第772回/私が死んでも世界は続く - 死ぬよりもつらいこと(浦田一香) - シリアス・感動系
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第772回/私が死んでも世界は続く - 死ぬよりもつらいこと(浦田一香)

シリアス・感動系
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死ぬよりもつらいこと

死ぬよりもつらいこと準推薦
■制作者/浦田一香(ダウンロード
■ジャンル/自殺遺族立ち直りノベル
■プレイ時間/1時間

友人を自殺で亡くした大水真一郎は、Twitterで同じような境遇にある自殺遺族を呼び出し、お互いの経験談を語り合うオフ会を企画した。やって来たのは兄を自殺で亡くしたヨウ(衣笠海翔)と、父親を喪ったザクロ(浦木杏)。最初は真一郎から、自分の経験を話し始める。親しい人を喪った人たちが、彼らなりのやり方で心を回復していくシリアスな物語。

ここが○

  • 構成がよくできている。
  • 重いし純粋なハッピーエンドでもないが、希望を感じさせる終わり方。
  • テーマがしっかり伝わってくるストーリー。

ここが×

  • 真一郎が色々迂闊な気が……。
  • 男性キャラクターの見分けがつき辛い。
  • やる気満々の準にずっこけた(笑)。

■私が死んでも世界は続く

何ともストレートで重いタイトルの作品です。「恋をする生き物だから」「あなたの命の価値リメイク」の作者さんの新作ですが、この作者さんの作風は独特でして、児童虐待などの重いテーマに真正面から取り組んだ作品が多いです。そして今作のテーマは、「自殺遺族の回復」。自殺をテーマにした作品は過去にもありましたが、自殺遺族をメインに据えた作品はちょっと記憶にありません。

プレイしてみると、このテーマを語るにはこの設定がベストなのではないかとすら思えました。やたら身内が自殺したという人を次々に出すと、明らかに物語が現実味を欠くのですが、この作品は冒頭で、主人公である真一郎がTwitterで自分と同じく身内を自殺で亡くした人に対して、経験を語り合おうと呼びかけます。なので、当然そういう体験を持つ者が集まる訳で、その後の展開に嘘っぽさがありません。この設定がまず上手いなと思いました。

死ぬよりもつらいこと最初は真一郎から経験を語ります。なんとこの章で大きな要素を占めるのが、ノベルゲーム。まさか自殺をテーマにした作品でこういう展開をすると思いませんでしたので、面食らいました。しかし作者さんの創作に対する思いなども盛り込まれ、とても読み応えのある章でした。いじめられっ子だった真一郎が、ある日プレイしたノベルゲームに感銘を受けますが、実はその作者である「wan」はクラスメイトの栄一だったのです。

その影響で真一郎もノベルゲーム作りを始めます。ここまで読んだだけだと、栄一が自殺するようには見えないのですが、その後急転直下の展開に。この章のラスト、真一郎が栄一の名誉を守るべく声を上げるシーンは、名場面でした。が、ここが非常に気になったのですが、読んでいて「これ、真一郎が栄一の自殺の原因なのでは……?」と思ってしまったのです。まあ、その前から栄一は死にたいと言っていたのですが、最後の一押しをしてしまったのは真一郎で間違いない気がします。

真一郎は、性格的にそういうところがあるのかも知れません。ヨウ(海翔)に対する受け答えでも彼を怒らせていますし、またヨウは真一郎の話を聞いて、真一郎が栄一の自殺の原因になっていることを指摘していますから。何にせよ、これを狙って描写したとしたら、もう少し真一郎が成長するところをラストで描写してくれれば、収まりが良かったような気がしました。

続いては兄を自殺で亡くし、自らも鬱病になった海翔の体験談。鬱病になった海翔に対する、母親や祖父の対応が、何というか典型的な「理解のない家族」で、なかなか大変です(汗)。彼はあまりストーリーの根幹に関わるキャラクターではないのですが、渋く脇を固める役という感じ。自分の体験から、ザクロ(杏)のことを察したり、サブキャラとしていい存在感を放っていました。

そして3人目はザクロ(杏)。彼女はまた物凄い体験の持ち主です。父親はまだしも、妹の件まで盛り込んだのは、若干のやりすぎ感を感じなくもありません。それでも、彼女の物語から、実は意外なところから真一郎に繋がってくるという伏線回収は見事でした。オチの付け方も、もちろん杏に待ち受けている運命を考えればハッピーエンドとは言い切れないのですが、希望を感じさせてくれるラストでした。

何より、ラストからまたタイトルに戻るときの演出が見事でした。演出と言っても、派手に動画で何か見せるという訳ではないのですが、作品のテーマがタイトルとぴったり結びついた、とても印象的なラストです。このように、この作品は非常に構成が練られていました。3章がただばらばらに並んでいるのではなく、それが最後できちんと1つに重なり、さりげない設定が伏線として後で生きてくる。よく考えられている物語です。

気になったのは、男性キャラクターが3人いるのですが、3人とも立ち絵が似ていて、区別が付きにくいんですよね。それと、第3章でのとあるシーンで、準の用意周到なとある行動に「お前やる気満々やんか!」と笑ってしまいました。準備万全過ぎだろ、と(笑)。あ、だから名前が「準」なのか!(多分違う) まあ、この作者さんはそういうシーンは、ぼかさずにずばりと描写するのが持ち味でもある気がしますが、さすがにあそこはもう少しオブラートに包んだ、雰囲気のある描写でも良かった気がしました。

ツールはティラノスクリプトです。選択肢はなく、プレイ時間は40分から1時間くらい。グラフィックスが美麗な訳でもなければ、エンターテインメント性が高い作品でもなく、言ってしまえば決して大人気になるようなタイプの作品ではありません。しかし、読んだ人の心に必ず何かを残してくれる作品です。また、創作をやる人は、特に第1章は心に響くのではないでしょうか。それほど長い物語でもありません。創作をやる人、やらない人も、是非読んでみてください。
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