第760回/いつかどこかで君の笑顔を - せめて、笑ってくれたなら。(優蘭) - シリアス・感動系
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第760回/いつかどこかで君の笑顔を - せめて、笑ってくれたなら。(優蘭)

シリアス・感動系
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せめて、笑ってくれたなら。

せめて、笑ってくれたなら。準推薦
■制作者/優蘭(ダウンロード
■ジャンル/生き方を見つける少年少女ノベル
■プレイ時間/5時間

高校を卒業して3年。優也はゴールデンウィーク中に開催される同窓会に出席するため、隣町から高校のある町へ帰って来ていた。当時の担任と再会し、思い出話に花を咲かせていたが、ふと寂しそうに佇む少女が目に止まった。どうしても放っておけなかった優也は、お節介を思いつつもその少女、美笑に声をかけるが。人生にもがき、生き方を見つける少年少女の物語。

ここが○

  • 心情描写が巧みで、非常に読み応えがある。
  • 構成が非常によくできている。
  • 重苦しい物語だが、読後感は良い。

ここが×

  • システム上、一部テンポが悪いところがある。
  • 悲劇を何度も見せられるため、辟易する。
  • いくら物語上の都合とは言え、人を死なせすぎでは。

■いつかどこかで君の笑顔を

また新しい作品に戻ります。そして文字だけの作品。文字だけの作品は、何度も書きますけど、独特の読み応えがあり、豪華な絵がついている作品とは、また一味違った良さがあります。文字だけの作品は、決して「絵がついているノベルゲームの劣化版、手抜き版」ではなく、文字だけのノベルゲームという、全くの別ジャンルなのです。こういう作品を読むと、それを特に強く感じます。

とは言えこの作品、評価はかなり迷いました(理由は後で書きます)。迷ったのですが、物語としては非常によくできていますし、何せ構成が見事です(実はそれが気になる点にも繋がるのですが)。なので準推薦でのご紹介。タイトルからして興味を惹かれます。最近はこういうタイトル、意外と見ませんね。見ただけで内容が分かるタイトルは、それはそれで分かりやすいというメリットはあるのでしょうが、こういう「おや、どういう物語なんだろう」と思わせてくれるタイトルの方が、私は好みです。

せめて、笑ってくれたなら。この作品は、1つの事件を複数の主人公の視点から見る物語です。最初の主人公は高校を卒業して働いている優也。高校の同窓会に出るべくゴールデンウィークに戻って来た中高一貫の母校で、寂しそうに佇む少女に出会います。その少女美笑に思わず声をかける優也。見知らぬ少女にいきなり声をかける唐突さはあるのですが、優也という男は、それをしてもおかしくないような性格であることが、徐々にわかって来ます。なので、最初の違和感は徐々に軽減しました。

物語は章立てになっていますが、各章の合間には「記憶に触れる」と題して、色々なサイドストーリーが読めます。過去の思い出だったり、知識を深めるトピックだったり、様々です。読まなくても先には進めますが、必ず読むことをお勧めします。読了すると全部のサイドストーリーが再び読めますが、プレイ中は一度次の章に進むと、前の章のサイドストーリーは読めなくなりますからね。とにかく、このサイドストーリーが、キャラクターの奥行きや、物語のバックボーンを深めるのに一役買っていたと思います。

優也と美笑は数日を過ごし、最後には……。そして次の登場人物へ。またゴールデンウィークの最初から、同じ事件を別の人物の視点から見ることになります。これが、「え、あなたが?」というような意外な人物。そして、その人物の視点により、今まで明らかになっていなかった事実や、意外な繋がりが分かってきて、登場人物や人間関係が深みを増していく作りが、大変巧みだと感じました。3人目のキャラクターも同様で、「そこからくるか」というような人物を持ってきて、驚かされました。

ただ、プレイすれば分かるのですが、ゴールデンウィークの最後に悲劇的な事件が起こります。それを何度も見せられるのはかなり辛いものがあります。これは別にループもののSFではありませんので、別の人物の視点でプレイしたからといって、起こるべき事件を回避できたりはしません。また、構成は巧みなのですが、だんだん人間関係が広がるにつれ、徐々にメインキャラクターであったはずの美笑の影が薄くなっていくのも、少し気になりました。まあ、影が薄くなったというよりは、物語がどんどん広がっていったのかも知れませんが……。

そして一番気になった点。いくら物語の都合とは言え、人が死にすぎではないでしょうか……。自殺3人、事故死1人、病死1人。連続殺人のミステリーものも真っ青です(汗)。特に事故死(実質自殺)の1人は、非常に腑に落ちないものを感じました。そんなキャラクターの扱いはありなのか、と……。また自殺のうち2人はまだしも、3人目の理由には絶句しました。テーマがテーマですから仕方ないとは思うのですが、物語の重さに比して、キャラクターの扱いが妙に軽く感じたのです。そこが大変気になりました(なので評価に迷ったのです)。

しかし、物語としては大変よくできています。絵がない、文章だけの作品ならではの読み応えを存分に味わえますし、キャラクターの扱いはちょっと気になるのですが、それとは別として、キャラクター自体は全員個性的で、生き生きと描かれています。死にすぎではあるものの、物語上の役割という意味では「捨てキャラ」がおらず、全員しっかりと役割を持っているため、ラストにきて濃厚な読後感を感じられました。

そういう意味で、生きたキャラクターのドラマというより、役者さんが演じている舞台劇という感じです。舞台劇であれば、ああいうキャラクターの扱いも、まあ分からなくはないかな、と。また悲しい物語ではあるものの、決して救いのない結末ではありませんから、最後まで読めば前向きな気持ちになれます。途中はかなりきついんですけどね。ラストの後に来た演出には、「そう来るか」と、にやりとさせられました。そこら辺りも含めて、小説というよりはお芝居のような物語だと思いました。

ツールはティラノスクリプト。一部選択肢のあるサイドストーリーもありますが、一本道です。4時間半くらいでしょうか。エフェクトやアイキャッチの時間が長すぎたり、サイドストーリーで文字表示が遅すぎるエピソードがあったり、ちょっとプレイヤーに優しくないところもありますし、音楽関連の描写に若干リアリティを欠くところもありますが、総合的に見れば非常に考えて作られた力作です。楽しいかというと、そういうタイプの物語ではないのですが、最後まで読めば質の高い感動を味わえることは間違いありません。じっくりと読んでみてください。
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