第756回/思いを叫んで夢を咲かそう - SOUND JOURNEY DREAM SEEKER(鳥野彫像)
SOUND JOURNEY DREAM SEEKER

■ジャンル/夢の世界を音だけで冒険ADV
■プレイ時間/5時間40分
夢の世界に入り込み、見知らぬ世界をどこまでも落ちていく主人公は、やがて1つの扉の前にたどり着いた。右に進むか、あるいは左か。進む方向によって今までとは全く違う世界が展開する。そして最後に主人公、プレイヤーが見る結末とは? 全てが音だけで進行し、夢の世界を冒険する、斬新なサウンドアドベンチャー。
ここが○
- 音しかないだけあって、効果音が高品質。
- クラシックや外国民謡を主体としたBGMが雰囲気に合っている。
- 選択肢でがらりと変わる分岐と、他の作品にはない独特の雰囲気。
ここが×
- 朗読が妙に聞き取り辛いことが。
- 選択肢でのセーブ、スキップなど一切できず、繰り返しプレイが結構辛い。
- 合わない人には全く合わないと思われる世界観。
■思いを叫んで夢を咲かそう
2020年の2作目は、結構以前にダウンロードしていて、なかなかプレイできなかった作品をご紹介します。この作品は、今までご紹介したどんな作品にもない、とんでもない特徴があります。なんと「音しか存在しない」のです。絵がないどころか、文章すらありません。かつて「リアルサウンド」という音だけのアドベンチャーがありましたから、そういうものと言いたいところですが、そちらは登場人物の台詞のやり取りで進みました。が、この作品で読まれるのは、ほとんどがノベルゲームでいうところの「地の文」です。朗読劇的なものと言えましょう。ある意味、それが原因でご紹介が遅れたとも言えます。なんと言っても音だけですので、分岐型ノベルゲームには必須の「既読スキップ」「読み返し機能」がありません。プレイしてみれば分かりますが、これはかなりきついです。分かりやすい物語であればまだしも、この作品は抽象的、観念的で、ながらプレイで適当にやっていると、すぐ訳が分からなくなるのです(夢の世界なので当然とも言えますが)。

さて、主人公は開始直後からいきなり訳の分からない世界に放り出され、その世界を旅していきます。喋る狐や狸がいたり、謎の少女がいたり、かなり混沌とした世界です。そしてその世界をある程度旅すると、選択肢が出てきて、どちらかを選ぶとまた次の場所に行くという構成。それぞれの世界というか場所の間には、特に関連性がある訳ではなく、また選択肢の行動が後の世界に何か影響するという訳でもなく、あくまでルート分岐のための選択という感じです。
この世界観が相当独特で、合う合わないがはっきりするでしょう。とにかく抽象的で、明確な起承転結がある訳でも、伏線がある訳でも、盛り上がりどころがある訳でもないので、ちょっと面食らうかも知れません。展開はある意味支離滅裂で、最初にプレイした時は私も全く意味が分からないままラストまで進んでしまいました。
が、何度もやっていると、登場する要素がなんとなく繋がっているなとか、何かを暗示しているな、なんてのが少しずつ見えてきます。もっとも、これとても明示されている訳ではありませんので、私がそう思った、というだけですが。何せ、読み返し(聞き返し)、セーブがないので、「あれ?」と思ってもどんどん先に進むため、細かいところをじっくり考察する、というのが困難なのです。
また何度もやっていると、当然同じところを何度も聞くことになりますので、段々軽く聞き流しながらでもよくなってきます。これが、セーブ機能があり、選択肢直前でセーブしてというプレイ方法だとしたら、全く訳の分からないままで終わっていたでしょう。同じ箇所を何度も聴くためそれなりに自分の中で色々と考えが膨らみますが、しかしセーブやバックログがないため、明確な答えを得ることは困難です。何度プレイしても「見えそうで見えない」というもどかしさがあるのですが、ある意味そのさじ加減が絶妙で、実はそれこそが作者さんの狙いなのかも、と感じました(にしても、やはりセーブは欲しかったですが)。
そういう訳でこの作品は、論理的に捉えるより、この不思議な世界に「浸る」くらいのスタンスの方が、楽しめると思います。音しかないだけあって、効果音や音楽は質がかなり高いです。効果音はもちろんですが、クラシック音楽や、ロンドンデリーの歌、アニー・ローリーを始めとした外国の民謡を使った音楽が、効果を高めていました。よく知られた曲を使うことで、夢の世界らしいノスタルジーを演出できていたと思います。ただ朗読は、ちょっと聞き取り辛いところが多いのが気になりました(聞き返しができませんからなおのこと)。
このシステムが物語に合っていたかというと、私は必ずしも諸手を挙げて賛意は表せません。「リアルサウンド」が、ラジオドラマのように登場人物の会話で成り立っていたので、それこそ聞き流してでも話が把握できたのに対し、この作品はほとんどが「地の文」で、少し聞き逃すとすぐに訳が分からなくなります。音だけにするならば、やはり台詞のやり取りを主体にしたドラマにする方が、システムと物語が合っていると思います。しかし、多大な労力をもってこのようなシステム、独特な世界観を形にしたというのは、新しい試みの一旦として、大いに評価されるべきです。
ツールはティラノスクリプトです。エンディングは12種類ですが、実はもう1つあります。その最後のエンドと、その後の演出(挙動?)には驚かされました。こんな終わり方をした作品は前代未聞で、衝撃を受けました。必見(必聴?)です。ただしセーブもスキップも何もないので、素直に作者さんサイトのヒントを参考にすることをお勧めします。プレイ時間は全部のエンドを見て5時間40分。長いですが、1つのルートは25分前後ですから、毎日少しずつプレイすればちょうどいいかもしれません。そして読む速度には個人差がありますが、聴く作品ですから恐らく誰がプレイしても、プレイ時間は同じだと思います。合う合わないがはっきりしていると思いますが、世界観、物語とも斬新なことは間違いありませんので、一度は体験してみる価値があると思います。
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