第735回/愛は君の中に、真実は私の中に - フィンジアスの少女(棚橋プロジェクト) - ファンタジー
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第735回/愛は君の中に、真実は私の中に - フィンジアスの少女(棚橋プロジェクト)

ファンタジー
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フィンジアスの少女

フィンジアスの少女■制作者/棚橋プロジェクト(ダウンロード
■ジャンル/現代錬金術ミステリーノベル
■プレイ時間/1時間半

大錬金術師ディアーナの養子であり、開業医のオルアーノは、ある日兄であるミアーノからの切羽詰まった電話で、久々に実家に戻ってきた。そこで目にしたのは、無残な父と妹の遺体だった。が、確かに死んだはずの妹アルミーズが何と蘇生した。オルアーノとアルミーズは、父の死と兄の行方を調査し始めた。世界観が独特な現代ファンタジー。

ここが○

  • しっかり作られた魅力的な世界観。
  • 適度でしっかりした描写と高い文章力。
  • 読み手の心に訴えかけるラスト。

ここが×

  • 読後感がいいとはいえないラスト。
  • 選択肢後の描写に若干の矛盾がある箇所が。
  • エフェクトを飛ばせないのが少しストレス。

■愛は君の中に、真実は私の中に

ここしばらく私がレビューをしていなかった古めの作品を中心にプレイしています。この作品もそうですね。初出は2005年で、当初はYuuki! Novelでの公開で、2007年に至って吉里吉里でリメイクして公開されたようです。作者さんの名前を見ると、「シャーロック・ホームズの事件簿 魂の在り処」の方の名前がありましたが、メインはこの方ではないようです。

「棚橋プロジェクト」というサークルは随分色々な作品を出しておられるようですが(「双鏡」のリメイク版を作られたところですね)、私がこの作者さんの作品を取り上げるのは初めてです。最近は古めの作品を積極的にプレイしているため、また読むことがあるでしょう。それはともかく、比較的名前を知られた作品だけあって高品質な作品であり、グラフィックスもシナリオも、今見ても全く遜色ありません。

フィンジアスの少女この作品の世界観は、非常に独特です。電話も車も出てきますから、間違いなく現代なのですが、錬金術師が活躍する架空の世界です。いわば現代ファンタジー。エリン国という街のフィンジアスという街で物語が始まります。大錬金術師ディアーナの養子の若き開業医オルアーノの元に、兄のミアーノからただならぬ雰囲気の電話がかかってきました。

すぐさま1年ぶりに実家に戻ってきたオルアーノでしたが、そこで目にしたのは父ディアーナと妹アルミーズの無残な遺体。ところが確かに死んだはずのアルミーズがその後蘇生するのです。驚きつつも喜んだオルアーノは、電話をかけてきたきり行方不明になっているミアーノの行方と、父の死の真相を探るため、アルミーズと調査を開始したのでした。舞台は現代ファンタジーですが、展開はミステリーと言ってもいい感じです。

錬金術師が活躍するという設定ですが、舞台設定がまずよくできています。少し込み入った設定ですが、徐々にそれを提示すせる手法がうまく、読み手に無理なくその世界観を受け入れさせることに成功しています。たまに序盤から延々と設定を語り、読み手を辟易させるような物語もあるのですが、この作品は自然な描写の中に、設定を織り込んで、無理なく読者に設定を消化させてくれます。凝った世界観を作るときは、こういうのは大事ですね。

設定はファンタジー風なのですが、物語の構成はむしろミステリーです。父であるディアーナが誰になんのために殺されたのか、兄のミアーノはどこにいるのか。そしてオルアーノとアルミーズの過去は……。作中で少しずつ色々な謎が明らかになっていきます。だんだん謎が明かされる様子、そして複数の謎や伏線が絡んで最後に徐々にほぐれていく様子は、明かされ方、タイミング共にとてもよくできています。物語構成としては申し分のない作りです。所々で登場人物の一人であるオグマが書いた詩を挿入しているのも、いい演出。

ただ、ラストがどうにもやり切れないというか……。関係者が全員死んでしまいますし、お世辞にも読後感は良いとは言えません(余韻とはまた別のお話で)。別に無理やりハッピーエンドにする必要もないとは思うのですが、もう少し前向きな希望を残したエピソードで締めても良かったような気がします。これは好みの問題かも知れませんけど。なお、不治の病に冒された妹という設定と、ラスト前のある場面に、商業作品「加奈〜いもうと」っぽさを感じたのですが、深読みでしょうか。

文章は三人称。過剰な装飾がある訳ではなく、さりとて描写が味気ない訳でもなく、とても描写が程よい加減です。そしてその抑え気味の文章の中に、オルアーノやアルミーズの心情が時に赤裸々に、時に控え目に語られる様子がとても巧み。なお、選択肢の前に「読者はどう思われるだろうか」式の文章があるのが独特です。徹頭徹尾物語を客観的に読者に示そうとする姿勢が見えますし、この作品の場合はその方向性が奏功しているように思いました。

選択肢は結構多いのですが、大筋は一本道です。選択肢はその後のやり取りが変わるだけということもありますが、違う選択肢を選ぶことで、知られざる事実や過去が明らかになることもあり、また終わり方が少し変わる場合もあり、なかなか凝った作りをしています。色々な選択肢を選ぶことで、隠された謎が明らかになる場合もありますので、一度読んで終わりにするのではなく、色々な選択肢をぜひ試してみてください。ただ、選択肢の後の描写にちょっとした矛盾がある場面もあり、そこは少し気になりました。

ツールは吉里吉里で、プレイ環境には全く問題ありません。ただ少しエフェクト類の時間が長く、ストレスを感じやすいかも知れません。プレイ時間はとりあえず最後まで読むだけなら1時間弱、全部の選択肢を試すと1時間半から2時間というところだと思います。分岐は決して派手ではないのですが、何度か読めば読むほど味が出る、渋い作りです。確かにハッピーエンドではありませんが、強く訴えてくる力を持った、古さを感じさせない佳作です。
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