第745回/この心に、いつも君がいる - Being -君がいた日-(mint wings) - オムニバス・その他
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第745回/この心に、いつも君がいる - Being -君がいた日-(mint wings)

オムニバス・その他
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Being -君がいた日-

Being -君がいた日-準推薦
■制作者/mint wings(ダウンロード
■ジャンル/存在を心に刻むオムニバスノベル
■プレイ時間/1時間15分

あるテーマに基づいた2本の掌編+1本の短編の、合計3本のオムニバス。娘の6歳の誕生日パーティから始まる、家族愛を綴った物語。自殺するつもりでビルの屋上に上った少年だったが、そこで1人の女性と出会い、生きることを考える物語。そして専門学校生の女性が、丘の上で美しい女性と出会う物語。3本の、不思議で心温まるストーリー。

ここが○

  • 3本とも、じんわりと心が温まる。
  • 同じテーマながら、切り口がそれぞれ異なっており楽しめる。
  • 派手過ぎないが演出がしっかり効いている。

ここが×

  • テーマが共通なだけに、少し先が読めてしまうところが。
  • もう少しラストをしっかり締めても良かったのでは。
  • オチの付け方に既視感があったり、いじめの原因が子供染みていたり。

■この心に、いつも君がいる

旧作を探していると、当然時々見覚えのある作者さんの名前に出くわします。この作者さんは、「RIDDLE -piece of memory-」「ココロ、そらいろ。」の方。一番最近取り上げた作品では(と言っても1年半前ですが)「私は今日ここで死にます。」がありました。この作者さんは、物語性を大事にしつつも、根底にしっかりしたテーマを持った作品が多いという印象です。

この作品は、3本の作品が入ったオムニバス形式。2本は掌編、1本はそれよりは少し長いくらいの長さです。そして、オムニバス形式の作品の場合、大抵の場合は何かしら共通のテーマがあるものですが、この作品にももちろん、統一された主題があります。最初からネタばらしをしては面白くありませんので、あえて書かないでおきます(もっとも、すぐに分かると思いますが)。この作品は、背景写真の使い方が独特です。2枚の背景写真が、同じ風景の違う場所を表していたり、その他演出もうるさくない範囲で凝っていて、効果を高めていました。

Being -君がいた日-まず1本目は「バースデイ -to you-」。瑠璃の6歳の誕生日を祝う、忠義と千歳の夫婦。2人からプレゼントをもらって、瑠璃はご満悦。一見幸せそうな家族なのですが、実はこの家族にはちょっとした秘密が。読み進めればその秘密はすぐに分かります。そしてその秘密こそが、この作品を一貫するテーマです。この作品は、そのテーマを全面に押し出すのではなく、あくまで瑠璃の成長に主眼を置いています。

物語としては地味な作りですし、大げさな事件が起こる訳でも、目立った起承転結がある訳でもないのですが、ちょうど良いボリュームで少しずつ瑠璃の成長を描きつつ、千歳のメッセージも上手く配し、読者の心を共鳴させる上で非常に効果的な作りでした。さらりと読める話なのですが、テーマの利用法が上手く、とても心温まるいい掌編に仕上がっていると思います。プレイ時間は15分です。

2本目は「この世界で笑いたくて」。自殺しようとしている少年が、謎の(?)少女に出会って、とりあえずは自殺を思い留まるものの……。今作のテーマの利用の仕方としては、比較的よくあるタイプではありますが、掌編なのに凝った伏線の使い方をしているのが目を引きます。この作品もそうですが、3本とも尺の割に作りに独自の工夫がなされていて、短いのですがどれも読み応えがあります。テーマの料理法が3本とも違うので、飽きずに読めました。

ただこの2本目は、オチの付け方に何だか既視感が……。まあ、伏線の活用法が上手いですし、それはそれで別に問題ないのですが、ああいうオチの付け方をするのであれば、もう一歩先まで描写した方が、読後の「収まり感」は良かったような気もします。ですが、掌編らしからぬ工夫がされた意欲作でした。これも15分で読めます。

3本目は「桜とさくら」。高校を卒業し、専門学校へ進学するため、初めての一人暮らしを始めた明日香が、枯れた桜の木がある丘の上で、美しい着物を着た女性と出会います。最初に現在の描写があり、途中過去に戻って、最後また現在に戻ってきますので、いわゆる「サンドウィッチタイプ」の物語です。さくらは、謎めいた存在ではありますが、これまでの作品を読んでいれば、比較的容易に先読みができるでしょう。そこはこういうオムニバスの弱点とも言えますが、先読みができたからと言って感銘が失われるタイプの物語でもありませんから、問題ありません。

この作品も、物語としては比較的よくあるタイプですが、桜の木という重要なモチーフの利用の仕方が非常に見事でした。特にラストシーンは綺麗で、強く心を動かされます。素晴らしい幕の引き方でした。この作者さんの持ち味が非常に生かされた一編だと思います。ただ、高校を卒業してもう成人も近い学生が、あんな子供染みたいじめをするかなというのは、少し気になりましたが。プレイ時間は45分で、これだけ少し長いです。

全体にラストが少し呆気なく(感銘が薄い訳ではないです。むしろ感銘を受けるからこそ、もう一歩踏み込んで欲しいというか)、もう少し描写して欲しいという欲求がなくはなかったのですが、しかしどれも短い作品ですし、ラストをさらりと終わらせたからこそ、強い余韻を産んだとも言えますから、これはこれでいいのかな、とも思いました。エンドロールくらいはあっても良かった気がしますが。

ツールはNScripterです。選択肢はありません。全部読めば1時間15分くらい。ゆっくり読めば1時間半かかるかも知れません。あまり急がず、味わって読んだ方が楽しめると思います。物語としてはどれもそれほど目新しい作りという訳ではないのですが、3本とも丁寧な描写と演出で、心温まるドラマを盛り上げてくれている佳作揃いです。殺伐とした物語で疲れた時には、こういう作品で心の栄養補給をするのがいいですね。
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