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第794回/こんなに綺麗な去年の涙 - 夏色シロップ専門店(kiji)

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夏色シロップ専門店

夏色シロップ専門店準推薦
■制作者/kiji(ダウンロード
■ジャンル/魔法使いと少女の夏だけ恋愛ノベル
■プレイ時間/40分

小学3年生の少女ミツキは、夏休みのある日不思議な店を見つけた。その店にいたのは、色白で背が高い、白川という男がただ1人。白川はやたらとミツキを子供扱いするが、出してくれたジュースはとても美味しかった。ミツキは白川に白樺というあだ名をつけ、夏が来る度にその店に通い続ける。文章の美しさに痺れる、現代ファンタジー恋愛ノベル。

ここが○

  • とにかく文章が素晴らしい。
  • だんだん大人になっていくミツキの心情描写がいい。
  • 登場するシロップがとても美味しそう(笑)。

ここが×

  • 子供の頃のミツキが、ちょっと子供っぽくない感じが。
  • 誤字や誤変換が少し多い。
  • 終わり方が少々呆気ない。

■こんなに綺麗な去年の涙

今回も少し前の作品です。タイトルからも分かるように、夏が舞台の物語です。最近は字だけの作品が非常に少なくなりましたが、この作品は立ち絵も1枚絵も出てこない、純粋に字を読むだけの作品です。しかし地味な見た目なのですが、内容は素晴らしく、大変感銘を受けました。こんな作品を見落としていたとは……。こういうことがあるので、定期的に少し前の作品をチェックしにいくのは、怠ってはいけませんね。

読み終わってから気付いたのですが、この作品の作者さんは「ブルースクリーンの恋人」を作られた方です。あの作品は普通の意味でのノベルゲームではなかったのですが、にもかかわらず強い余韻となんとも言えない悲しさを描き出していた稀有な物語です。そしてこの作品は普通のノベルゲームなのですが、なるほど「ブルースクリーン」を生み出せるようなセンスの方が、普通の文章でノベルゲームを書いたらこういうことになるのかと、読了後にもう一度唸らされた次第です。

夏色シロップ専門店主人公は小学3年生の女の子、ミツキ。ある日図書館で借りた本の間に、カードが挟まれているのを見つけます。そのカードに書かれている地図を頼りにその場所に行ってみると、そこにあったのは喫茶店風のお店。そして出てきたのは、エプロン姿の背が高い色白の男性。男性に導かれて入ったそのお店で飲んだジュースは、びっくりするほど美味しかったのですが、その男性白川は、自分を魔法使いだと名乗るのです。白川に白樺というニックネームをつけたミツキは、それからそのお店に通い続けますが……。

こんな出だしです。読み始めてすぐ気付きますが、とにかく文章が見事です。決して、殊更に難しい語句を使っている訳ではありません。やたらと修飾語を連発している訳でもありません。なのに、語られる表現の1つ1つが、この作品世界にはこれしかないというほどに美しいのです。フリーのノベルゲームで、これほど文章に感心したのは初めてのことです。

いい文章はたくさんありましたが、2つだけご紹介します。序盤で、夏しか開いていない白樺の店が、秋になって閉店してしまったのを見た時のミツキの一人称による心情描写。「胸と喉から、兎が鳴くみたいな、小さな声がした」。胸にぽっかりと穴が空いたような、小学生の女の子の寂しく悲しい気持ちを、これ以外のどんな言葉で表現しましょう。これを読んだ時、私は「この作品はただものではない」と感じました。もう1カ所、白樺が見知らぬ女性といる時のを見つけた時の、「明日来よう。なんとなく、明日がいい」も、たったこれだけでミツキの複雑な心境が伝わってくるような文章です。

とは言え、序盤は小学生の一人称にしては、ちょっと子供っぽくなさすぎるような気もします。最初は「え、これ主人公小学3年生なんだよね?」と、読み返して確認したほどです。もう少し序盤は子供らしさを前面に出し、文章でも徐々に成長を表現した方が、よりこの作品の良さが際立ったように思いました。

さて、この物語の舞台である白樺の店は、夏しか開いていません。なので物語は夏が終わればまた次の夏という具合に、どんどん進んでいきます。序盤は少し子供らしさを感じさせなかったミツキですが、中学生、高校生と歳を重ねるにつれ、恋する乙女の微妙な心情が、その年齢なりの巧みな筆致で描き出されています。それでいて、彼女の芯の部分は変わっていません。最初から最後まで、この作者さんの描写力には感心させられっぱなしでした。

作中、色々なシロップが出てきます。これがまた実に美味しそうなのです(笑)。そしてそのシロップを作る過程が、幻想的で実に美しい。文章だけなのに、その様子がありありと想像できます。そして涙のシロップが、時間が経てば美味しくなるというのは、本当に素敵な言葉ですね。背景画像も、単色で主に飲み物をアップで写した場面ばかりですが、これがまた作品の雰囲気にぴったり合っています。

ラストは、かなりあっけなく終わります。もう少し引っ張ったり、もう少し盛り上げたり、色々出来たように思い、そこは少し拍子抜けでした。まあ、あまりくどくど語るのも逆にそれまでの詩的な美しさにマッチしないような気もしますし、あれくらいあっさりとした幕引きの方が、この作品の世界観には合っているのかも知れません。それでも個人的には、ラストにはもう一捻りが欲しかったように思いました。あとは、文章が素晴らしいだけに、少し誤字脱字が多いのが気になりました。

ツールはYU-RISです。プレイ時間は、急いで読めば30分かからないでしょうが、この作品を急いでさっさと読むのはあまりにもったいない。作中に登場するシロップを味わうくらいのつもりで、一文一文噛み締めながら読むことをお勧めします。それでも1時間はかからないでしょう。選択肢のない一本道です。調べたらこの作者さんは、他にもかなり多くの作品を公開されてるんですね。他の作品もチェックしてみたくなります。とにかく、「文章を味わう」のがお好きな方ならば絶対に楽しめると思います。是非読んでみてください。
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