第730回/ラストソングは天使と一緒 - さいごに見た天使(Lost) - 病院・闘病
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第730回/ラストソングは天使と一緒 - さいごに見た天使(Lost)

病院・闘病
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さいごに見た天使

さいごに見た天使■制作者/Lost(ダウンロード
■ジャンル/少女と天使の1週間ノベル
■プレイ時間/1時間

難病でずっと入院中の少女、下崎琴美。彼女の病室に、ある日白い服を来た男性が現れた。琴美は彼のことを天使だと思い込み、天使ミストは、後日現れたもう1人の天使日生と共に、琴美の話し相手になってやる。そんな日生は実は人間界では大人気のアイドル。日生の大ファンの琴美は彼のコンサートに行くことになるのだが。儚いムード漂う病院ノベル。

ここが○

  • 全体を一貫する儚げな雰囲気。
  • 健気な琴美と、それを支えるミスト、日生の描写がいい。
  • 悲恋ながら希望を感じさせる終わり方。

ここが×

  • あまり意味がない気がする一部のバッドエンド。
  • 病院ものらしい緊迫感に欠ける。
  • 恋愛描写はもう少し踏み込んで欲しかった。

■ラストソングは天使と一緒

10年くらい前は、「病院」「闘病」「不治の病」ものと言えば、フリーノベルゲームにおいても結構重要なジャンルだったのですが、最近このジャンルはめっきり作品数が減ってしまいました(今年160本以上もレビューした中で、このジャンルはわずかに3本)。web小説では異世界ものが大人気ですし、現実味のある考証が必要な物語より、自分が自由自在に作れる物語の方が、人気を集めているのかも知れません。

そんな中、かなり久々の病院ものです。しかし、医学的考証を綿密にしたリアル方向の物語ではなく、どちらかと言えばファンタジー方面へ振って、闘病もの独特の「悲愴さ」よりは、舞台が病院であり、主人公が病弱である故の「儚さ」を全面に押し立てた作り。何せ主人公以外の登場人物は「天使」ですからね。ファンタジー病院ものとでも言いましょうか。天使と病院ものというのは、意外とありそうでなかった組み合わせです。

さいごに見た天使なので、主人公の病気が何かなどの医学的描写は、全く出てきません。そういう方向を重視している物語ではありませんし、こういうタイプの物語に下手にリアリティのない医学考証を入れると、物語自体の真実味までなくなる恐れがありますから、これはこれでいいと思います。

主人公の琴美は、難病で子供の頃からずっと病院暮らし。そんな彼女の元に突然現れた、ぶっきらぼうな口調の白い服の男、ミスト。琴美は彼のことを、子供の頃から読んでいる絵本の物語になぞらえて、天使だと言います。もう1人の天使、日生(ひなせ)と共に、ミストは毎日琴美の病室へやってきて、中盤までは病室の中だけで物語が進みます。文体は、三人称で抑えめながらしっかりした描写の文体。読みやすさと描写の細やかさを両立した、小説風の読み応えがある文章です。ただ、同意の「ああ」を、全部「嗚呼」と漢字表記しているのが、少しやりすぎ感を感じましたが。

病院ものというジャンルのもつ性格の、「儚さ」を生かした設定、展開であり、それが文体と上手くマッチして全体の雰囲気を高めています。日生がアイドル云々の展開も、突飛と言えば突飛ですが、この世界観であれば、何となく「これもありかな」と思わせるものを持っています。文章やキャラクターを込みで、そう思わせてくれる筆力はなかなかのものだと思いました。

この物語は、設定が設定だけに、病弱ものが必然的に持つ「悲愴感」、そして「緊迫感」というものが薄いです。悲愴感を全面に出していないのは、この物語の作風だと思いますが、個人的にはもう少し緊迫感をアピールしても良かったようには思います。ミストと日生の設定にも関わることなのですが、ラストの手前まで、病弱ものならではの緊迫感が、ほとんど伝わってこないんですよね。

ただ、逆に言えば「最後の瞬間に一気にぷつんと切れる」という、緊張感が一気に高まって、その地点でクライマックスを迎え、その高まりのまま余韻を残すという描き方に成功しています。徐々に緊迫感を高める手法ではこういう描き方は難しかったかも知れません。その意味では、この物語の設定においては、この方法が実はベターだったようにも思います。

一応、攻略対象は2人で、ラストにはそれとなく(堂々と?)恋愛展開になります。ただ、恋愛に至る途中の描写は少々希薄なため、そこは少しいきなりな印象がぬぐえません。恋愛の心情描写は、もう少し詳らかにしても良かったのではないでしょうか(一応、琴美が恋心に目覚めるような描写はあるのですが、若干の唐突感は否定できない)。ラストは2人の正体が明かされ、どことなく満ち足りないまま終わりますが、決してやるせない終わり方ではなく、どことなく希望を感じさせてくれて、物語を締めくくるにはふさわしいラストシーンであるように思いました。

ツールはティラノスクリプトです。エンディングはグッド2+バッド5の合計7つ。バッドエンドの一部がちょっと投げやりなのが気になりますが(登場キャラにより、その後の説明が簡単にされて終わり、とか)、攻略はしやすいでしょう。プレイ時間は1時間くらい。ラスト近くだけフルボイスで、それ以外はセリフに合わせた一言を喋る、いわゆるエモーショナルボイス。攻略対象が男性キャラですので、どちらかと言えば女性向けということになるのでしょうが、この手のジャンルは最近貴重。シリアスな物語がお好きな方であれば、楽しんで読めるはずです。
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