第765回/命は消ゆる曼珠沙華 - 横行する饅頭、独白する人鳥。(アングラ人鳥歌劇展) - シリアス・感動系
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第765回/命は消ゆる曼珠沙華 - 横行する饅頭、独白する人鳥。(アングラ人鳥歌劇展)

シリアス・感動系
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横行する饅頭、独白する人鳥。

横行する饅頭、独白する人鳥。■制作者/アングラ人鳥歌劇展(ダウンロード
■ジャンル/暗黒世界で愛を叫ぶノベル
■プレイ時間/2時間半

生命町という、暗く治安の荒れ果てた町に住む曼珠沙華とその友人のペンギンは、「饅頭」の運び屋をして生計を立てていた。ある日曼珠沙華の後輩、アルビフロラが仕事についてくることになった。饅頭を届ける相手は、いずれも一癖も二癖もある者達ばかり。そしてアルビフロラは曼珠沙華を慕い、何とか守ろうとする。退廃的な雰囲気で送るダークな物語。

ここが○

  • 独特の退廃的な雰囲気。
  • 絵が可愛く、絵とのギャップで一層世界観を引き立てる。
  • たまになる不安定な曲が効果的。

ここが×

  • インモラルでどぎつい描写が連発。
  • ラストも全く救いようがない暗さ。
  • なので合わない人には全く合わないと思われる。

■命は消ゆる曼珠沙華

また凄い世界観、雰囲気の作品が出てきたものです。プレイし終わった時、一体どんなレビューを書けばいいのか見当もつきませんでした。が、非常に独創的な作品ですし、世界観も他になかなか見られないものですから、この作品をご紹介しないままというのももったいない話です。何とか回らぬ筆にて感想を書いてみる次第です。的外れなところもあるかも知れませんが、どうぞご容赦ください。

この作品の舞台は、生命(きみこと)町という町です。非常に治安が悪く、インモラルな出来事も日常茶飯事。そして主人公の名前は曼珠沙華。本名ではなく偽名です。曼珠沙華は、無陰陽者と呼ばれる存在で、要は性別がないということのようです。これについて細かい説明がないので、肉体的にどうなのかはよく分かりません。医学的には「半陰陽」という言葉がありますので、そこから来ているのではないかと想像します。曼珠沙華には友人のペンギンがいつもトートバッグの中におり、この物語はそのペンギンを語り手として進行します。

横行する饅頭、独白する人鳥。さてこの曼珠沙華は、「饅頭」を指定された相手に配達する、運び屋の仕事をしています。饅頭というのがもちろん、単なる和菓子というはずはなく、周りにいる人々や配達相手も、どこか頭のネジが吹っ飛んだ連中ばかり。そしてある日、曼珠沙華の後輩のアルビフロラが、一緒に仕事について行くと言います。曼珠沙華とアルビフロラは、行く先々でどう見てもまともじゃない人々と、あれやこれやトラブルに巻き込まれていきます。

この作品、全体の雰囲気がとにかく暗いです。同じ「暗い」にも色々ありますが、この作品の暗さは他になかなか類を見ないものです。舞台は暴力も人殺しも当たり前というような町ですが、そこにあるのは、悲惨さというより「虚無」。主人公の曼珠沙華も、感情をほとんど表に出すことがありません。ですので、重苦しいとか陰鬱のような「陽」に対する「陰」、「明」に対する「暗」という暗さではなく、「無」を感じさせます(いや、陽と陰、明と暗の対比ももちろんあるのですが)。物語が動くのに、登場人物が実に淡々としているのが、その傾向に拍車をかけています。

起動してすぐに分かることですが、この作品はレイアウトも大変独特です。なんとウィンドウのど真ん中を縦断するように、縦書きのテキストウィンドウがあるのです。これには面食らいました。このレイアウトだと、立ち絵も左右に分断されますし、1枚絵も真ん中で2つに分かれる訳で、見やすいかと言われればはっきり言うと見にくいのですが(汗)、場面によっては大変面白い効果を上げています。

同じ1枚絵でも、真ん中で文章で真っ二つになるというのが、左右の絵の対比を非常に高めているシーンが見られました。もしテキストウィンドウがどちらかに寄っていたとしたら、この効果は生まれなかったでしょう。この作品でなければあり得ないレイアウトです。読みやすさだけをとれば思い付かない手法ですが、演出の一環だと思えば、ありなやり方なのではないでしょうか。

