第786回/思い出の味はアーモンド - 未完の後悔(お風呂かこ) - 学園・青春
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第786回/思い出の味はアーモンド - 未完の後悔(お風呂かこ)

学園・青春
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未完の後悔

未完の後悔■制作者/お風呂かこ(ダウンロード
■ジャンル/後悔を乗り越える青春写真ノベル
■プレイ時間/40分

熊名西高校の1年生平山宥は、バスケットボール部を辞め、目標を失っていたが、ちょっとしたきっかけで写真部に入部することになった。写真部は宥を入れて合計4名という小さな部ながら、和気藹々と活動しており、宥もすぐに馴染む。が、その雰囲気に隠された写真部の過去に彼が気付いた時、彼も自分の後悔と向かい合う。タイトルの意味が深い青春物語。

ここが○

  • 等身大の青春を描いた様子がいい。
  • 地味ながら成長物語としてもよく書けている。
  • キャラクターの使い方が良く、説得力がある。

ここが×

  • 会話文が分かりにくい。
  • 丁寧な前半に比べ、後半が飛ばし気味であっという間に終わってしまう。
  • 音楽が地味すぎる。

■思い出の味はアーモンド

10日くらいレビューの間が空きました。その間ノベルゲームは全然プレイせず、マジックのDVDを見たり編曲活動をしたりしていました。やはり時々充電期間をおかないと、レビューする意欲も続きません。ただ最近音楽制作を主にやっていますので、また突然ペースが落ちるかも知れませんが。更新が突然止まったら察してください(笑)。

今回の作品は、「ふたつの恋慕」「太陽よりも暑い夏」の作者さんによる新作です。星の数ほどあるフリーノベルゲームですが、作者さんによってやはり個性の違いは鮮明で、この作者さんは地味で抑えた設定、描写の中に、キャラクターの心情をしっかり描き、そこにさり気なく作者さんの思想を込めるという作風のように見受けられます。そして今作は、前2作に比べても、作者さんの思いがかなり強く込められた作品だと感じました。

未完の後悔主人公は、熊名西高校の1年生、平山宥。彼は中学校の頃から、ずっとバスケットボール部に所属していたのですが、ある原因が元で辞めてしまいました。そんな宥はちょっとしたきっかけで、担任の安口先生が顧問を務める写真部に入部することになりました。一見平穏な写真部に、宥はすぐに馴染むのですが、実は写真部のメンバーには隠された影があるのでした。

まず気になった点から書きます。この物語は、宥の一人称で進みます。そして人称が変化することもなく淡々と語られます。過剰に捻りすぎない読みやすい文章で、その意味では大変好感が持てるのですが、会話分で発言者が判り辛いシーンが結構ありました。台詞の前に発言者の名前がついている訳ではなく、と言って発言者が分かりやすいような描写を欠くところも多いので、やり取りが続く場面は少々分かりにくく感じました。ここには少し配慮があっても良かったかも知れません。

さて、物語は比較的地味で、特に大きな事件は起こりません。主眼は、宥と、そして写真部の2年生の先輩小坂さちが抱える「未完の後悔」を「完結」させること。このタイトルワークは上手いなと思わせられました。タイトルの字義は明らかですが、深い意味は謎で、読んでみてだんだんタイトルの意味が分かるという作りです。また、流行りの長い文章系のタイトルではないのに、「なんだろう?」と一目を引くインパクトもあります。やはりタイトルって大事だなと思わせられました。

この「未完の後悔」。宥とさち、それぞれの後悔は作中で明かされますが、この2人の後悔を徐々に明かしつつ、途中で2人の思いが上手く交錯するのは、とても上手い構成でした。また、今回は作者さんの思想がかなり色濃く反映されています(後書きを読めばその辺りが明らかになります)。こういう作品は、一つ描き方を間違えると大変に押し付けがましい作品になりかねませんが、この物語はそこらのさじ加減が上手く、押し付けがましさを感じませんでした。

これはひとえに、登場キャラクターの性格・設定付けと、それに説得力を持たせるための描写がきちんとできていたからではないかと思います。また、登場キャラクターに、いわゆる「中二っぽい」ところがないのも大きな要素のように思います。ただ、宥がさちに悪態をつく(?)シーンだけは、「突然切れて、頭大丈夫か?」と心配になりましたが(笑)。まあ、宥の発言にはちゃんと意図があることが直後に分かりますし、その後の解決シーンは大変綺麗で印象的でしたが。

物語はエピローグを含めて全17節。各節は比較的短く(長くても5分)、テンポも良好です、ただ、前半はきちんと描かれていたのに、後半が妙に飛ばし気味だったのは気になりました。特に、中盤から言及され、後半のメイン行事になると思われた「写真甲子園」があまりにもあっさり終わってしまったので、そこは若干拍子抜け。上手く描けば後半をもっと盛り上げられたような気がするのですが。ま、作者さんが描きたかったのはそこではないのかも知れませんね。そこだけ重くなると全体のバランスを崩す気もしますし、そこが作者さんのバランス感覚なのでしょう。

立ち絵らしい立ち絵はないのですが、要所では作者さん自ら描いたキャラクターのイメージイラストが中央に表示されます。音楽も自作のようで、ほとんど単音の旋律が流れるので、退屈に感じることもありちょっと地味すぎる感じはします。エンターテインメント性やインパクトを前面に押し出さずに、訴えたいテーマをしっかり盛り込んだ作りといい、いい意味で古き佳き頃のノベルゲームという印象です。

ツールはティラノスクリプト。選択肢はありません。プレイ時間は、1時間はかからないでしょう。私は35分でした。登場メンバー同士が恋仲になることもなく、どこにも「ウケを狙った」ところがありません。しかし正面から誠実に、青春真っ只中の高校生が抱える、ちょっとした、でも当人たちには大事な問題を真摯に描いた、味わい深い物語です。派手な物語でちょっと疲れたら、こういう静かで地味、でも味のある青春物語を読んでみるのはいかがでしょうか。
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