第746回/傘より少しの思いやり - 8月7日の雨宿り(ひろもと弘) - 日常
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第746回/傘より少しの思いやり - 8月7日の雨宿り(ひろもと弘)

日常
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8月7日の雨宿り

8月7日の雨宿り■制作者/ひろもと弘(ダウンロード
■ジャンル/田舎のバス停で雨宿りADV
■プレイ時間/1時間

一人旅をしていた中学生の半田はるは、とある田舎のバス停で降りたが、降り止まない雨に足止めされていた。そのバス停には、別荘に行く途中の高校生瀬戸内涼子、中学生の家出少女峰路みね美がいて、はる同様に雨が止むのを待っていた。バス停には忘れ物を思しき傘が1本。この傘を巡って展開する、奪いあったり譲り合ったり、ささやかな日常ドラマ。

ここが○

  • 絵がとにかく綺麗。
  • ワイド画面を生かし、文章の読みにくさも損なっていないレイアウト。
  • 大げさではないものの、卓越した心理描写で心に残る物語。

ここが×

  • 大した起伏がある訳ではないので、合わない人には合わないかも。
  • 終わり方があまりに呆気ない。
  • 攻略がちょっと面倒。

■傘より少しの思いやり

旧作期間中に、有名作でありながらレビューしていなかった作品を何本か取り上げましたが、この作品も超有名作です。当然、過去にプレイしていましたが、その当時の私の趣味にはいまいち合わず、取り上げることはありませんでした。今回、ようやくご紹介。初出は2000年の8月ですから、今から20年近く前の作品ですが、今プレイしても新鮮な感覚の作品です。

今回改めてダウンロードして驚いたのですが、なんとリメイクされています。画面サイズが大きくなり、流行りのワイドサイズになっていました。ワイドの作品って、流行りのためか誰もかれも取り入れていますが、単にワイドにしただけで文字表示領域も横に広くすると、視線の移動距離が長くなってしまい「ただ読みにくいだけの上、画面が妙に狭く感じる」なんてことになりがちです。が、この作品は文字表示領域もきちんと考えて配置されており、その配慮にまず感心しました。

8月7日の雨宿り主人公半田はる(名前は任意。初期設定以外の名前にすると、偽名を使ったという設定に)は、中学生だてらに一人旅をしており、田舎のバス停で降り立ったのですが、激しい雨に降られてしまい、バス停で立ち往生してしまいます。そしてそのバス停には2人の先客がいたのでした。16才の高校2年生で、別荘へ行く途中の瀬戸内涼子と、はると同じ中2で、家出少女の峰路みね美。

2人ともやはりバス停で雨に降られ、雨宿りをしていたのですが、そこで見つかった1本の傘。傘は1本、人は3人。かくして、傘の争奪戦が始まったり、あるいは譲り合いが始まったり、はたまた何も始まらなかったりします。説明がよく分からないかも知れませんが、選択肢次第では本当にそんな感じの展開になるのです。

何せテーマが地味な物語です。単にバス停でたまたま一緒になった3人が、傘を奪い合ったり譲り合ったりするだけですから、エンターテインメント性という意味では、盛り上がりようがないとも言えます。しかしその分、3人の些細な心情描写や、ちょっとした駆け引きなどが実に巧みに描写されており、そこに涼子やみね美の過去も上手く絡ませて、心理ドラマとしてはとても読み応えのある物語になっています。みね美ルートでの推理シーンは、その象徴とも言えましょう。

キャラクターもしっかり立っています。主人公のはるは、中学生とは思えないようなしたたかさと計算高さを持った少年。涼子とみね美の2人は、兄弟関係でちょっとした秘密(というほどのことではないのですが)があり、それが行動にも現れています。この2人の設定は、キャラクターの行動原理を示すのに大変よく効いており、「キャラクターの設定を物語に於ける行動に活かすには、こう作れ」というお手本のような手法です。

と言っても、物語が地味であまり盛り上がりどころもないのは事実ですので、人によっては合わないかも知れません。3人の人間関係も、特に恋愛に発展したりする訳ではなく、その場限りで淡白といえば淡白です(それがこの作品ならではの味わい、という気もするのですが)。実際Vectorには否定的なレビューも投稿されており、人によってはそう感じるのも仕方ないかな、と思いました。終わり方も何ともあっさりとしており、ただ「The End」と表示されるだけで、ちょっと味気ない感じがあります。絵は非常に綺麗で、雰囲気も凄くいいだけに、エンディングに少し凝るだけで、かなり印象は違った気がするのですが。

なお、エンディングは全部で16あります。作品の性質上、全部のエンディングを見る必要は別にありません。全部のエンディングを見たら真実が明らかになる、なんてこともありません。選択肢が多く、完全攻略はちょっと骨が折れるかも知れませんので、あまり攻略を気にせずに好きなところだけ読むというのもありでしょう。最近のノベルゲーム・ADVではあまり見られない、「選択肢によるちょっとした展開の変化」を存分に感じられます。もっとも、攻略が大変ですので、もう少し選択肢を絞って、その分物語を充実させてもいいようには思いましたけど。

絵が非常に綺麗だと書きましたが、グラフィックスは本当に美麗で目を奪われます。立ち絵がなく、1枚絵のみで進行していくタイプなのですが、3人のキャラクターの絵はもちろん、バス停内の様子や傘など、小物、場所の描き方もとても見事。アニメ風ではなく、水彩画風の柔らかい塗り方で(絵は詳しくないけど、こういうのをデジタルで描くのはかなりの技量が必要なのでは)、どの1枚を見ても、その絵からドラマが伝わってくるようなものばかり。この絵を見るだけだけにプレイしても損しませんと言いたくなります。

ツールは吉里吉里です。なので既読スキップも高速でとても読みやすくなっています。プレイ時間は、全部のエンディングを見ると1時間くらいだと思いますが、迷い方(?)次第でしょう。どうしても回収できないエンドがある場合は、攻略サイトがありますのでそちらをご参考に(検索ですぐ見つかります)。20年近く前の作品ですが、今プレイしてもそのセンスの良さには感心させられました。新しいノベルゲームファンの方にこそ、是非プレイしていただきたい一品です。
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