第748回/好きだから、笑ってさよなら - 妹のろい(Enharmonic☆Lied & さつき晴れ) - 不思議系
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第748回/好きだから、笑ってさよなら - 妹のろい(Enharmonic☆Lied & さつき晴れ)

不思議系
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妹のろい

妹のろい■制作者/Enharmonic☆Lied & さつき晴れ(ダウンロード
■ジャンル/妹からの卒業ノベル
■プレイ時間/20分

高校生の水藤アキヒトは、妹のさゆりのことを溺愛している、超がつくほどのシスコン。さゆりのこと以外には全く興味がなく、服装にも全く気を使わないアキヒトをさゆりは心配するのだが、当のアキヒトは何処吹く風。そんなある日、アキヒトのクラスに折原さんという女の子が転校してくるのだが。短くも締まった構成を持つハートウォーミングな物語。

ここが○

  • さゆりの性格、絵ともに非常に可愛い。
  • 短いがしっかり考えられた構成と起承転結。
  • アキヒトとさゆりの関係の描き方がいい。

ここが×

  • 途中が少し急ぎ過ぎのように感じる。
  • 折原さんの立ち絵がないのは少し寂しい。
  • クリアしなくても後書きが読めてしまう。

■好きだから、笑ってさよなら

最近ずっと古めの作品が続いていたのですが、久々に少し新し目の作品をご紹介します(と言っても3年前ですが)。古めの作品ということで、ティラノスクリプトもしばらくご無沙汰でしたから、ティラノも久々です。ティラノの作品はとにかく起動が重いのですが、この作品は軽快に起動しました。ウィンドウサイズが800x600と大き過ぎないのが原因なのかも知れません。

シナリオと音楽は「おるばり!」のシリーズでおなじみの「Enharmonic☆Lied」、絵は「イモウト及第点」の「さつき晴れ」。「ミライハカイ」と同じ組み合わせです。絵も音楽もシナリオも、それぞれの作者さんの持ち味が存分に発揮されており、少しプレイしただけですぐに「あ、あの作者さんだ」と分かります。

妹のろいタイトルからも分かる通り、妹もの(?)です。「妹のろい」とは変わったタイトルですが、その意味はプレイ中に分かるようになっています。主人公は高校生の水藤アキヒト。簡単に言えばシスコンですし、難しく言ってもシスコンです。この妹好きぶりは、宮沢賢治並みか(笑)。冒頭、彼がいかに妹が好きかを描写する回想シーンが、簡明にして要を得ていました。その上、コミカルなおかしさもありましたので、開始早々ここでいきなり笑ってしまいました。

こういう常人には理解できない性癖を持った主人公を出す場合、上手く描写しないと、読み手がいきなりさーっとひいてしまい、全く物語に感情移入できないことも多々あるのですが、この作品はコミカルさを上手く盛り込んでアキヒトの性格にあまり深刻さを出さず、思わず笑ってしまうおかしさと、さゆりの可愛さだけを前面に押し出しています。そのためアキヒトのずれたところがあまり嫌味を感じさせませんでした。こういうシナリオ上のセンスは「おるばり!」シリーズ同様で、この作者さんの持ち味だと感じます。

物語の構造自体はシンプルです。さゆりに隠された謎とても、さして新しいものではありません。しかしこの物語は構成がとてもよくできていました。短い作品ですが、起承転結の流れ、各イベントの繋がりなどがよく考えて配置されています。私はよく、「長編は短編のように、短編は長編のように書くべきだ」と主張しているのですが、この作品はまさに「長編のように構成された短編」と言ってもいいのではないでしょうか。

後半、お約束と言えばお約束な展開、お約束なオチを迎えるのですが、決して読み手にネガティブな感情は残りません。それは、今作のテーマは「妹からの卒業」なのですが、そのラストシーンは単なる別れではなく「アキヒトの成長、変化」を感じさせるような描き方になっているのです。ラストシーンでそう感じさせるのは、中盤までの展開があればこそで、そう思うと改めて上手く構成されたシナリオだなと感じ入った次第です。ラストで出てくるキーアイテムも、盛り上げに一役買っており、この短さで色々なものを盛り込まれた意欲作です。

とは言え、この物語の鍵となるアキヒトの変化が、中盤ではほとんど何も描かれていないのはちょっと気にかかりました。折原さんのことはアキヒトとさゆりの会話でほんの少し出てくるだけです。それでいて、突然後半の展開が来るので、そこだけ少し「え、いきなりそう来るの?」と感じました。アキヒトが折原さんが気になる存在になっていく理由づけやそのきっかけを、もう少し描けば、より完成度が増したように思いました。

またその折原さんは、立ち絵もなければ下の名前も不明という(笑)。この辺りをもっと充実させれば、中編どころか長編でもいけるテーマなのではないでしょうか。だからこそ私も「長編のように書かれた短編」と感じたのかも知れませんし、その凝縮された密度の濃さこそが、この作品の大きな長所とも言えるのは間違いのないところです。

ツールはティラノスクリプトで、プレイ時間は20分。最後に選択肢が1つだけ出てきて、その結果でグッドエンドとバッドエンドに分岐します。バッドエンドは本当にバッドエンドですが、ある意味この物語の締めとしては「あり」な終わり方かも知れません。アキヒトは全然幸せになりませんが(笑)。クリアしなくても後書きが読めますが(作者さんがまだティラノに慣れていなかったのか?)、それは興ざめですので読了してから読みましょう。キャラクターは文句なく可愛いですが、それだけではない作りの巧さを持った短編作品です。
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