第742回/海を渡って、春よこい - 春よこい(河童ボーナス) - 伝奇
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第742回/海を渡って、春よこい - 春よこい(河童ボーナス)

伝奇
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春よこい

春よこい■制作者/河童ボーナス(ダウンロード
■ジャンル/前世を辿る旅ノベル
■プレイ時間/20分

高校生の主人公は、毎年春になると謎の体調不良や記憶の混乱に見舞われていた。記憶の混乱を辿った主人公は、それが前世のものなのではないかと仮説を立てた。ある時の夢で記憶の中の土地名が明らかになり、主人公は春休みにその場所、埋目村へ行くことを決意する。今では子宝村と名前を変えたその場所で、主人公が知る事実とは何なのか?

ここが○

  • 読みやすく格調高い文章。
  • 短編とは思えないほど密度の濃い内容。
  • 地味ながら独特の画面が雰囲気を高めている。

ここが×

  • 長さの割に少し詰め込みすぎの感。
  • 少しどぎつい描写は読み手を選ぶか。
  • 一部色使いの関係で文字が読みにくい箇所が。

■海を渡って、春よこい

今月いっぱいくらいまでは、旧作を中心に取り上げるつもりなのですが、今回は古めの短編作。「あの夏祭りで誰が死ぬ?」の作者さんによる作品です。ジャンルに迷いましたが、「伝奇」ということにしました。別にバトルをする訳でも、怪物が出てくる訳でもありませんが(笑)。「夏祭り」では、普通の意味での立ち絵、1枚絵はないものの、独特のレイアウトを生かした特徴ある演出が目をひきましたが、その手法は今作でも同様。地味ながら印象に残るデザインです。

濃いめの赤を基調とした単色系の色で、画面の右側の一部にだけ、これまた単色の画像が表示されます。時折人物は影絵で表示されますが、非常にセンスを感じさせる、洗練された配置です。物語の内容は、どちらかと言えば暗めでどろどろしたところもあるのですが、作品内容にデザインが見事に符号しており、雰囲気を高めてくれています。文字だけの作品というハンデを感じさせませんでした。

春よこい主人公は普通の高校生なのですが、何故か毎年春になると、決まって原因不明の体調不良に見舞われます。体調不良だけならいいのですが、目の前の人物が誰か分からなくなったり、漢字が読めなくなったり、記憶の混乱が生ずることもあり、冷や汗をかくこともしばしば。そして混乱する記憶の内容を辿ると、どうやら古い時代の少女のものらしいことに気付きます。

そしてその記憶を前世の記憶と考えた主人公。ある日の夢で、記憶の中の場所の名前が分かり、一念発起してその場所へ行くことにしました。かくて、主人公の前世を探す旅が始まるという訳です。前世と思しき夢の中のシーンなど、序盤からミステリアスな描写が多く、読み手の興味をいい具合に掴んでくれます。

序盤に限らず、短い作品なのですが「提示される謎」と、「それによって起こる出来事」のバランスがよく、最後まで緊張感を保ったまま読むことができました。文章力も高いです。格調の高さがありながら、読みやすさも併せ持っています。変にレトリックにふけって読み手を置いてけぼりにすることもありません。会話よりも地の文主体ですが、それでいて素直に入って来やすい文章。とても好印象です。

物語は、列車に揺られながら前世の夢を断片的に見る序盤から、目的地である子宝村(埋目村)の郷土料理の食堂で話を聞く中盤、そして物語が収束する終盤に大きく分けられます。前世で語られる人間関係や、主人公の前世である「千絵」の境遇は、ちょっと陰鬱なところもあり、読み手を選ぶかも知れません。しかし短い尺の中で、その人間関係や背景を簡潔に描写し、適度に謎も絡めながら、上手く1本の物語に組み上げた手腕はかなりのものだと思いました。短編らしからぬ内容の濃さを持った作品です。

とは言え、少し色々な要素を盛り込み過ぎと感じるところがなくもありません。20分もあれば読み終える長さですが、1時間くらいをかけてじっくりと描いてみれば、物語がより分厚さを増したでしょうし、もっと読者が消化しやすい物語になったような気がします。まあ、この長さで、ある意味淡々と描写して一気に読ませるというのが、この作品のある意味での長所とも言える気もしますが。

ラストも、大上段に構えて感動を押し付けるでもなく、それでいて主人公が語る静かな言葉はなかなか胸を打ちます。また作中の謎がミステリーのラストシーンのようにきちんと全部解けて、余韻のある読後感を生んでいました。20分でこういう読後感の作品を作れるというのは、誰にでもできることではありません。流行りの作風ではありませんし、実際10年前の作品なのですが、こういう作品はいつまでも古びないのではないでしょうか。

ツールはNScritperです。選択肢はなく、プレイ時間は上にも書いた通り20分です。一部で、文字の色と背景色が重なって少し読みにくい場面があるのと、文章読み返しの際の文字色がどぎつい赤で、これまた少々読みにくいのは気になりました。そこだけはちょっと我慢しましょう。派手さはないものの、細かいところまでしっかり作り込まれたことを感じさせる佳作です。流行りの作品に少し飽きた時、是非味わってみてください。
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