第754回/神よ、人の心の力を見よ - 臨界天のアズラーイール(→Quantize_) - ファンタジー
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第754回/神よ、人の心の力を見よ - 臨界天のアズラーイール(→Quantize_)

ファンタジー
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臨界天のアズラーイール

臨界天のアズラーイール準推薦
■制作者/→Quantize_(ダウンロード
■ジャンル/夢と現実の交錯ファンタジーノベル
■プレイ時間/4時間

大手建設会社、一華建設に就職した想田理人は、配属先で先輩の長島麗美と出会う。麗美と一緒に仕事をするうちに、次第に麗美に惹かれていく理人。やがて2人は結ばれ、幸せな家庭を築き始めるのだが、時を同じくして理人は悪夢に悩まされ始める。悪夢を見る頻度は徐々に増えていき……。夢と現実がシンクロしながら紡がれる、現代ファンタジー大作。

ここが○

  • 前半の麗美、後半のアズが大変魅力的。
  • 夢と現実が上手く絡み合う絶妙な構成。
  • その構成とキャラが相乗効果で盛り上げる物語。

ここが×

  • 反面、メインヒロインの少女の影がどうにも薄い。
  • 終わり方がかなり唐突。
  • 一部誤用が少し気になった。

■神よ、人の心の力を見よ

今年最後にご紹介の作品。「ラビっとはーと!」「世界で一番悲しい笑顔」の作者さんの新作です。この作品は、制作中から注目していたのですが、公開するやいなや大評判となり、ノベコレでも大量の感想が付いていたので、人気作からは意図的に遠ざかるという天邪鬼な私は、「まあいっか。ほとぼりが冷めたらプレイしよう」と、しばらく放置していたのです(我ながら駄目人間)。

しかし、今年のラストレビューということで、やはり今年評判になった作品で締めくくりたいと思い、ようやくプレイしました。なるほど評判になっただけあって、大変作り込まれた作品だと、非常に感心しました。「世界で一番悲しい笑顔」は現実的な話で、奇跡など何も起こりませんでしたが、この作品は途中から神が登場したり、現代ファンタジーと言えそうな展開です。その一方で並行世界云々という要素もあり、分類には迷ったのですが、「ファンタジー」ということにしました。

臨界天のアズラーイール主人公は、大学を卒業して新社会人となる想田理人。一人っ子ですが、優しい両親の愛情を受け、裕福とは言えないものの何不自由なく育ちました。彼は設計部門への配属を希望していましたが、希望に反して現場管理分野へ配属されます。少しがっかりする理人でしたが、そこで先輩社員の長島麗美と出会います。だんだん麗美に惹かれていき、やがて2人は結ばれます。

前半部分は、麗美との恋愛模様が主です。麗美がまず、先輩なのに大変可愛らしいんですよね。そして、理人と麗美が少しずつ仲良くなる様子が、とてもよく描かれており、日常恋愛ものとしてもよくできていました。理人と麗美が結ばれて終わり、でも十分満足できるほどです(笑)。1時間ほどで作中での8年を描いているため、かなり飛ばし気味なのですが、描写と端折り方のバランスが上手く、飛ばしている感じは受けませんでした。

後半は打って変わって、タイトルにも入っている「神」の少女、アズことアズラーイールと一緒に、とある目的のために旅することになります。このアズが、最初は「なんだこいつ?」というキャラクターなのですが、基本的な性格は変わらずとも、だんだん理人のために行動してくれるようになる、その心情の移り変わりの描写がとても見事でした。特にラスト手前、自分の危機も顧みず、思わず理人に助言してしまうシーンは、とても心に響きました。前半は1時間で8年間、後半は3時間で4日間を描いているので、時間の進み方に突然の変化があるのですが、違和感がないどころか、それぞれに充実感のある描写になっているところに、作者さんの力量を感じます。

と、前半の麗美、後半のアズと、メインキャラクターがそれぞれ大変魅力的なのですが、この作品の最大の魅力が、逆に気になる点に直結しているというのが……。麗美が、時間はそれほど長くなくても、ゲーム内で8年を非常に巧みなバランスで描き、アズはゲーム内では4日ですが、濃密かつ心情の移ろいを上手に描き出しているのに対し、メインヒロインである少女の影がどうにも薄いのです。

何せ、途中までは名前も顔も分かりませんし、麗美とアズが微に入り細を穿って描写し、読者の感情移入度を高めているのに対し、メインヒロインの少女は描写も過去回想や夢などの間接的な形で、断片的になされるだけです。そのため、麗美やアズに比べると、理人が命がけで会いに行くほどには、どうにも感情移入ができなかったんですよね。ここは、今作で最大に惜しいと感じた点です。

構成は、非常によく考えられています。前半と後半で主人公である理人の雰囲気までガラリと変わりますし(理由を考えれば当然ですが)、何せ前半の幸せムードから来る後半ですから、読者に与える衝撃も並大抵ではありません。そして、前半と後半で起こったことが、上手くリンクして後半が進んでいく作りには、感服させられました。これがあればこそ、前半の展開にも、とても大きな意味を持たせることができ、全体としての統一感も非常に高まっています。前半が、ただの夢で終わってないところに、この作品の構成の非凡なるものを感じました。

また、ゼウスに輪廻転生と、色々な宗教の世界観がごった煮になったような世界観ですが、それが上手く融合している上に、並行世界などのSF的な設定にも、巧みに理由づけをしており、作品の奥行きを増していました。夢で見た光景が現実に影響するというのは時々見ますが、それを並行世界と絡め、「距離的に近い並行世界では、起こる出来事も似ている」などの設定で説得力を持たせたのが、非常に卓越した手法です。

が、終わり方が唐突で少し驚きました。そこまでがこの上なく盛り上がるのですが、エンドロールが流れ始めた時は、思わず「え、終わり!?」と声が出たほどです。そのあとエピローグで補完されているので一安心でしたが(?)、それでも、上に書いたようにヒロインの少女の影がいまいち薄いので、消化不良感を感じたのも事実です。もう少しヒロインの存在感があれば、ラストの満足感も高まったように思うのですが。

とは言え、構成とキャラクターとシナリオが一体となって長い物語を盛り上げる、非常によくできたお話でした(でも「延々と」が「永遠と」になっていたのは気になりました。しかも2箇所)。ツールはティラノスクリプト。音楽も要所で作者さんによるオリジナル曲が入り、雰囲気を高めています。選択肢は途中で1つだけ出て来まして、一応エンドは2種類ということになります。プレイ時間は4時間から5時間。今年後半の大きな話題作でしたが、話題に違わぬ力作でした。作者さんの次回作にも大いに期待しています。
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