第725回/怪盗は何か盗んで去っていく - 四月の魚~Poisson d'avril~(TARHS Entertainment) - アクション・ドラマ
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第725回/怪盗は何か盗んで去っていく - 四月の魚~Poisson d'avril~(TARHS Entertainment)

アクション・ドラマ
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四月の魚~Poisson d'avril~

四月の魚~Poisson d'avril~準推薦
■制作者/TARHS Entertainment(ダウンロード
■ジャンル/奇想天外洋館脱出ノベル
■プレイ時間/1時間15分

清水桃子は、妹のさくらから招待状を受け取り、とある山奥の洋館へやって来ていた。そこにいたのは元彼の津久居賢太郎を含む男性7名。彼らは経歴も立場もばらばらだが、いずれもさくらから駆け落ちを持ちかけられ、200万円を持参の上ここに集まったという。肝心のさくらは見つからないまあ、全員が疑心暗鬼になっていると、事態は思わぬ方向へ……。

ここが○

  • キャラの性格付けや作中での動かし方が非常にしっかりしている。
  • 終始館の中が舞台なのに、起伏の作り方が上手くだれずに読める。
  • 見事なオチの付け方。

ここが×

  • 主人公が妙にネガティブで最初は感情移入し辛い。
  • キャラが多く時々会話が忙しく感じることも。
  • オチにはもう少し焦点を絞っても良かったのでは。

■怪盗は何か盗んで去っていく

閉鎖空間(クローズドサークル)ものというのは、ノベルゲームでは定番の舞台設定ではありますが、最近では以前ほどは見なくなった気がします。それもそのはずで、ジャンルがどうしてもミステリーやサスペンスになるため、物語構成能力が高度に要求される上に、舞台が閉鎖空間で動きに欠けますから、相当な実力がないと、読ませる物語にすることが難しいのです。おいそれとは手を出せないジャンルと言えましょう。

そんな中、かなりレベルの高いクローズドサークルもののご紹介です。しかもこの作品が変わっているのは、ミステリーでもサスペンスでもありません。別に推理もしません。設定にもオリジナリティがあり、その設定をとてもよく生かしており、閉鎖空間にもかかわらず、退屈させずに読ませる構成能力はかなりのものだと思わされました。タイトルの「四月の魚(Poisson d'avril)」は、フランスではエイプリルフールの意味です。

四月の魚~Poisson d'avril~主人公はアラサーのOL、清水桃子。読めば分かりますがなかなか大変な人生を送っており、終始言動がネガティブ。ネガティブな上、共依存の気でもあるのか、登場人物の賢太郎ではありませんが、読んでいると若干いらいらさせられるかもしれません。そこは我慢して読み進めてください。その桃子が、妹のさくらから「四月の魚、用意しています」という謎めいた招待状を受け、タクシーで山奥の洋館にやって来るところから物語が始まります。

その洋館には7人の男性が。軽いノリの久保谷瞠、真面目な青年茅晃弘、モデルの白峰春人、小説家の辻村煉慈、小柄な和泉咲、眼鏡のサラリーマン槇原渉、それに桃子の元彼津久居賢太郎。経歴も仕事も違う7人には1つの共通点がありました。それは、桃子の妹さくらから、掛け持ちを持ちかけられ、その費用として全員200万円を持っているということです。

肝心のさくらは姿を現さず、場はだんだん険悪な雰囲気になっていくのですが、ふとつけたテレビで、瞠の200万円は実は強盗で手に入れたものだということが判明し、さらに洋館を警察に囲まれ、大変なことになってしまいます。加えて、他の男性たちの抱える事情や、桃子の大変な行動まで明らかになり、この事態を一体どうやって収束させるのか、読み手の興味を引きつけて離さない作りには、唸らされました。

この作品、登場人物は主人公の桃子以外に、立ち絵があるキャラクターだけで7人とかなり多いので、最初はこんなに覚えられないと思ったのですが、それぞれの人物の描きわけが上手い上に、ちゃんと全員にそれなりの役割、見せ場を持たせているため、読み進めているうちに自然と全員を覚えられ、ラストには愛着を覚えるまでになりました。キャラクターメイキングの上手さもさることながら、描写と構成の成せる技です。

またそのキャラクターが、人によって接し方は違うものの、桃子にみんな優しいんですよね。桃子は先に書いたように終始ネガティブで、「お前もうちょっとしっかりしろよ」と言いたくなるのですが、それを7人の男性たちが、時にストレートな形で、時にオブラートに包み、時に厳しく、時に優しく接しながら言い聞かせるので、桃子のネガティブさがかなり和らげられています。この7人、只者ではありません。

200万円の意味が判明し、警察に洋館が取り囲まれるまでの中盤、そして、いかにその窮状を脱出するといい終盤に到るまで、物語に隙がありません。また、終盤の解決方法がまた凄い。きちんと伏線も活用して、誰も不幸にせずに綺麗に全ての要素を解決しています。小さな舞台に似合わない大きな物語で、まるで1本の映画と見たような感覚になりました。テーマ曲をバックに、会話の断片だけで見せるオープニングシーンや、上下を切った見せ方が、その印象を一層強めています。

もっとも、ラストシーンは、メインが渉かと思いきや横から賢太郎が出てきて、更に咲がいきなり横取りし、という流れで、少し焦点がぼやけているように感じたのも事実です。もう少し1人に絞っても良かった気がしますし、例の怪盗の件は少し唐突に感じたのですが、あれでこそ全員が満遍なく活躍でき、更に文句のつけようのないハッピーエンドにできたと言えばその通りですから、案外あれがベストの解決法なのかもしれません。

ツールは吉里吉里です。選択肢はなく、1時間から1時間半くらいでしょう。地の文がほとんどない会話文だけで進む物語で、登場人物も多いので、時折会話が少し忙しく感じるところもありましたが、基本的には意味のない会話で流れが止まることはありませんので、慣れればそれほど気にならないでしょう。限られた空間でもこれだけ起伏がついた物語が作れるという見本のような秀作です。このジャンルがお好きでない方でも、プレイする価値があると思います。
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