第770回/探し屋稼業の矜恃と現実 - 探し屋トーコ(COF works) - アクション・ドラマ
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第770回/探し屋稼業の矜恃と現実 - 探し屋トーコ(COF works)

アクション・ドラマ
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探し屋トーコ

770.jpg推薦
■制作者/COF works(ダウンロード
■ジャンル/探偵の日常と非情な現実ADV
■プレイ時間/12時間

推理小説に出てくるような探偵に憧れる高校生、坂崎慎吾は、進路希望用紙の希望職業欄に「探偵」と書いたことで、担任教師から知り合いの探偵を紹介され、社会見学に行くことになる。その探偵、間宮桃子は慎吾が思い描く探偵の姿とは似ても似つかない女性だった。現実に打ちのめされつつも、慎吾が男として探偵として成長していく、本格派探偵物語。

ここが○

  • 凝ったストーリーと魅力的なキャラクター。
  • リアルでご都合主義がなく、キャラの魅力が生かされた物語。
  • 後半からラストにかけてもびっくりしてしまう展開。

ここが×

  • 探索シーンが少々煩雑かも。
  • 一部キャラクターに癖があって感情移入しにくい。
  • リアルではあるが、物語としてはしっくり来ないラスト。

■探し屋稼業の矜恃と現実

随分「推薦」が出ていませんでしたが、48作ぶりに通算49本目の推薦作の登場です。有名作ですが、今までプレイしていませんでした。何せプレイ時間が非常に長いと聞いていましたので、なかなか手を出せなかったのですが、今回ようやくじっくり取り組んでみました。なるほど、評判に違わぬ面白さで、久々にどきどきしながらプレイできました。古い作品なのですが、今の作品でも滅多に見られないほどレベルの高い物語です。

分類すれば「探偵もの」なのですが、この物語は通常のミステリーのように、殺人事件が起きてそのトリックを解いたりはしません。そもそも、現実の探偵ってそんな仕事しませんからね。が、主人公の高校生坂崎慎吾は、推理小説に出てくるような探偵に憧れる、若干痛い男(笑)。そんな彼が、担任教師竹中元晴の紹介で、探偵間宮桃子(とうこ)の元へ足を運ぶところから、物語が始まります。

770b.jpg物語は全7話に分かれており、各話は1〜2時間くらい(第5話だけちょっと短かった)。それぞれの話で依頼人から受けた仕事をこなすのですが、殺人事件など起こったりはせず、タイトルの通り探偵というより「探し屋」という方がぴったりの展開です。なくなった指輪を探してくれとか、家出した弟を見つけてくれとか、妻の浮気の証拠をつかんでくれとか、そんな依頼ばかりですが、現実の探偵(興信所)の仕事はそんなものですから、リアルであるとも言えます。

システムは、ザッピング方式を採用したアドベンチャー。桃子のみ昔のADVのような探索パートで進行します。これは少々煩わしく感じるところもあるものの、調査をしているという実感は味わえやすいシステムですので、こういうタイプの物語には合っているように思いました。ザッピングも、事件を違った方向から見られたり、以外な事実が分かったりして、物語に奥深さを与えていました。

キャラクターがまた個性豊かです。主役の坂崎からして、物語の探偵に憧れて殺人事件のトリックを解くような探偵になりたいと思っている困った男なのですが(笑)、桃子にしても「言ってることは間違っていないけど、その表現はどうなのよ?」というようなゴーイングマイウェイタイプ。この2人が、時に噛み合ったり噛み合わなかったりしながら、徐々に色々な探し物を見つけつつ、次第にキャラクターの背景に隠れた問題が明らかになっていきます。

坂崎は、ちょっと主人公としては感情移入が難しいキャラクターです。出だしで推理小説の探偵に憧れているのはいいのですが、最初の仕事で、現実の探偵は物語の探偵と違うことを身をもって味わったのに、いつまでもそれを理解しようとせず、最終話に至ってやっとそれを悟るという……。これは彼の成長物語でもあるので、それでもいいのですが、もう少し読者に感情移入しやすいような流れにはできなかったものかと思いました。

桃子は桃子で、冷酷なまでに探偵業に徹し、依頼を片付けたら後のことは知らん、というタイプ。正論ではあるものの、後半に来るとどうにも後味の悪い依頼が増えて、読んでいても気が重くなってしまいました。桃子と坂崎が、お互いのいいところを生かして噛み合っていれば、もう少し後半の印象が良くなったのですが、何だかお互いのマイナス面がかけ合わさって強調されていたような気がしなくもありません(汗)。まあ、ひかるやレッテ、小之美などのサブキャラクターがそこを上手く緩和してくれてはいましたけど。

後半。少し重い依頼を受け、桃子と坂崎が協力して依頼を解決するのですが、これがまた非常に重く後味が悪い結末。しかし、後味の悪さが先への引きになっているという、なかなか見ない構成でした。そして最終話で、ついに殺人事件が発生します。ここに来てようやく、探偵というのは自分の目指すような仕事ではないことに気付く坂崎(気付くのが遅いのでは……)。しかしそこで「ならば自分が探偵になる」と決意を示す場面は格好良く、行動も主人公らしかったですね。ただ、ひかるにはもうちょっと優しくしてやれよ、とツッコミを入れたくなりましたが(笑)。

真犯人は意外でしたし、ラストは非常に緊迫感のある展開でした。ただ、意外ではあるもののそれまでに犯人についての伏線が張られていた訳ではないので、ちょっと唐突な感じは否定しきれませんでした。が、最終話までは桃子にのみ探索パートがあったのですが、最後で坂崎に初めて探索パートが入ったのは、彼が本当に「探偵」になったということが実感でき、システムをも上手く利用した表現だなと思わされました。

結末は、それなりに綺麗に纏まってはいるものの、桃子の家庭事情はほとんど語られていないし、諸々が上手く解決しているとは言い難い状態です。リアルと言えばリアルなのですが、物語なのですから何か1つだけでもラストに相応しい収束を示してくれても良かったような気がします。坂崎とひかるを恋人同士にするとか、坂崎を再び桃子の下で働かせるとか、締めらしいところが欲しかったようにも思いました。が、リアルでありたいという作者さんが描きたかったのは、ああいうラストなのかも知れませんね。

全7話は、それぞれただの探し物の仕事ではなく、何かしらのテーマを持っており、各話単体でも読み応えのある物語です。そして全体を貫く、探偵という職業に対する桃子の冷酷なまでのプロ意識、坂崎の成長、登場キャラクター各々が抱えた難しい家庭の事情、明るいとは言えないラスト。しかしそこから逆説的に「世界の希望、夢」が描き出される点が、この作品の素晴らしいところではないでしょうか。単に現実的でハッピーエンドとは言えない終わり方を描くのではなく、そこから対比される光を見せてくれたのが、この作品ならではの見事な点だと感じます。

ツールはNScripterです。探索シーンのみで選択肢はなく、一本道です。プレイ時間は10〜12時間はかかると思います。文章がちょっと古い感じ(10年くらい前のネットスラングが多数)で、今読むと少し違和感を感じるかも知れません(ネットスラングや流行り言葉を使うと、こういう問題が)。しかし物語は文句なく優れています。こんな物語は、2020年の今でもそうそう現れるものではありません。癖も強い作品ですが、是非とも味わいながらプレイしてみてください。さて貴方はこの物語から、どんなメッセージを受け取るでしょうか?
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