そして物語は不穏と虚無がないまぜになった雰囲気のまま進みます。そのムードをただ一人和らげているのが、曼珠沙華の後輩であるアルビフロラなのですが、後半に至ってそのアルビフロラがとんでもないことに。ここまで来ると、私もこの世界観にすっかり影響されたのか、もはやあまり驚きませんでした。「この世界観なら、それもまあ普通だよね」というくらいに。それこそが作者さんの狙いなのだとしたら、読み手の感じ方までも読んでそういう展開を持ってきた作者さんのセンスは、大したものだと思います。

バッドエンドの他にはトゥルーエンドとハッピーエンドがあるのですが、当然ながらどちらも全く後味がいい終わり方ではありません。ハッピーエンドなど、これのどこがハッピーなのかしばらく考え込んでしまったほどでした。しかし、あれも一つの愛の形であると思えば、確かにハッピーエンドと言えなくもありません。トゥルーエンドにしても、曼珠沙華の生き様からすれば、こう終わるのが確かに当然の帰結であり、これこそがトゥルーエンドなのかなと、妙に納得した次第です。

この作品には、実は音楽がほとんどありません。そして要所で流れる曲は、リストの「愛の夢 第3番」。まあ有名な曲ですから聞いたことのある方も多いでしょうが、所々で不安定にピッチが変わって不協和音が響くのが、何ともこの世界を象徴しているようでした。なまじほとんど曲がないものですから、たまに鳴るこの曲が一層効果的だったと思います。「曲がない」というのも、立派に一種のBGMなのだなと、そう思いました。また、絵が可愛く、物語とのギャップが面白かったですね。

ツールはティラノスクリプトです。エンドは、バッドエンドが3に、上で書いたハッピーエンド、トゥルーエンドで合計5つ。プレイ時間は2〜3時間でしょう。好みかどうかと言われれば、私の好みとは全く正反対なのですが、他の作品からは得られない味わいの作品で、色々な意味で大変印象に残る作品でした。合う合わないがはっきりした作品だと思いますし、こういうのが苦手な人にはお薦めできないのですが、食わず嫌いをせずにプレイしてみる価値はあると思います。
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Comments 2

アングラ人鳥歌劇展  
レビューありがとうございます

アングラ人鳥歌劇展広報係「Ms.トボガン」です。
今回は当サークルの作品「横行する饅頭、独白する人鳥。」のレビューをしてくださり、本当にありがとうございます。
と、同時に、非常に癖の強い作品で申し訳ないなという気持ちもあります……。

レイアウトに関してですが、これは舞台などでよく使用される
「上手と下手」をイメージして入れた物です。
読みにくいだろうなとは思っていましたが、
やはり言葉にされて指摘されると身に沁みますね。反省。

物語の構成などに関してはかなり力を入れたので、
そこに着目して頂けるとやはり嬉しいですね。
非常に後味の悪い結末ですが、
良くも悪くもプレイヤーの頭にこびりついて落とせないくらいに
残ってくれれば良いなと思いつつ制作していました。

NaGISA様のレビューは過去に何度か読ませていただいていました。
非常に興味深く、良いところも悪いところもしっかり書いてくださる丁寧なところが魅力的です。
今後も、NaGISA様のレビューを参考にさせていただきます。
改めまして、今回は本当にありがとうございました。

2020/01/16 (Thu) 06:28 | EDIT | REPLY |   
NaGISA  
>>アングラ人鳥歌劇展さん

コメントありがとうございます。

レイアウトは、上手と下手だったのですね。場面によっては、なるほど舞台のような効果を挙げていたように思いました。

>良くも悪くもプレイヤーの頭にこびりついて落とせないくらいに
>残ってくれれば良いなと思いつつ制作していました。
今までにない雰囲気の作品で、非常に印象に残った作品でした。間違いなく、制作の際の目論見は、(私について言えば)大成功だったと思います。これほど印象的な作品にはなかなか出会えません。

またお時間ある時に、当ブログを読んでいただけるととても嬉しいです。引き続いての創作活動、頑張ってください。また是非プレイいたします。

2020/01/16 (Thu) 23:42 | EDIT | REPLY |   

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