第714回/復讐の機、今まさに熟す - 硫酸で顔が焼けた朝海さんのはなし(HIJIKI) - ミステリー・サスペンス
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第714回/復讐の機、今まさに熟す - 硫酸で顔が焼けた朝海さんのはなし(HIJIKI)

ミステリー・サスペンス
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硫酸で顔が焼けた朝海さんのはなし

硫酸で顔が焼けた朝海さんのはなし■制作者/HIJIKI(ダウンロード
■ジャンル/回想で事件の謎を解くサスペンスノベル
■プレイ時間/15分

北村春哉は、ある日自室で妹の秋乃に1冊のノートを見せられる。それは彼が高校生の頃、学校の文化祭前日に起こったある事件を調べた記録だった。演劇部の浅海さんという女生徒が、棚から落ちてきた硫酸の瓶で、顔に大火傷をした痛ましい事件。事件が忘れられない春哉は、ノートを繰って事件の真相を探ろうとする。短くも意外な展開に驚くサスペンス。

ここが○

  • 超短編ながら、読者を驚かせるどんでん返し。
  • 起承転結がしっかりした展開。
  • プレイヤーの心に揺さぶりをかけるサスペンス。

ここが×

  • 犯人の動機が、論理的とは言い難い。
  • 読後感がいいとは言い難いラスト。
  • 推理面で分かりにくさがあるので、ゲーム性があれば良かったかも。

■復讐の機、今まさに熟す

今日は「ミステリーの日」なんだそうです。推理小説の始祖、エドガー・アラン・ポーの命日にちなんだ日らしいですね(ポーは「モルグ街の殺人」「黄金虫」「黒猫」でお馴染みの、世界初の推理小説を書いたとされる人です。「黒猫」は推理ものではありませんが)。私自身は推理小説を特に好む訳ではありませが、なぜか今回もミステリー調の作品を選んでみました。それにしてもタイトルがストレートで、凄いインパクトがあります。

物語は主人公の部屋から始まります。登場人物は春哉とその妹、秋乃の2人。秋乃は春哉にノートを見せますが、それは春哉が高校生の頃、文化祭で起こった事故を調べたものでした。文化祭の準備中、浅海さんという女子生徒が棚から物を取ろうとしたのですが、その時に硫酸の瓶が落ちてきて、彼女は顔に大火傷を負ってしまったのです。事件の真相を何とか知ろうと、春哉は再びノートを開き、じっくり読み始めます。

硫酸で顔が焼けた朝海さんのはなしノートには事件を知る4人の女生徒の証言が書いてあり、選択肢で誰の証言を読むかを選べます。4人の証言を読んで矛盾を探せば、犯人にたどり着ける……かも知れません。が、4人の話を聞いた後は、特に選択肢がある訳でもなく話がどんどん進んでいきますので、ぼーっと読んでいても大丈夫です。

個人的には、少し謎解きの要素を入れてみても面白かったのではないかという気もします。前半の推理部が少し分かりにくいんですよね。なので、ゲーム性を少し入れ、読者にしっかり解決法を提示した方が分かりやすかったかも知れません。ただこの作品の作風は、ミステリーというよりどちらかと言えばサスペンス寄りですし、謎解きで頭を捻らせて物語の流れが滞るよりは、サスペンスをしっかりスムーズに味わわせる作りの方が、合っているとも言えます。立ち絵は、目だけが描かれておらず独特な画風ですが、これがサスペンスのムードを一層高めていました。

実はこの作品、読んでいると2度驚かされます。1度目は途中、浅海さんが誰かが判明した時。そして2度目はラスト。1度目はいわば起承転結の「転」に当たり、2度目はもちろん起承転結の「結」です。この作品、起承転結の波が非常に明確に作られており、短い作品なのに非常に読み応えがありました。2度のどんでん返しがしっかり物語のリズムを作っている上、1度目の驚きを、2度目は更に凌駕して非常に綺麗に物語を収束させています。この手腕には舌を巻きました。

ただ、物語の収束としては綺麗なのですが、物語それ自体が綺麗な訳ではなく、読後感も正直いいとは言えません。ですので、ここは好みが分かれるところかも知れませんね。ただ、背筋がぞわりとくるような怖さ、そして序盤や中盤に散りばめられた伏線をきちんと回収する隙のない作りは非常に見事で、同ジャンルを書いてみたい方には、大いに勉強になるところがあると思います。

1つ気になったのは、犯人の動機です。まあ動機は分からなくもないのですが、あの動機であのような行動に至る、その行動論理がよく分かりません。犯人の目論見が上手くいっても(現に上手くいっていますが)、犯人が隠蔽したい事実を隠せる保証はどこにもありません。犯行は計画的なのに行動が短絡的で、ここにはもう少し説得力のある理由づけが欲しかったような気がしました。そうすればより物語全体の完成度が上がったように思います。

文章は、簡潔かつ比較的淡々と語るタイプで読みにくさはありません。このようなサスペンスだと、過剰に描写し過ぎないくらいがちょうどいいと思いますので、作風にもよく合っていたと思います。結構物語を作り慣れた作者さんなのではないかなと思って調べたら、実は「DANA GARDEN」の作者さんでした。なるほど、意欲的な作りと構成は、あの作品に通ずるものがあります。

ツールはLive Makerです。途中証言を選ぶところでだけ選択肢がありますが、実質的には一本道で、プレイ時間は15分。上にも書いた通り、15分とは思えないほど構成がよくできており、衝撃的な展開とオチを味わえます。全然ハッピーエンドではなく、むしろ後味はかなり悪いのですが、ハッピーエンドばかりに飽きたら、たまにはこんな刺激的な物語も悪くないかも知れませんよ。
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