる。
  • ひねりの効いた、上手いどんでん返し。
  • 魅力的なヒロイン。

ここが×

  • 無音のエンドロール。
  • 少し伏線が不足気味。
  • 説明も不足しているところが感じられる。

■君の心にイグニッション

この作品は、ブラウザーでプレイできるノベル制作ツール「Script少女のべるちゃん」です。通常レビューでは「鬼のうた」のみでの登場で、今回が2回目。このツールは手軽に作れるためか、掌編作品が多く、この作品も最初は掌編枠で取り上げるつもりで、気軽にプレイしたのですが、30分くらいの長さがあり、内容も非常にしっかりした面白いものでしたので、通常枠でのご紹介となりました。

主人公は50才の製缶工。結婚もしておらず、毎日黙々と工場で働く日々でした。彼の職場には桜井哲という若い同僚がいたのですが、この桜井が大変自分勝手で短気な性格。主人公のみならず、小さな会社の同僚は皆桜井を煙たがったいたのですが、それでもみんな我慢して働いていました。

クルマ好きの人達へが、ある日とうとう主人公の堪忍袋の緒が切れてしまい、主人公は会社を飛び出します。愛車に乗り込んだ主人公は峠道を走りに行くのですが……。ここで登場する主人公の愛車は、スバルBRZ。スバリスト憧れのスポーツカーです。トヨタ86じゃないところが渋いです(笑)。この物語は、車に対する蘊蓄があちこちで出てくるのですが、単なる知識自慢ではなく、主人公が生きてきた「時代」を描写するのに使われており、嫌味がありませんでした。

ある意味作中で出てくる車に対する描写が、ラストへ繋がる伏線の1つとなっているところも、よく考えられた作りだと思います。そして峠で出会うツインテールの少女。どう見ても高校生なのですが、自分のことを「時空警察」と言い張ります。もちろん主人公は信じません。そこに登場した謎のハチロク(AE86スプリンタートレノ)。主人公は、ハチロクに少女の彼氏が乗っているのだと考えました。

そして少女は主人公が運転するBRZの助手席に乗り込み、突然ハチロクとのバトルが勃発。この辺りは、テンポはいいのですが展開が若干唐突気味です。自称時空警察の少女も、自分で言っているだけで、何か明確な事実を示すわけでもありません。ですから、ここは完全に勢いで押し切っている感じでした。ここはもう少し後半へ向けての伏線を仕込んでおいてもよかった気がします。

が、ストーリーが後半に差し掛かると、謎のハチロクのドライバーの正体が明らかになります。こんなことを書くと「頭文字D」のような峠バトル漫画のようですが、別にそんなことはありません(笑)。ここへ来て、少女の本当の目的も明らかになり、その勢いで一気にラストへ雪崩れ込む展開。この後半の展開は非常に上手いなと感じました。冷静に読めば、色々と説明が不足していると感じる点もあるのですが、とにかく勢いがあります。勢いがあるだけだと、訳の分からない話になりがちですが、勢いに上手く物語を乗せることに成功していますので、とにかく出来事を追いかけているだけで自然と物語に入り込めます。

そして全編を通して表現される、車へのこだわりと愛情。主人公が若かった頃と今との対比が、何とも言えない哀愁を生んでいます。テンポと勢いがありながら、どこか物悲しささえ感じさせる大人の物語の雰囲気があります。そこにヒロインが絡むことで、凸凹コンビ的な面白さが絡み、短編としてレベルの高い物語に仕上がっていました。説明不足を感じなくはないのですが、変に説明を増やしてテンポを悪くするより、この作品の場合はこれがベストなのかも知れません。

ラストは、ちょっと反則っぽいですが、ひねりの効いた展開が見事なハッピーエンドです。ラストでも主人公がちゃんとBRZに乗っているのがいいですね。なんであの2人が一緒になってるんだという突っ込みは、野暮なのでこの際やめておきましょう(笑)。短い尺の中に、必要最小限の個性的なキャラクターと、エンターテインメント性抜群のシナリオを詰め込んだ、魅力的な短編です。ただ、田舎の若者は、今でも車をすぐに買うと思います。ないと買い物も通勤もできませんので……(笑)。

Script少女のべるちゃんというツールは、ラストは自動でエンドロールが流れます(ツールの開発スタッフらしい? どんな掌編でも流れるのがちょっと煩わしく感じなくもないのですが)。が、この作品はそのエンドロールに曲がないのが寂しく感じました。しかし、荒削りながらも魅力的なプロットで作られた物語です。車の知識など全くなくても問題ありません。選択肢はなく、プレイ時間は30分。短編でも起承転結しっかりしたストーリーを楽しみたい方にお薦めします。
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