第738回/もしかしたらそうなのかしら - これから夏が訪れる(宇都宮野菜餃子) - 学園・青春
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第738回/もしかしたらそうなのかしら - これから夏が訪れる(宇都宮野菜餃子)

学園・青春
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これから夏が訪れる

これから夏が訪れる準推薦
■制作者/宇都宮野菜餃子(ダウンロード
■ジャンル/UFO召喚青春ノベル
■プレイ時間/30分

ある日の放課後、ミサコが帰る準備をしていると、先生に没収されたポータブルカセットプレイヤーを持ってきてくれたスダチヨシオ。彼は変人として有名だったが、何故かミサコとは波長が合うのか、それから頻繁に屋上で会うようになった。ヨシオはどうやら、UFOと交信しようとしているらしく、ミサコにも協力を求めるのだが。風変わりな青春物語。

ここが○

  • 音楽やグラフィックスのレトロ感が時代設定によく合っている。
  • ミサコの心情描写が巧みな文章。
  • ヨシオとミサコの距離感の描き方がいい。

ここが×

  • とは言え見た目が少々味気ないのは否めない。
  • ラストがちょっと唐突。
  • 文章読み返しができない。

■もしかしたらそうなのかしら

何とも特徴的な画面写真の作品です。立ち絵の肌色が黄色で表現されているので、最初見たときは何事かと思いました(笑)。また、画像の表示領域が何故か少々狭く、画面写真をぱっと見ただけだと、ちょっとしょぼいように感じられても仕方ないかも知れません。

が、実はこの作品、時代設定が恐らく1980年代なのですね。冒頭でポータブルカセットプレイヤー(ウォークマンのことですね)云々という描写が出てきますし。そして、80年代のパソコン用アドベンチャーゲームって、まさにこんな感じのグラフィックス、画面レイアウトでした。なので、このグラフィックスは狙ってやっているのではないかと感じました。背景の色塗りも、タイリングペイント風(そういう技術が昔あったのです)。そう思って見れば、見た目も曲も絶妙なレトロ感を醸し出しており、この作品ならではの雰囲気を出すことに成功していると思います。

これから夏が訪れる主人公のミサコは、友達がいない孤独な女子高生。そんな彼女がある日の放課後、帰り支度をしていると、クラスメイトのスダチヨシオが現れます。何事かと思っていると、ヨシオはミサコが一月前に授業中に没収されたポータブルカセットプレイヤーを持ってきてくれたのでした。この件で2人は何となく屋上で会うようになります。屋上で2人で空を見るシーンの描写、そこでのミサコの台詞が印象的です。

ミサコはいわゆる「人嫌い」タイプなのですが、変な皮肉っぽさがなく、逆に彼女が他人を苦手とする理由が素直に描かれているため、共感して読みやすくなっています。そしてヨシオは変人です。何せ屋上でUFOと交信すべく(あの頃、そういうの流行りましたよね)、意味不明な言葉をミサコにも一緒に言ってほしいというのですから、これを変人と呼ばずして何と呼びましょう(笑)。

しかしヨシオはただの電波キャラではなく、意外と(と言っては失礼ですが)気配りの出来る男ですし、言動は実直なんですよね。会話の内容は電波ですが(笑)。なので、下手をすると読者がさーっと引いていくような展開にも拘らず、非常に上手く読者を引きつけてくれます。その辺り、少し「電波電波カプリッチョ!」の赤塚一郎を思い出しました。まあ一郎とヨシオではキャラクターが全然違いますし、一郎は電波を通り越して病気でしたが(笑)。常識人のミサコの、ヨシオに対する関わり方も、これを大いに助けてくれていますね。この辺りの描き方の上手さには、感心しました。

また、人と関わるのが苦手なミサコが、何故かヨシオには共鳴できるものを感じて、2人の距離が徐々に縮まる様子の描き方が、非常に巧妙でした。ヨシオが不良に絡まれるシーン、それをミサコが助けるシーンなど、その象徴と言えましょう。UFOがどうのこうのと、一見訳の分からないストーリーに思えますが、その実正統派でしっかり描かれた青春ものです。伏線がものをいうタイプの物語ではありませんが、こういうシナリオの作り方もあるんだなと思わされました。

と思っていたらラスト近くの展開にはぶっ飛びました。え、そう来ちゃうの、と(笑)。ここでも、前半の積み重ねがあるため、ミサコの行動が嘘っぽくありません。とんでもない展開ではありますが、ある意味見事な幕引きだったと言えるでしょう。ただし、ミサコとヨシオの関係の描写はよくできているものの、恋愛風味な描き方はされていないため、ラストのミサコには少しだけ唐突感を感じたのも事実ではありますが。

あとは、タイトル通り季節は初夏という設定ですが、色合いの関係などであまり夏らしさを感じにくいところもあります。夏らしいイベントの1つでも盛り込んでみれば、イメージが随分変わったかも知れません。まあ、夜の学校に忍び込むだけで、十分夏らしいと言えば夏らしいのですが。それでも、上述の空の描写など、控え目ではありますが夏を感じさせる文章がちゃんと散りばめられています。

ツールはお久しぶりのYuuki! Novel。再びこのツールに相見えようとは思いませんでした。何だか、好敵手に再会した気分です(笑)。当然文章読み返しができませんので、それはマイナスポイントなのですが、短い物語ですからあまり気にならないかも知れません。選択肢はなく、プレイ時間は30分程度です。評価に迷いましたが、この作品にしかないオリジナリティがありますし、見た目で敬遠しそうな方にもこの作品の良さをアピールしたい思いもありますから、準推薦で。見た目は何だか怖そうなのですが(?)、個性的な青春ものです。学園ものがお好きならば楽しめると思いますよ。
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