第788回/十年複利の巡り合い - 定期預金(DTS3) - 日常
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第788回/十年複利の巡り合い - 定期預金(DTS3)

日常
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定期預金

定期預金準推薦
■制作者/DTS3(ダウンロード
■ジャンル/人形の呪いと祝福ノベル
■プレイ時間/20分

10年前、ふとした弾みから人形を購入した主人公。それから10年。すっかり容姿もくたびれ、会社でもいまいちな、典型的な冴えないおっさんになってしまった。ある日主人公は、休日の楽しみである、人形を連れての写真撮影に出かけるべく、スーツケースを抱えて家を出たのだが。短いが起承転結のメリハリ、ストーリーテリングの粋を味わえる佳作。

ここが○

  • 起承転結がしっかりした構成。
  • それぞれ味わいのある3種のエンド。
  • 落とし所と上げ所を心得た、粋なストーリーテリング。

ここが×

  • 若干ご都合主義なところがある展開。
  • ちと唐突なバッドエンド。
  • 10年で老けすぎの主人公(笑)。

■十年複利の巡り合い

今回ご紹介は、短編ながら非常によく出来た物語だった「それでも、うちのこかわいい」の作者さんの作品です。元々は人形をテーマにした同人誌に掲載されていた漫画だそうなのですが、そのせいもあってか今作もストーリー構成が非常によくできています。特に短編の作品は、漫画的なストーリーテリングの手法が、実はとてもマッチするのではないかと常々思っているのですが、この作品はまさにその好例と言えましょう。

前作同様、今作もテーマは人形(ドール)です。人形とは言っても、子供のおもちゃのようなものではありませんし、またフィギュアともまた違う、大きめで色々ポーズをとらせ、写真を撮って楽しむようなタイプのもののようです。そこら辺りは「うちのこ」に詳しいですので、先にそちらをプレイするのもいいでしょう。もちろん、この作品から読み始めても全く問題なく楽しめます。

定期預金主人公はしがない会社員。10年前、導かれるようにして何気なく購入した人形がきっかけで人形の世界にハマってしまった男です。ある日若い同僚から「人形って運気を吸い取るらしいですよ」と言われ、「でも10年暮らしを共にすると心が宿るともいうぞ」と言い返しましたものの、ここのところ確かに不運続きだった主人公は、少し不安に駆られます。そんなある日、休日にいつものように人形を連れての写真撮影に出かけようとするのですが……。

出だしは、案内人による意味深な場面から始まります。そして、「定期預金」という地味でよく分からないタイトルに、最初は「?」となるのですが、このタイトルの意味は最後まで読めば分かるようになっています。なるほど、面白いタイトルの使い方だなと感心しました。また、そのタイトルの意味を単に展開で明かすのではなく、ヒロインの行動に絡めた辺りが、上手い作りです。

タイトルの付け方にも色々あるとは思います。あらすじを文章にしたようなタイトルにして、分かりやすく作品説明をしてしまうのももちろん一方ですし、そういうタイトルが流行っているのには、やはり相応の理由があるのでしょう。しかし特に短編、掌編ならば、読了までに要する時間も短いですし、このようなタイトルを使った謎かけを上手く使うのも、読者の記憶に残る物語にし、あえて流行の逆をいくことで印象に残るタイトルにする、いい方法なのではないでしょうか。

物語それ自体は、さほど捻ったところがある訳ではありませんし、意外な展開、どんでん返しをする訳でもありません。しかしこの物語は元々漫画だったせいか、起承転結のバランスが非常に優れています。ちょうどいいタイミングでバランスよく物語が展開する、その感覚が絶妙です。その理由がなぜかと考えてみますに、恐らく「上げ所」と「落とし所」が非常に巧みなのですよね。

物語は、主人公の境遇がダウンする一方でも嫌気が差してきますし、さりとてやたらに成功するだけでも退屈となりますが、この物語はその「上がったり下がったり」が非常にいい塩梅なのです(これは前作「うちのこ」も同様でしたが)。それなりに不運にも見舞われながら、テーマともなっている人形の力で幸運を掴む、そのタイミングが見事で、完成度の高いシナリオに仕上がっていました。この作者さんのストーリーテリングの能力は、大したものだと思います。

まあ、グッドエンドはあまりにご都合主義と言えばそう言えなくもないですし、バッドエンドはちょっと唐突なのですが、それでも1つの物語としてはよくまとまっており、読後感も良好です。ノーマルエンドも、寂しいと言えば寂しいのですが、あれはあれで立派に1つの生き方なのではないかと、妙に考え込んでしまいました。凝った伏線、派手な展開がなくても、物語作りの基本を大切にするだけで、しっかりとしたストーリーになるという、いい見本のような作品です。

