第739回/希望という名のオンステージ - 檻演人 ~オリエント~(Star Chasers) - 学園・青春
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第739回/希望という名のオンステージ - 檻演人 ~オリエント~(Star Chasers)

学園・青春
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檻演人 ~オリエント~

檻演人 ~オリエント~準推薦
■制作者/Star Chasers(ダウンロード
■ジャンル/過去と未来の落語青春ノベル
■プレイ時間/3時間

会隅高校の2年生林谷裕馬は、たった1人の落語部員。特技の落語で人間関係も上手くやりくりしていたが、内面は他人と関わることに空虚さを覚えていた。そんな彼はある日校門前で、蔵日蘭という同級生と出会う。天真爛漫な蘭と関わるのも面倒に感じた裕馬は蘭を冷たくあしらうのだが、蘭は何故か裕馬につきまとう。落語をテーマにした珍しい青春物語。

ここが○

  • 読めば落語に詳しくなれそうなほどの詳しい描写。
  • 後半の二段構えの展開。
  • 裕馬の成長物語として、非常によくできている。

ここが×

  • 文章がくどく、緩急がない。
  • その上お世辞にも親しみやすいとは言えない裕馬の一人称なので、疲れる。
  • なので前半は結構きつい。

■希望という名のオンステージ

旧作強化期間はまだ続きます。今作は、以前からずっとプレイしようプレイしようと思って、延び延びになってしまっていた作品。それこそ、初公開の時から名前は知っていたのですが、何となくここまで引き伸ばしてしまいました。初出は2009年。10年も先送りにするって、延ばしすぎだろうと(笑)。「檻演人」のご紹介。変わったタイトルですが、このタイトルには二重の意味があり、作中でちゃんと意味が分かります。

最近は、ただ序盤のあらすじを文章で綴っただけのようなタイトルが流行っており、それはそれで色々と理由もあるのでしょうが、そういう「あらすじ文章タイトル」だと、このようなタイトルを使った粋な演出はなかなか難しいでしょう。読みながら、タイトルの意味が分かった時に「なるほど!」と膝を打つような気持ちの良さがありました。こういうタイトルワークはいいですね。テーマは落語。以前、漫才をテーマにした「ビューティフルパフォーマー」という作品がありましたが、漫才は2人でやるのに対し、落語は1人。そして落語には古典芸能としての側面もあるため、かなり両作品の味わいは異なります。

檻演人 ~オリエント~主人公は、落語が特技の高校生、林谷裕馬。学校ではたった1人で落語部として活動しています。腕前は確かで、地元紙などでも取り上げられるほど。そんな彼は、落語で培ったコミュニケーション術を巧みに操り、クラスでも人気者です。が、実は幼い頃の色々な経験が原因で、他人と親しく付き合うのが実は苦手というタイプ。いわゆる「人嫌い」ですね。そんな裕馬は、ある日校門前で一人で転んでいた女生徒、蔵日蘭と出会うところから物語が始まります。

まず気になるのは文章です。もちろん、上手いかどうかと言われれば、間違いなく上手い部類に入る文章なのですが、とにかく装飾が過剰過ぎて、読んでいるとだんだん疲れてきます。難しい語彙も頻出。まあ、難しい言葉については、裕馬が落語をやっているからということで納得はできますが、修飾語、比喩、修辞法があまりに連発されて、胃にもたれます。こういうのは、ここぞという場面でさらりと出すくらいの方が効果的のはず。ちょっと技巧に溺れた感があります。

それに、裕馬の思考がとにかく後ろ向きで、それを一人称で事細かに描写するので、下手をしたら付き合い切れなくなる人も出てくるかも知れません。裕馬の性格については今作のテーマとも絡みますから、別にこれはこれでいいのですが、それを読者にストレスなく受け入れさせるには描写が重過ぎます。明るく素直で前向きな主人公ならまだしも、こういう主人公の場合は、地の文はもっと軽く流し、ネガティブな思考はある程度、些細な描写から読者に想像させる、くらいの方が良かったのではないかと感じました。

と、気になる点はあるものの、ストーリーはかなりよく出来ています。目立った事件が起こらない前半はちょっと辛いのですが(もう少し前半で、落語絡みのイベント盛り込んでみては、と思いました)、後半、商店街のイベントに裕馬が絡むようになってから、物語が一気に動き始めます。そして、商店街のイベントが終わりめでたしめでたし、となるかと思いきや、その後にもう一捻りしてあるところが凝った作りです。

ここの展開ですが、下手をするとただ陳腐な奇跡で終わりかねない危険もはらんだものです。が、このラスト前の展開を生かし、裕馬の過去を意味あるものにした上で、未来への道筋も示して見せているのです。そのため、単に物語の都合で安っぽい奇跡を付け加えただけ、のような印象がなく、更に後半の展開に重厚さを与え、主人公の前半のネガティブイメージをも払拭していました。このラスト前の展開は、お見事です。

ただ、後半でもとにかく描写がしつこいのは変わりません。突然、NK細胞がどうしたなどの、免疫の話が始まった時は、何が起こったのかと面食らい、「その説明いる……?」と思ってしまいました。まあこれがこの作者さんの作風なのかも知れませんが、もうちょっと文章には緩急があっても良かった気がします。必要な箇所はしっかり描写する、そうでない箇所は軽く流す。音楽でもドラマでも、最初から最後までぎちぎちだと疲れます。ノベルゲームの文章でも、同じようなことが言えるのではないでしょうか。

登場人物は、後ろ向きな裕馬を補うべく(?)個性派の魅力的な人々揃いです。商店街の面々もいいですし、何と言ってもヒロインの蘭ですね。最初は「大丈夫かこの子」という印象でしたが、だんだん彼女の包み込むような優しさが心に沁みてきます。蘭も裕馬とのかかわりの中で、段々と変化していった様子が魅力的に描かれていました。あとは、カンさんがもう少し活躍しても良かったかな、という気はしましたが(実は私は、登場直後にカンさんの正体が分かってしまったので、なおのことそう感じました)。

ツールはNScripter。選択肢はありません。プレイ時間は3時間から4時間くらいでしょう(私は2時間40分でした)。上にも書いたように、前半は色々な意味で少しきついのですが、そこを我慢して後半まで読み進めてください。シナリオはかなりハイレベルですし、後半からラストに到るまでの流れは、非常によく出来ています。個人的には、とある事故の後、裕馬に対するクラスメイトの反応に、非常に感銘を受けました。そして読み終えた時は、タイトルの意味に「なるほど」と頷けるはずです。
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