第780回/だから私は明日も生きる - Last Resort(shizuka) - ミステリー・サスペンス
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第780回/だから私は明日も生きる - Last Resort(shizuka)

ミステリー・サスペンス
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Last Resort

Last Resort■制作者/shizuka(ダウンロード
■ジャンル/孤島のリゾートサスペンスノベル
■プレイ時間/2時間20分

綾小路琴乃は、世間を賑わせた銃の乱射事件に巻き込まれ、事情がある人が招かれるという、とある孤島のリゾート地へと招かれた。そのリゾートには、3人のスタッフと、そして琴乃を入れて3人の宿泊客。美しい海に囲まれたその場所で、琴乃は少しずつ心の落ち着きを取り戻していくが、翌日宿泊客の1人が行方不明に。重厚なマルチエンドサスペンス。

ここが○

  • 選択肢の面白さを味わえるマルチシナリオ。
  • パズルが解けるように少しずつ真実が明らかになるシナリオ分岐。
  • 登場人物の生き様が魅力的。

ここが×

  • 文章が横に長すぎて読み辛い。
  • 犯人の動機や正体が最後までよく分からない。
  • 既読スキップ判定が甘く、複数回プレイがちょっと不便。

■だから私は明日も生きる

ここのところ、やたらと自殺などの死生観を取り扱った作品が多いような気がします。この作品を含めた直近の20作品の中で、作中で人が死ぬ話が13作品。最近の作品ばかり取り上げている訳ではないとは言え、いくら何でも多すぎやしないでしょうか。この傾向は何なのでしょう(汗)。そんな中でも、この作品は独特の設定で、出だしから読者の興味をひいてくれます。

作品の舞台になるのは、場所も名前も分からない孤島にあるリゾート地。このリゾートは、何かしらの事情を抱えた者が招かれる、特別な場所です。そんなところに、主人公である綾小路琴乃が招かれ、船上の人となったところから物語が始まります。開始早々、水彩画タッチの1枚絵が目をひきます。立ち絵はデジタル風ですが、背景もアナログ風の手描きで、全体の統一感を高めていてとてもいいですね。

Last Resortそして最近これを書いていることが多いのですが、またも気になる点から。この作品はワイド画面ですが、テキストウィンドウが横長すぎて、さらにフォントが小さく、視線移動距離が非常に長いので、読んでいて疲れます。フォントがティラノデフォルトの丸ゴシックなので、なおのことです。ワイドの作品の時はいつも書いている気がしますが、テキスト表示領域まで横長だと確実に読み辛いので、ここはもう少し工夫が欲しいところでした。テキストウィンドウの左右を適度に切って、フォントを少し大きくするだけで、全然違ったはず。あと「端的」を誤用していると思しき箇所があり、最初意味が取れずに「?」となりました。

さて、物語はほぼ孤島のリゾートホテルの内部で進みます。時折外に出ることもありますが、何せリゾートホテル以外は何もない島ですから、設定としては典型的なクローズドサークル(閉鎖空間)ものと言えましょう。が、いわゆる「かまいたちの夜」タイプのお話とはちょっと違います。もちろん、物語が進むと殺人事件も起こりますが、事件の謎を解くミステリータイプの物語ではありません。

どちらかというと、主人公の琴乃が巻き込まれた乱射事件の真相や、このリゾート地に集まった人たちの生き様と言った者がメインテーマです。この乱射事件は、琴乃の優しかった兄、奏(かなで)が起こしたもので、琴乃は未だに「兄がそんなことをするはずがない」という思いを捨てきれずにいます。そしてこの事件で、琴乃は思いを寄せていた幼馴染の四条晶を亡くしてしまっています。

この導入が、非常に強い先への引きとなっていました。また、シナリオ分岐にも単なる死亡バッドエンドのようなものは有ません。選択肢による分岐により、それこそ虫食いの穴を埋めるかのごとく、謎が少しずつ明らかになっていきます。1つのルートを読み終えても全ての謎が明らかになる訳ではないので、次のプレイへの意欲が湧くという、マルチエンドの作品としては理想的な作りでした。最近はこのような作りの作品は多くありませんので、マルチエンドの醍醐味を堪能できるこういう作品の存在は嬉しいところです。

そして、少しずつ明らかになる乱射事件の全貌も、十分な意外性があり、サスペンスらしい手に汗握る展開が最後まで続きます。印象的なシーンも多く、特に琴乃が晶からもらったペンダントに気付くシーンは、大変心に残りました。男性の視点から見ると、晶には「自分が好かれていると自覚しているからそんな余裕ぶっこいたことできるんだろうけど、もうちょっと分かりやすく表明したれや!」と思わなくもないのですが(笑)。

ただ、乱射事件の真犯人について、細かいところがまるで明らかになっていないのは、ちょっと消化不良です。彼が一体どういう人物なのかも謎ですし、何より彼の動機が全然分からないんですよね。サスペンスですから、何より行動原理は一番大切な要素のはず。何故あれほど片っ端から人を殺さなければならなかったのか、それが全く語られていないため、画竜点睛を欠くと言いますか、物語が最後の一番大事なところを欠いているように思えたのです。ここさえきちんと語られていれば、凄く化けたと思うので、少し惜しく感じました。

とは言え、読み手の心を揺り動かして不安な思いにさせてくれるという意味では、立派なサスペンスとして水準以上の物語です。特にトゥルーエンドが設定されていないので、どの結末を選ぶかは読者に委ねられているというのは好みが分かれるところでしょうが、この作品の方向性を示している感じがします。こういう方向性の作品があってもいいのではないでしょうか。

ツールはティラノスクリプトです。エンディングは7種類。フラグ分岐ではなく典型的な選択肢分岐ですので、難易度は高くありません。順番に全部の選択肢を試していけば、難なくコンプリートできます。プレイ時間は、最初の1回は30〜40分くらいで、2回目からは20分程度、通して2時間半くらいです。ただ、既読スキップの判定が甘く、未読部分まで飛ばしてしまうのは、マルチエンドものとしてはちょっと不便でした。重厚な読後感で、マルチシナリオならではの面白さを存分に味わわせてくれる作品です。
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