ツールはティラノスクリプト(ビルダー)。前作同様「コミPo!」というソフトで作られているらしく、漫画のような凝った1枚絵の構図が、演出として非常に効いていました。エンディングは上に書いたように3つ。グッドエンド、バッドエンド、ノーマルエンドです。攻略は難しくありません。全部読んでも20分です。短編のシナリオはこう組めというお手本のような、よく出来た物語でした。主人公が10年で老けすぎなのではないかと思いましたが、グッドエンドの幸せぶりには頬が緩みます。読んでハッピーになれる短編をお求めの方にお薦めします。
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Comments 2

m某  
作者です。

 こんにちは、作者です。
前回に引き続き、嬉しいレビュー有難うございます。

 既にお気づきかと思われますが、今回のノベルはサングラスをかけたストーリーテラーの出てくる「あのテレビ番組」の雰囲気をまとわせた内容になっています。
力量不足のため、あの番組のように巧みに伏線を敷いたり、あっと驚く展開を用意できなかったのは残念です。ですので、あくまで雰囲気という形でお茶を濁しています。(汗

1.なぜ「奇妙な物語」?
 ウィキペディアで「人形」を見てみると、愛玩や身代わりなど願いや呪いを受ける対象として、それこそ文明とともに歩んできた存在として書かれています。
コレほどまでに思念を込められた存在ならば、何か常ならざる話や世界が似合うのではないか……と、「奇妙な物語」をモチーフとしてお話を作り始めました。実際、人形をテーマにした話も何点か放送されていましたし。
「定期預金」という、一見よく分からないタイトルも、あの番組の雰囲気を模しています。

2.なぜ二作目を作成?
 折角おぼえたティラノビルダーの使い方を忘れないうちに復習しておきたいというのが一点と、もう一つがこちらのblogのレビューをはじめとする感想や、数こそ少ないものの積み上げられたダウンロード数・プレイ数などの、拙作のために時間を割いていただいた方々の存在。
YouTubeでも実況プレイされている動画を何点か見ました。ありがたいことです、確実に励みになっています。ただ、それに寄りかかってばかりもいられませんし、賞賛を期待することは毒にもなりかねないと感じています。

3.賞賛の功罪
 先にお話したように、誰だって褒められたいし評価されたいと思いますし、褒められて伸びる、やる気が出ることがあります。ただ、それが目的になってしまうとどうだろう?と。
現在追っかけている若手の漫画家さんによる作品「モディリアーニにお願い」(美大生のお話)では、次のようなセリフがあります。

   この絵、大賞を取るためだけに描いたよね?
   絵は自分よりも自分だよ。
   好かれるためにゆがめたら、
   それは、もう
   自分じゃないんだよ。

 生活費のため仕事ならば、唇をかんで自分の主義やポリシーを曲げることもあるでしょう。シングルプレーヤーが接待のために、わざと池ポチャやOBを出すことだってあるはずです。しかし趣味ならば、何のしがらみもない自由な表現が行えるのならば、なにものにもおもねるようなことはしない方がいい。それこそ歪んでしまうのでは、と。
 不恰好で不出来でも、賞賛や流行、時代の要求などに構いもせず、作り手の言いたい事や思念を叩きつけられたものを作り続けられたらと常々思っています。

 ※モディリアーニにお願い 1|小学館
  美大生の話ですが絵を描く人だけではなく、例えば文章とか音楽とか、何かを創る人なら刺さる漫画だと思います。1話目試し読み出来ます。
 https://www.shogakukan.co.jp/books/09187894

4.落とし所と上げ所
 レビューテキストに見られた「落とし所と上げ所」ですが、おそらく本作品が漫画からスタートしたからではと思います。
あらすじを作り、決められたページ数にページごとにお話を割り振る。大きな場面展開や盛り上げどころはページをめくった時にドーンとインパクトを……そんな作り方がよい面として反映されているのでしょう。文章先行でも画像先行でも、ノベルゲームを作られる方は小説的アプローチから作られる方が多いでしょうから、そういうページ毎の切り替え的なお話の展開をしないのでしょうね。

5.主人公が10年で老けすぎなのでは?
 不幸感を出したくてああなりました(笑
使用している「コミPo!」で用意されているキャラクターでは、塩梅の良いデザインがあのおじさんしかいなかったのです。これはコツコツと手描きで作られている作家さんを素直に尊敬します。凄い!偉い!
でも、ノベルゲームの本流は文章だから!(負け惜しみ・笑

6.最後に
 レビューテキストにつられて長くなってしまいました。ご容赦ください。
フリーノベルゲームは、三作品作って一休みです。
作りたいネタは幾つかストックしていてつらつらと書き出してはいるのですが、いつになるやらといったところで、少し充電するのもいいかなと感じてます。
他の方の作品をプレイして刺激を受けるのもいいかもしれません。

 今作もレビュー有難うございました。
「十年複利の巡り合い」、「人形の呪いと祝福ノベル」というテキスト、グッドでした。

2020/03/05 (Thu) 01:25 | EDIT | REPLY |   
NaGISA  
>>m某さん

コメントありがとうございます。作品の裏話、大変興味深く読みました。確かに「世にも奇妙な物語」風ですね。そう言われれば、タイトルにも納得です。

また、今作が漫画から始まったため、ページをめくったときのインパクト云々のお話も、なるほどと思わされました。文章畑、あるいはゲーム畑の人にはない発想で、それがこの作品の明快なメリハリに結びついているのだなと、改めて感心させられました。

レビュアーとして、作者さんから反応をいただけるのが一番嬉しいことです。ありがとうございました。もう1本の作品も時間を見てプレイいたします。また、新しい作品をプレイできることも楽しみにしていますね。

2020/03/08 (Sun) 23:49 | EDIT | REPLY |   

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