第767回/雪深き村の忘れ物 - 積層のAestivum(keeha) - シリアス・感動系
FC2ブログ

NaGISA net - フリーノベルゲームレビュー

ARTICLE PAGE

作品リスト − 新着順名前順プレイ時間順ジャンル別掌編
久住女中本舗作品リスト - 新着順/名前順
Peing質問箱(リクエスト、ご質問お気軽に)

第767回/雪深き村の忘れ物 - 積層のAestivum(keeha)

シリアス・感動系
  • comment0
  • trackback-

積層のAestivum

積層のAestivum■制作者/keeha(ダウンロード
■ジャンル/雪の森で記憶取り戻しノベル
■プレイ時間/3時間半

ある雪の夜、森の中で目を覚ました少年、氷室里柊。森の中を彷徨っていると、森の中で見知らぬ女性が倒れているのを見つけた。その女性、愛夏を助けた里柊は、愛夏と一緒に森を出たところにある新樹町を目指す。ところが、賑やかな街であるはずの新樹町には、電灯は煌々と灯っているのに人っ子ひとりいない。これは一体? 雪の夜の小さな奇跡の物語。

ここが○

  • 非常に文字が読みやすい。
  • グラフィックスが大変美しい。
  • じわじわ謎が明らかになっていく後半の展開。

ここが×

  • 何の前触れもなく、突如語り手が変わり混乱する。
  • 物語がどこに向かっているのかが中盤まで全く見えず、少し退屈。
  • 友代村の描写がとても現代日本と思えず、リアリティに欠ける。

■雪深き村の忘れ物

この作品は、結構以前からお薦めを受けていたのですが、なかなかプレイする機会がありませんでした。この度ようやくプレイしましたので、ご紹介です。タイトルの「Aestivum」が、英語にしては全く見覚えがない単語で、語感からしてラテン語かなと思って調べてみたら、ラテン語で「夏の」という意味のようです。が、この物語はクリスマス時期の冬の物語なので、何故そのようなタイトルになったのかわかりません……。英語だと「積極的な」という意味があるようですが、それでも意味が通りにくいですし、タイトルは謎めいていますね。

開始してすぐに気付いたことですが、この作品、とにかく非常に文字が見易いです。感動的なほど。元々ティラノはデフォルトのフォントが丸ゴシックで、これが妙に見辛いのですが、この作品のフォントは、漢字はゴシック、仮名は明朝風で、言ってみれば漫画の吹き出しのフォントに近いのです(そのもの?)。そしてこれが非常に見易く、大変快適に読めました。また、ワイド画面ですが文章の改行が適度なところでなされており、異様に視線が移動することもありません。このような気配りは読み手にとってはとてもありがたいですね。

積層のAestivumさて、物語は雪が降りしきる夜、とある森で主人公の少年、氷室里柊(ひむろ・りしゅう)が目覚めるところから始まります。彼は記憶を失っており、12歳くらいなのに妙に大人びていますが、それは彼の境遇によるもので、それはプレイしていると徐々に見えてきます。大人びた少年の一人称って、書き方によると鼻につくこともあるのですが、この作品の場合は、そこまで難しい語彙が出てくる訳でもなく、スムーズに読めました。文章の第一印象は良好です。

ただし、この作品は突如として一人称の語り手が変わることが何度もあり、その時は一瞬混乱します。本当に突然変わる上、語り手を示す演出がある訳でもないので、しばらく読んではじめて「あ、語り手が変わった?」と気付いたこともあるほど。この作品の場合、語り手を変えたことはなかなかの効果をあげていましたので、それはそれでいいのですが、あえて語り手を変える場合は、何か読者に分かりやすい表示でもした方が良かったのではないでしょうか。

そして、里柊は森の中で行き倒れていた女性、三春愛夏と出会い、2人で森の脱出を図ります。里柊が以前住んでいた新樹町を目指すのですが、なぜかこの街には、灯りはついているものの、人の姿がどこにも見当たりません。この辺りに来ても、全体としてのストーリーがどこに進むのかが全然見えないので、中盤くらいまでは少し退屈かも知れません。舞台も終始夜の森や街ですから、その傾向に拍車をかけています。

が、後半に謎の少女、古谷椿が登場してから、少しずつ物語が動き始め、物語が核心に迫り始めます。この物語のテーマというか仕掛け自体は、そこまで目新しいものではありません。人によっては、街に人っ子ひとりいないという時点で、ある程度の予測はつくでしょう(そんな状況、普通はあり得ないですからね)。この後半も、それほど劇的にテンポよく物語が動く訳ではないのですが、逆にゆっくりと雪解け水のように物語が流れ、着実に進む様子が後半に来ると心地よくなってきます。

とは言え、後半の主な舞台となる友代村は、流石に現代日本の描写としては色々あり得なさ過ぎて、ちょっと物語のリアリティを損なっている気がしました。携帯電話などが出てきますから、基本的には現代日本だと思うのですが、これならいっそファンタジー世界にでもした方が、違和感がなかったのではないでしょうか。あの村の出来事が、最後に綺麗に払拭されるならともかく、ほとんど後味の悪さしか残りませんし、そこはもう少しやりようがあった気がします。

ラストは、ハッピーエンドと言える幕の下ろし方で、ほっとできました。愛夏をもう少しクローズアップして描くところがあっても良かった気はしますし、そうすれば彼女が椿に最後のお願いをされた時の煮え切らない態度にも、もう少し説得力が出た気がするのですが、希望を感じさせる前向きな終わり方で、作品全体が雪の森、街という非常に「寒そうな」雰囲気だっただけに、心が暖まるラストシーンだったと思います。

ちなみにこの作品、いくつかのシーンで、画面内をカーソルでクリックして情報を集める「探索シーン」が出てきます。それほど難易度は高くないと思いますし、ごく一部のシーンだけですので、リズムを損なっている訳でもありません。味付けの1つとしてはありでしょう。また、グラフィックスの美しさも特筆ものでした。ちょっと幼い感じで柔らかいタッチの人物画はもちろん、背景が見事でしたね。自作だとしたら凄いですし、素材だとしても良くこれほどイメージ通りのものを集めたものだなと感心させられました。

ツールはティラノスクリプトです。プレイ時間は3時間から4時間くらいだと思います。上に書いたように、途中ADV風の探索シーンもありますが、分岐はなく一本道です。新しいタイプのシナリオではないのですが、雪の寒さを感じさせるグラフィックスと、丁寧な描写で、読み応えのある物語に仕上がっています。感動系がお好きな方なら、きっと楽しめると思いますよ。
関連記事

Comments 0

Leave a reply