第779回/夢が終わって朝が始まる - 夢の終わり(空と雪) - 不思議系
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第779回/夢が終わって朝が始まる - 夢の終わり(空と雪)

不思議系
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夢の終わり

夢の終わり■制作者/空と雪(ダウンロード
■ジャンル/故郷の村で夢を断ち切るノベル
■プレイ時間/1時間半

高校生の主人公は、かつての記憶が原因での頭痛が悩みの種だった。その原因を探るために、列車に揺られて、今は廃村となった故郷の村へとやってきた。懐かしい光景を辿り、かつての自分の家へやってくるが、そこで主人公は気を失ってしまう。気がつけば10年前。目の前には姉祐子の姿が。これは果たして夢なのか? 映画のような雰囲気で送る物語。

ここが○

  • 詩的な文章。
  • 派手ではないものの、よく考えられた演出。
  • 美しい背景写真。それらが全てが相まって醸し出す映画のような雰囲気。

ここが×

  • 文章が詩的に過ぎて、若干分かりにくい箇所も。
  • 終盤まで目立った事件が起こらないので、少し退屈。
  • テキストウィンドウが白っぽく、文字が見難い。

■夢が終わって朝が始まる

最近、新しい作品を中心にプレイしていましたが、1時間から2時間くらいの作品をプレイしたくなると、途端に新作における選択肢がぐんと狭まります。15分以下の作品が圧倒的に多いですからね。なので、そういう時は過去作品を探しに行くに限ります。この作品は、「時計塔へ -ciel et neige-」の作者さんの作品です。単純に登場時期を比べると今作の方が2012年で後ですが、この作品はリメイク版のようなので、細かいことは分かりません。

「時計塔へ」でも、詩的で儚い空気を漂わせる文章、アナログで柔らかいタッチのイラストが非常に特徴的でしたが、今作も同様です。ですが「時計塔へ」よりはだいぶ雰囲気が変わっています。あちらは20世紀初頭の欧州を思わせる舞台でしたが、今作は現代日本。現代日本ではありますが、舞台となるのは主人公の故郷である、廃村となった田舎町。フリーノベルゲームでは定番の一つである、「田舎に帰省」ものですね。

夢の終わりこの手の設定の場合、帰省する季節は圧倒的に夏が多いのですが(検証はしていませんが、ほとんど全ての作品が夏だと思います)、この作品は例外的に、帰省の時期が秋です。なのに冒頭で蝉の鳴き声の効果音が入っているのが若干謎ですが、まあ雰囲気作りということなのでしょう。主人公である愛称「ちーちゃん」(最後まで本名は出てきません)が、駅から故郷行きの列車に乗るところから、物語が始まります。

まず気になった点ですが、全画面テキストウィンドウが白っぽく、そこに明朝体の白い字が重なるので、場面によっては大変字が読み辛いのが困りものでした。それほど短い物語でもないですから、読み辛いのは結構大変です。フォント変更ができますから(NScripterなので)、ゴシックに変えましょう。それだけでかなり読み易くなります。この点、ツールでフォントが変えられるのはありがたいですね。

主人公は、廃村となった故郷の村でかつて自分が住んでいた家に足を踏み入れます。もちろん廃屋ですので中は酷いものですが、突然気を失ってしまい、気がつくと目の前に姉の姿が。自分も小学校に上がる前の子供になってしまっています。夢を見ているのか、はたまたタイムリープなのか? 謎をはらんだまま、ストーリーは姉や母親との会話を中心に緩やかに流れていきます。

もちろん何が起こったのかは、物語が進むにつれて徐々に明らかになっていきます。この物語は、さほど大きな事件は起こりません。そして、実は何が起こっていたのかは、割合早い段階で想像がつきやすいと思いますので、その意味では少し退屈を感じなくもありません。しかし、わくわくどきどきするだけが物語ではありません。ノスタルジーを感じつつ、晩秋の田舎の空気感の中、静かな日々を味わうというのは、他ではなかなか見られないこの作品ならではの美点でした。文章や、「時計塔へ」同様の柔らかく淡いタッチのイラストが、それを大いに支えていましたね(画力だけで言えば、決して高くはないのですが)。

また、演出も優れていました。と言っても、やたらと動くとか喋るとか、そういう派手な演出ではなく、背景画像の色の変化などを活用した、どちらかと言えば地味な演出です。しかしこれが実によく効いていました。背景写真の美しさもさることながら、こういう細かい工夫が、作品世界を魅力的なものにし、物語を下支えするのに一役買っていたことは間違いありません。

描写は終始詩的で、それがこの作品の魅力でもありますが、終始詩的に過ぎて少し分かりにくく感じる箇所もありました。夢で過去を追体験する方に比重が傾き過ぎて、現在の主人公の状況がほとんど描かれていないのも、少し気になったところです。そこをバランスよく描いていれば、より魅力的な物語になったような気もするのですが、しかしそれをやると、夢の中に突如現実が混じるということになる訳で、かえってこの作品の魅力を失わせる結果にもなりかねません。物語のバランスのとりかたって難しいなと思わされます。せめて、ラストの「事件」については、もう少し前半からそれとなく伏線を配置しておいても良かったのでは。

上に書いたように、背景写真は大変美しく、田舎の山村の雰囲気を十二分に堪能させてくれます。また選曲もいいですね。タイトル画面の曲が特にイメージぴったりで印象的でした。そしてラストシーンからエンディングにかけての演出もまた抜群。演出法はシンプルながら、クレジットと後日談が交互に流れる手法が映画のエンドロールを思わせ、一層読後の感銘を高めてくれていました。最近は、盛り上がりの最高潮でいきなりスタッフクレジットに突入し、「え、こんなところで終わり?」と思わせてからエピローグで補完、という作品があまりにも多いですが、ラストの「切り方」「収め方」って大事だなと、この作品を読んで感じました。

ツールはNScripterです。選択肢はありません。文章があまりすらすら読めるタイプではありませんので、読み終わるまでの時間は文章慣れしているかどうかによると思いますが、私は1時間20分でした。大体1時間半から2時間くらいではないかと思います。エンターテインメント性の高い物語ではありませんので、好みは分かれるかもしれませんが、物語に「身を浸す」のが好きな方であれば、きっと充実した時間を過ごせる作品だと思います。この素敵な世界観と文章を、味わいながら読んでみてください。
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