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第749回/臆病者の貴方が好きです - 僕の好きな君の顔(雨夜曲切)

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僕の好きな君の顔

僕の好きな君の顔準推薦
■制作者/雨夜曲切(ダウンロード
■ジャンル/男も女も顔より数字ノベル
■プレイ時間/40分

自分の顔に自信を持っている高牀隆時は、何度も女生徒から告白されていたが、美人ではないというだけの理由でいつも断っていた。しかしある朝起きると、自分の顔だけでなく、全ての人の顔が数字の羅列にしか感じられなくなってしまった。そんな時に告白してきた下級生の女生徒、伊住雫。果たして彼女は美人なのか? 着眼点が面白い学園恋愛もの。

ここが○

  • しっかりした文章力、高い描写力。
  • 癖はあるが、個性的で魅力のあるキャラクター。
  • テーマと物語がしっかり絡み合った構成。

ここが×

  • 最初は主人公に感情移入しにくいかも。
  • 主人公以外の登場人物も、性格がちょっと極端。
  • ラストがちょっと急いでいるように感じた。

■臆病者の貴方が好きです

今回も旧作。この作品は、立ち絵も1枚絵もない、文章だけの地味な作品です。しかしそれを逆手にとったとも言える、斬新過ぎる設定で当時から話題でした。テーマからして取っつきにくい物語かと思い、なかなか手を出せなかったのですが、この度ようやく読みましたのでご紹介です。読んでみると、確かに前半の主人公の性格、言動など、ちょっと共感し辛いところはあるものの、決して取っつきにくい物語ではありません。

主人公の名前は高牀隆時(たかとこ・たかとき)。舌を噛みそうな名前です。彼は自他共に認めるイケメンで、いつも女生徒からの告白を受けていました。しかしイケメンにありがちではありますが、彼は極度の面食いで、美人にしか興味ありません。なのに彼に告白してくるのは、いつもあまり美人とは言えない子ばかり。なので彼は常に告白を断っているのでした。

僕の好きな君の顔ところがある朝隆時が目覚め、鏡の前に立つと、なんと自分の顔が数字の羅列にしか見えません。それだけでなく、全ての人の顔が数字にしか見えなくなっている始末。そんな状態で、伊住雫という後輩の女生徒が彼に告白してきました。雫の顔も数字にしか見えません。困る隆時。不細工だったら告白は断りたい。でも美人だったら断るのは勿体なさ過ぎる。

なので隆時は、告白を受け入れるでもなく、断るでもなく、曖昧な態度で彼女の告白をのらりくらりと交わすのですが、そんなある日、隆時が密かに憧れていたクラス1の美女、三重野絵美が隆時に告白してきたのです。隆時は当然のように、雫を振って(と言っても2人はちゃんと付き合っている訳ではないのですが)絵美と付き合い始めます。この辺りで、既に主人公に殺意を覚える人が出てくるかも知れません(笑)。

顔が数字にしか見えなくなるというのが、まず凄い設定です。他人がみんな仮面を被って見えるようになる「仮面のセカイ」、お腹に本心を語る顔が見えるようになる「キキタイコトバ」、他人の顔が似顔絵にしか見えなくなる「chaos pastel orange」など、少し近い設定の作品はいくつかありますが、この作品は他の作品ほどエキセントリックなところはなく、顔が数字に見える以外は、思春期の心理を丁寧に描いた恋愛ものです。そこに独特の設定を上手く生かしているところに、面白さがあります。

序盤、と言いますかラスト近くまで、主人公である隆時の言動にはかなり感情移入しにくいものがあります。ですが私は、彼の言動にはそんなに嫌悪感は覚えませんでした(嫌悪感を感じる人もいると思いますが(笑))。それは、面食いで自分勝手ではあるものの、意外と気配りができる男なんですよね。もちろんその気配りは、保身から来るところも大きいのでしょうが、それでも、紙一重で「守るべき一線」をちゃんと守れる男なので、そこまで不快感を感じずに読めました。このバランス感覚は見事です。

隆時もなかなかに強烈な性格ではありますが、その他の登場人物も個性派ぞろい。特に、裏ヒロイン(闇ヒロイン?)の絵美は極め付けです。しかもこういう女性が意外と実在しそうだから怖いところです(隆時ももちろんそうなのですが)。上で「隆時にさほど不快感を覚えなかった」と書きましたが、それは絵美というもう1人の極端なキャラとぶつけ、それによって隆時が自分の歪みに気付いていくという過程が描かれているからではないでしょうか。

単体で見ればどちらもただの嫌な奴なのですが(そして絵美は最後まで「ただの嫌な奴」です(笑))、その2人を並べることで、隆時の心の成長を描くという構成は非常に巧みです。確かな文章力、描写力がそれを大いに助けてくれていました。絵がないのに、どのキャラクターも非常に生き生きと描かれていますし、情景が目に浮かぶような描写も見事です。それでいて決して「描写に溺れすぎ」になっていません。筆力も大したものだと思いました。

メインの2人以外のキャラクターもよく出来ています。ヒロインの雫もですし、友人の志摩が、ちょっと直情径行なところはあるものの、隆時をよくサポートしてくれている名脇役でした。彼と彼の彼女を巻き込んだエピソードも、現実感がありますし、そしてそれがまたテーマである隆時の成長と密接に絡んでいます。細部に到るまで、構成の巧さを感じさせてくれました。

ただ、ラストはちょっと急ぎすぎのように思います。徐々に隆時の心境に変化が見られる、その変わり具合はちゃんと描かれているのですが、雫に心が惹かれていく様子にはなんら言及がないので、「いくらなんでも急に心変わりしすぎなのでは?」と感じました。あれだけの仕打ちを受けたのに、再び告白してくる雫にも少し不自然さを感じましたし、もう少し、2人の心の距離が縮まるイベントでもあれば、ラストの唐突な印象が和らいだかも知れません。

ツールはLive Makerです。選択肢はなく、プレイ時間は40分〜45分。文章の読み応えがあるのに読みやすく、しっかり描写されているのに読んでいて胃もたれがするようなところがない、非常によく書かれた作品です。少し取っつきにくい作品かも知れませんし(見た目も地味ですし)、ちょっと痛い展開もするのですが、読後感はとてもいいですし、学園恋愛ものとしてとてもよく出来ています。見た目だけで敬遠せず、是非この作品にしかない独特の世界を味わってください。
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