第755回/2人の手には偽りの愛 - 記憶の欠片(やの) - 不思議系
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第755回/2人の手には偽りの愛 - 記憶の欠片(やの)

不思議系
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記憶の欠片

記憶の欠片■制作者/やの(ダウンロード
■ジャンル/記憶喪失とヤンデレ彼女ノベル
■プレイ時間/20分

如月夜哉は、ある日交通事故に巻き込まれてしまう。病院のベッドの上で目を覚ました彼を、可愛らしい見知らぬ女性、観月美玲が心配そうに見守っていたのだが、美玲は夜哉の彼女だと言う。しかし夜哉は美玲に全く見覚えがない。甲斐甲斐しく夜哉の世話を焼く美玲に、夜哉は段々惹かれていくのだが。捻りの効いたサスペンス風短編物語。

ここが○

  • 短いながら、意外性のある展開。
  • 美玲の、前半と後半の落差。
  • ちゃんと救いがあるトゥルーエンド。

ここが×

  • 美玲が夜哉に執着する理由が希薄。
  • フラグ立ての甘さ。
  • 何故か選択肢にくるとセーブできない。

■2人の手には偽りの愛

2020年のレビューは、軽く読める短い作品からスタートです。「10%と少しの幸せ」の作者さんによる作品で、プレイ時間も前回同様20分。前作は、目の付け所に面白さはあったものの、物語とすると少々荒削りなところもあったのですが、今作ではプレイ時間はほぼ同じながら、ちょっとした捻りを入れて思わぬ展開を見せたりするなど、物語としての完成度がかなり上がっているように感じました。

主人公は如月夜哉(きさらぎ・よるや)という男性。おそらく、若い社会人(20代半ばくらい?)だと思われます。その夜哉が、ある日交通事故に巻き込まれ、病院に運び込まれました。そして彼が目を覚ますと、そこは病室のベッドの上。夜哉を心配そうに見つめる可愛らしい女性がいるのですが、夜哉は彼女に全く見覚えがありません。

記憶の欠片主治医の説明によると、女性の名前は観月美玲。なんと夜哉の彼女らしいのですが、夜哉は美玲に全く見覚えがありません。どうやら記憶を失っているようで、美玲はそんな夜哉に、自分がリハビリをしっかりサポートするから、何も気にするなと言ってくれました。交通事故と記憶喪失という、比較的よく使われる手法の導入ではありますが、シンプルながら読み手の興味をひきやすい導入部です。

入院中ずっと懸命に夜哉を支えてくれる美玲に、夜哉は段々惹かれていきます。しかし彼の記憶はいつまでも戻りません。退院後、2人は彼の家で一緒に暮らすようになるのですが、ある日2人が出かけた時、夜哉は改めて美玲に自分と付き合ってくれと言い、美玲もそれを嬉しそうに受け入れます。めでたしめでたし。……になるはずはありませんね(笑)。お話はそこからが本番なのです。

この作品、尺の短さは別として、展開のバランスがとてもいいように感じました。前半はほぼ病院内、後半は夜哉の自宅で物語が進みまして、そこまで大きなイベントは起こらないのですが、閉じた空間の中で、少しずつプレイヤーに「あれ?」と疑念を抱かせるようなエピソードを配し、徐々に読み手の思考がある方向へ向くように誘導しています。そして、読み手の思考の方向がいよいよ真相に迫った時に、実にタイミングよく物語の核心が明かされる。物語展開と読者の思考内容が、上手くシンクロしているのですね。

これが上手くいくと、比較的王道のよくある展開であっても、読み手は非常に心地よく物語を味わえます。先が読めすぎる展開も、意外であっても唐突すぎる展開も、どちらも読み手にとっては満足感に繋がりにくいものですが、この作品はそこのさじ加減がとても絶妙だったように感じました。美玲が見せるヤンデレ風の挙動、でも突き進む2人の幸せな生活。そこに生まれる違和感。この辺りに非常にセンスを感じました。

ただ、美玲がそこまで夜哉に執着する理由が、いまいち分からないんですよね。もちろん、想像しようと思えば色々と思いを巡らせることはできます。例えば、自分の置かれた立場から幸せを掴むことは非常に困難なため、単に夜哉を道連れにしようとしたとか。しかしそれならそれで、それを明確に描いておいた方が良かったように思います。そこに少し筆を裂けば、より完成度が上がったのではないでしょうか。

展開的に、後味の良いラストが付きようがないと思っていたのですが、ノーマルエンドの読了後にタイトルに戻った時に読める後日談で、非常に綺麗なエピローグが付いていて、感心しました。あれがあるとないとでは、読後感が全く違います。ただ、前作同様今回もフラグ立てが甘く、一度ウィンドウを閉じると、後日談が読めなくなっているのが困りものなのですが。それと、選択肢に来るとセーブできなくなるのも、少々不親切に感じました。それにスキップがないんですよね。まあ、短いのでマウスで直接文章を飛ばすのも、さほど苦にはなりませんが。

ツールはティラノスクリプトです。選択肢は1ヶ所だけで、そこでノーマルエンドとグッドエンドに分岐します。ノーマルを読了後は、上で書いたように後日談(トゥルーエンド)が読めるようになります。プレイ時間は全部読んで20分。なので超短編と言っていい短さですが、この短さの中に色々と工夫が凝らされていますし、構成もしっかりしている佳作です。前作から大きな進歩が感じられたので、この作者さんが次回作を出されるなら、また是非読んでみたいですね。
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