第732回/白黒分ける向こう側 - むこうがわの礼節~知ることの礼節~(スタジオ・おま〜じゅ) - シリアス・感動系
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第732回/白黒分ける向こう側 - むこうがわの礼節~知ることの礼節~(スタジオ・おま〜じゅ)

シリアス・感動系
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むこうがわの礼節~知ることの礼節~

むこうがわの礼節~知ることの礼節~準推薦
■制作者/スタジオ・おま~じゅ(ダウンロード
■ジャンル/山陰の山間で伝承探索ノベル
■プレイ時間/30分

社会科準備室にいた教師の文太郎の元へ、今日も萌佳がやってきた。コーヒーを飲みながら萌佳は、友人が旅行中に、ある家にカメラを向けたら家の主の老人が激怒したという出来事を話す。それを聞いた文太郎は、萌佳を誘って山陰の山間へと足を運んだ。萌佳の友人が経験した出来事の意味は一体何なのか。お馴染みのコンビが送る民俗不思議物語。

ここが○

  • 文太郎と萌佳のコンビのやり取りがとてもいい。
  • 分かりやすいのに高い文章力。
  • 劇的ではないまでも、読み手の心に響く余韻。

ここが×

  • 読み返しの操作が妙に重い。
  • 起伏のある展開とは言えず、エンターテインメント寄りではないかも。
  • ラストも劇的ではなく、どちらかと言えば地味。

■白黒分ける向こう側

タイトルからもお分かりの通り、「むこうがわの礼節」の続編です。また「みすずの国」の作者さんでもあります。前作は、なぜかスマートフォン仕様の縦長画面で、パソコンでは非常にプレイしにくかったのですが、今回は普通のウィンドウサイズで読みやすく、プレイしやすくなっています。しかも、前作ではツールがティラノスクリプトだったのですが、この作品はNScripterです。

NScrや吉里吉里、Live makerからティラノに移行する例は枚挙にいとまがありませんが、その逆は大変珍しいのではないでしょうか。そしてNScripterでプレイしてみると、その軽さ、シンプルさ、フォントの読みやすさなど、ツール自体は古いものの、非常にユーザーフレンドリーでプレイしやすいことがあります。今ではすっかり古いツールになりましたが、やはり一斉を風靡しただけあって、大変ツールとして優秀なのだなと、改めて感じさせられました。

むこうがわの礼節~知ることの礼節~今回も登場するのは社会科教師の文太郎と、女子高生の萌佳。前作では確か文太郎は萌佳の担任だったのですが、今作は担任では無くなっています。進級したのでしょうか。そして、物語は社会科準備室から始まります。萌佳は、友人が旅行中に、とある山間の田舎町で古びた家の前で写真を取ろうとしていると、老人が烈火のごとく怒り、気分を害したという話を文太郎にします。それを聞いた文太郎は、恩師の話などをした後、萌佳を誘って山陰の山村へ行くのですが。

前作は、高校教師である文太郎と女子高生の萌佳の関係、そのやり取りがとても魅力的だったのですが、今作もその美点は健在です。さり気なく文太郎への好意を示す萌佳と、それを適当にいなしつつ、しかしこれまたさり気なく萌佳への気遣いを示す文太郎。つい最近ご紹介した「KOKUTOU」のシリーズの、黒十と柚葉のコンビにも通じるものがある2人です。柚葉も萌佳も、今風の女子高生でありながら、あざとくない可愛らしさがあるんですよね。

そして何より、この作品(に限らずこの作者さんの作品はみんなそうですが)は文章力が素晴らしいです。変に捻った言い回しも、小難しい漢字の熟語も使わないのに、非常に文章に深みがあって、読むというより「味わう」とでも表現したい印象。技術的に難しいことをして「難しく見せている」のではありませんので、読んでいて疲れることがありません。「Beyond the summer」や「今宵サンタは街角で。」のあいはらまひろさんの文章にも通じる、「優しく上質な上手さ」と言えば、伝わるでしょうか。

物語は、文太郎の恩師である宮本先生が登場する中盤から、萌佳の友人が経験したことの秘密、そして村の秘密が明らかになり始めます。村の秘密だけでなく、大げさに言えばこの国が内包する問題(という言葉はあまり使いたくないのですが)も示唆しており、どちらかと言えば地味であるにも関わらず、非常に考えさせられる物語でした。民俗学というテーマを物語として上手く料理していますし、短い作品ですが、読後にはかなり重厚な読後感を得られます。

ただ、それほど明確な起伏がある訳ではなく、劇的な展開がある訳でもないのは前作同様です。エンターテインメント寄りの謎解きを期待していると、少し肩透かしを食ったように感じるかも知れません。ただ、エンターテインメント作品のように派手な展開はしませんが、しっかり起承転結はありますし、構成は非常に考えられています。文太郎、萌佳、それに宮本先生のやり取りだけでも楽しめます。

もちろん主人公の2人はいいのですが、個人的には宮本先生がラストの写真のシーンは非常に綺麗ですし、彼の「誰かを倒そうとして知識を身につけてはならない」という言葉は、印象に残りました。物語上でもかなり重要な役割を占めていますし、それに文太郎と萌佳に対する接し方も、積み重ねた年齢を感じさせる、まさに好々爺。この物語を影で支えるお、とてもいいサブキャラクターでした。

プレイはしやすいのですが、ただ1点文章の読み返しに妙なウェイトがかかっているのだけ、少し煩わしく感じました。それ以外は特に問題はありません。システムはNScrデフォルトで飾りっ気はなく、テキストウィンドウもシンプルで、素っ気ないと言えば素っ気ないのですが、「文章を読む」ノベルゲームの場合は、過剰に装飾に凝るよりも、これくらいの方がかえって読みやすいのではないかと感じたほどです。

選択肢はなく、プレイ時間は30分ほどです。作者さんは現在別のシリーズに注力しており、文太郎と萌佳が登場するシリーズは前作と今作だけなのですが、機会があれば是非また読んでみたいなと思わせられる魅力を感じます。読んだ直後より、後から来るタイプの余韻を味わわせてくれるこういう作品は、なかなかあるものではありません。前作のファンならずとも、是非プレイしてみてください。
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