第740回/夢から覚めて、また夢を見る - 時計塔へ -ciel et neige-(空と雪) - シリアス・感動系
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第740回/夢から覚めて、また夢を見る - 時計塔へ -ciel et neige-(空と雪)

シリアス・感動系
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時計塔へ -ciel et neige-

時計塔へ -ciel et neige-■制作者/空と雪(ダウンロード
■ジャンル/強く生き抜く姉妹の生き様ノベル
■プレイ時間/1時間半

幼い頃に疫病で両親を亡くした姉妹、エリーとミミ。母の兄である叔父の支援を受けつつ、エリー自身も懸命に働いて、慎ましくも幸せな日々を送っていた。ある日エリーとミミが街へ戻ってくる途中、薄汚い服を着た男に絡まれるが、エリーの会社の息子であるエミールに助けられた。エミールはエリーを翌日夜の食事に誘うが、街には暗い影が迫っていた……。

ここが○

  • 語り過ぎず、省き過ぎない絶妙の描写。
  • 独特の世界観が魅力的。
  • グラフィックスなどの雰囲気が上質。

ここが×

  • 誤字、脱字、誤変換が妙に多い。
  • 後半の暗さは好みが分かれるか。
  • ラストはもう少し丁寧に提示しても良かったのでは。

■夢から覚めて、また夢を見る

今回も古め。実はこの作品、遥か以前に一度プレイ済みなのですが、何故かレビューしていませんでした(たまにそういうことがあります)。もう10年以上前のことなので、内容はほとんど忘れています。見た目も独特ですが、文章やグラフィックスなど、他の作品にはないこの作品だけの雰囲気があります。

舞台や時代背景は明記されていませんが、一応電気もあるものの、一般家庭にはまだそれほど普及していないということで、20世紀初頭のヨーロッパ辺りでしょうか。街は工業で栄えたようですが、10年くらい前に疫病に襲われ、多くの市民が犠牲になり、街も停滞したというような描写がなされます。時折街の地図も挿入されますし、何よりグラフィックスのセンスがとてもよく、世界観が大変魅力的です。

時計塔へ -ciel et neige-主人公はエリーとミミの姉妹。2人が草原で戯れるところから始まり、やがて2人は街に戻ります。第一印象、絵は上手いとは言い難いのですし、今流行りの絵柄とはある意味対極なのですが、淡い色彩と色鉛筆のようなタッチで、この作品の世界観には非常に合っているように思いました。色使いが非常にいいですね。好き嫌いが分かれるかも知れませんが、この絵は、この作品の魅力の一つであると思います。

そして、草原からの帰り、教会に足を運んだ姉妹ですが、外から爆音が。不穏な気配が漂います。そんな中、エリーは勤務先の社長の息子、エミールから食事に誘われ、ミミのことも合って悩むのですが、浮き立つ心を隠せません。この辺りもそうですが、文章が非常に上手いです。決して語りすぎることなく、また省きすぎることもなく、淡々と流すかと思えば、時折はっとする様な気の利いた文章が来る。読み手を疲れさせませんし、テンポ、リズムも上々です。最近の作品でも、これだけ読みやすさと奥の深さを両立した文章は、なかなか見ません。

と、文章力は見事なのですが、一方で妙に誤字、脱字、誤変換が多いです。ルビに誤字があったりもします(「颯爽」に「そっそう」と読み仮名が振られていたり)。別にプレイの支障になる訳ではありませんし、誤字があるからと言って作品の感銘を損なったりはしないのですが、シリアスなシーンで誤字があると、やはりちょっと残念な気持ちに。

さて、物語は後半かなりの急展開を見せます。急展開の上、ダークというか鬱というか、人によっては結構きつい展開をします。エリーも「お前大丈夫か……」と言いたくなるような言動を見せ始めますし(ちょっと狂気を感じるシーンも)、展開上「これはもうどうやっても幸せなオチはつきようがない。救いようのない鬱エンドになるのでは」と感じさせられます。実際、後日談その他がなければ、どうにも後味の悪い終わり方とも取れるのですが、後日談を読むと、必ずしもそうではないようにも読めます。

その辺り、ラストの描写で具体的に何が起こったかは、読者にある程度委ねますということなのかも知れません。それはそれで一つの手法ですが、もう少しラストシーンと後日談の間を読者に分かりやすく提示するエピソードがあっても良かったような気はしました。そこらを含めて、後半の展開からラストに到るまでは、好みが分かれるかなと思いました。

あとは、冒頭や終盤で挿入される、神話めいたエピソードが一体何なのか、私の頭では考えてもよく分かりませんでした。この作品には続編があるようですから、もしかしたら続編で明らかになるのかも知れません。ま、その問題は分からなくても、物語の大筋を味わう上ではそれほど問題にはなりませんが。

キャラクターは多くはないのですが、確かな文章力で綴られるキャラクターはみんな魅力的です。エリーとミミの姉妹の描かれ方が実にいいですね。確か作者さんは女性だったと思いますが、女性同士の(良しにつけ悪しきにつけ)微妙な関係を描くのは、やはり女性作者さんならではの感性だなと思わされました。エリーの言動は、必ずしも「いい子ちゃん」ではないのですが、それでいて根底にはミミに対する深い愛情が感じられ、特に前半は優しい気持ちになれました。

ツールはNScripterです。選択肢のない一本道で、プレイ時間は1時間半程度。ちょっと古い時代のシリアスな物語で、冒頭から暗い影を感じるのですが、決して暗いだけの物語ではなく、読み終えた後にはほのかな希望を感じました(私だけかも知れませんが)。派手ではなくても、心に触れる物語を読んでみたい方にお薦めします。
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